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73・長話につかまる

「やめなさい!」


 先ほどから状況を理解出来ずにいたフォスタリアが、弓騎士たちの謝罪より先に大声を上げた。


「納得できません。何ですか、あなたのその声は!」


「私の声ですか?」


「そうですよ! 睡眠薬を浴びすぎたせいですか? 女みたいではありませんか!」


「……睡眠薬? 私は睡眠薬などなくても、たくさん寝ていられる女ですが……」


「女!? まさかあなたの正体は、竜びいきの殿下ではないのですか!?」


「竜びいきの殿下、とは」


(あっ。もしかしてこの人は、私をクレイだと間違えていた方かも。何か怒っているようだし、長話も好きそうだし……つかまる前に早く、ヴァルドラの手伝いに戻ったほうがいいかも)


「では、突然ですが。私はこれで……」


「待ちなさい!」


 フォスタリアにも一応羞恥心はあるのか、動揺に声を張り上げ言い訳する。


「あなたが兜をかぶって顔を見せないせいで、私が人違いをしてしまったではありませんか! 怪しすぎます! あなたは一体何者なのです!?」


「私はただの人間の女です。では、友達が空で待っていますので、ここらへんで結界石を利用して退散しようと……」


「ですから待ちなさい! いいですか! 鎧兜を身にまとって竜と共に魔獣と渡り合い、見事な結界術と転移術まで使いこなす女性なんて、初めて見る怪しさですよ!」


「そう言われてみると……」


「怪しいやつは何を言っても怪しいのです! 殿下でないとはっきりさせるために、顔でも出したらどうですか!!」


(この人、まだ私のことをクレイだと疑ってるんだ。あとやっぱり話が長いみたい)


「わかりました。凡庸なものではありますが、よろしければどうぞご覧ください」


 ティサリアは緊張しながら兜を取った。


「「「お前は……!」」」


 ありふれた金髪碧眼の女性の顔に、弓騎士たちは皆一斉に声を上げる。


「踊り子のブリジット!」


「メイドのマチルダ!」


「薬師のアニー!」


「魔術師のイザベラ!」


(やっぱり間違えるんだ)


 ティサリアは予想通りの結果に少しほっとして、腰の辺りに兜を抱えたまま一礼をした。


「今は正体を隠したいので、名を明かすのはご容赦ください。では私はこれで」


「ですから待ちなさい!!」


「長話も楽しいとは思いますが、こうやって顔も確認していただけましたし、ヴァルドラが心配しているはずなのでそろそろ……」


「いいえ言わせてもらいます! あなた、私の飛空船に勝手に立ち入って、何か言うことはないのですか!」


「あっ、お邪魔します!」


「違います! その前にまず私への賛辞でしょう!」


「えっ!? そういうものですか? しかしそれは……」


 ティサリアは自信なさげに声を詰まらせたが、フォスタリアはなおも要求する。


「私の飛空船へ来たのですよ? 容姿でも振る舞いでも才能でも、とりあえず私のことを何か褒めなさい!」


「そ、そんな……」


「さぁ遠慮せず言いなさい!」


「……」


(どうしよう。私の基準がクレイになっているせいなのかな。この人の良いところが全くわからない)


「えっと……」


「まだですか!?」


「……」


「全く、あなたのような非常識な者いるから、私の部下に悪影響が出ています! 騎竜隊を作るなどと言い出す、クレイルド殿下のような愚か者が増えて、私は本当に迷惑しているのです!」


「いいえ、それは違います!!」


 先ほどまで口ごもっていたティサリアが、突然力強く否定した。


「ち、違……?」


「はい、違います! あなたの言っていることは完全に間違っています! クレイは愚かではありません、絶対!!」


 その眼差しに気圧されて、フォスタリアは目を白黒させて身を縮める。


「騎竜隊の編成案は人に迷惑をかけるためではなく、たくさんの方たちと意見を交換し、アルノリスタのためにまとめたもののはずです! 自分の利益だけを考えて作られたのではありません!!」


 ティサリアはフォスタリアへと一歩足を踏み出した。


「ひっ!」


「クレイはアルノリスタを良くしたいと願っています! だって彼は、一緒にいる相手を楽しませることが好きな人なんです! 理不尽を受けた相手に心を痛める誠実な人なんです! 見ているこっちが心配なくらい、愛情深い人なんです! 愚かだなんて、絶対にありえません! 私が心から尊敬する人です!!」




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