70・明るい声援
「しかしなぜ、竜がガーゴイルと争って……っ! 見ろ! 二股の尾を持つ竜だ!!」
「ではあれが……人を襲う魔獣を追い払ってくれる、アルノリスタの守護竜なのか!?」
「間違いない! 守護竜は背に何者かを乗せていると聞いたが、あの竜騎士のことだろう!」
「すごいぞ! 俺たちにはアルノリスタの守護竜がついているんだ!」
「よし! 邪魔にならなければ、俺たちも援護しよう!!」
その後もヴァルドラが技を放つたびに、士気の上がった弓騎士たちの明るい声援が湧き、それはふたりの所まで届く。
ヴァルドラは黙っていたが、嬉しさと照れくささでそちらの方を見れないのがティサリアにはわかり、つられて笑顔になった。
(ガーゴイルたちが疲れて去っていくまで、少し時間はかかるかもしれない。だけどヴァルドラは余裕があるし、私の魔力もクレイからもらったアミュレットで増していて、温存できている。弓騎士さんたちも応援してくれているし、きっとうまくいくよ!)
弓騎士たちが上空を見守る背後で、船内へ続く扉が開く。
上流騎士のようなマントをひるがえし、若く小柄な男が甲板へ現れた。
そしてこれから起こることを隠すつもりなのか、しっかりと扉に施錠する。
「魔獣は撃ち落とせたのですか?」
「フォスタリア公爵閣下……それはまだですが、」
「まだ? まだ撃ち落とせていないのですか! 大砲に魔弾を詰めろと、砲兵に命じたのでしょう!?」
「……はい。魔弾装填には時間と魔力が必要だと、以前にも聞いていた説明があったため、その間は弓でけん制して時間を稼ぐことになりましたが……見て下さい!」
フォスタリアは弓騎士たちに示された上空を睨んだ。
そして竜と、その背に乗る鎧兜をまとった人物に目を留めると、信じられないものを前にしたかのようにうめく。
「ど、どういうことですか! 先ほど卑怯な手を使って眠らせたはずだというのに……なぜそこに!?」
その狼狽ぶりに弓騎士たちの注目が集まっても、フォスタリアは我を忘れて空に叫んだ。
「い、いえ! それより覚えているのでしょうね! 私が両穴から鼻血を噴き出した記憶は忘れろと言ったことを!!」
弓騎士たちは揃って、フォスタリアの鼻下をまじまじと見つめたが、フォスタリアがきっと睨みつけたので慌てて視線をそらす。
「お前たちはなぜ甲板に突っ立ているだけで、私の秘密を知っている殿下に……い、いえ! 邪悪な竜に矢を射ないのです!?」
すると弓騎士たちが、強い口調でかわるがわる反論した。
「閣下、あの二股の尾をご覧ください! アルノリスタの守護竜です!」
「ガーゴイルに襲われているこの飛空船を、あの竜が守ってくれているのです!」
「今は竜が嫌いだと、駄々をこねている場合ではありません!」
「あれほど皆が扱いづらいと反対した魔導砲に、閣下の指示で魔弾を装填しているため、現在の飛空船は動力が奪われているのです。前進もできず魔法防壁まで解除されていて、とても無防備な状態なのですよ!」
「我々は守護竜を援護します!!」