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7・妹のマイリーン

 ***


 隣国の夜会で人違いにあい、帰宅した翌日のこと。


 平和な日々に戻ったかと思ったのもつかの間、ティサリアは部屋に押し掛けてきた妹のマイリーンに、夜会で起こった出来事を根掘り葉掘り聞かれていた。


 マイリーンはティサリアの三つ下で、お見合いの要素のある夜会は少し早いため招待されなかったのだが、姉は参加して自分だけお留守番だったことに、随分不満を募らせているように見える。


 そんな妹の思いが晴れればと、ティサリアは浴びせられる質問に答え続けていたが、マイリーンはその内容が気に入らなかったらしく、いつの間にか驚くほど不機嫌になっていた。


「ありえないわ!」


 我慢ならないといった風に、妹の高い声が上がる。


「ああっ、なんて不愉快なのかしら! お姉様は大人しく家で留守番をして、私が代わりに行けばよかったのよ! そして最高に楽しい夜会にしたかったわ!!」


 マイリーンは道を歩けば人が振り返る華やかな美貌を激高に歪ませて、淑女らしからぬ吐き捨てるような口ぶりで言う。


「私が行けば、お姉様に婚約破棄を突きつけた愚かな男を見つけ出して、そいつを楽しくいたぶって差し上げたのに! ふんっ!! そんな男は魅了の呪いに囚われたまま、徐々に苦しみ悶えれば良かったのよ!!」


 ティサリアは目立つことが苦手な自分を心配するあまり、妹の怒りに火がついていると気づいて慌てた。


「マ……マイリー、私は平気だから。ただ人違いにあっただけで」


「人違いだとしても、きちんとした確認もせず、たくさんの人の前でお姉様を侮辱したのよ! 私が助けに行けないからといって、お姉様をそんなひどい目に遭わせるなんて! ヒールのかかとで踏みつけてやりたいほど腹立たしいわっ!」


 マイリーンは我慢ならないのか、大きな瞳をつり上げて地団駄を踏んだ。


「それにそれに! 昨夜のメイクで華やいだお姉様の上品な雰囲気に、あのコバルトブルーのドレスは最高に似合っていたの! 夜会にきらめくそのお姉様を、一番素敵に見える斜め後ろの角度から拝みたいと、私がどれほど願っていたか! あんなに魅力的なお姉様を見て追放だなんて、その愚かな男は目玉が腐り落ちているのかしら!? 落ちればいいわ!!」


(わわわ……マイリーが腐食の呪術を習得していなくて良かった……)


 ティサリアはお茶会などの噂話で、両親を味方につけた妹から嫌がらせを受けている令嬢の話を聞いて、胸を痛めたこともある。


 しかし自分の妹であるマイリーンからは、想像すらできないことだった。


 マイリーンはよちよち歩きはじめるような小さい頃から「おねえしゃま、だいしゅき!」「おねえしゃま、かあいい!」「おねえしゃまをいじめる、ゆるしゃない!」と、いつも姉の後追いをするような子だった。


 内気なティサリアが理不尽な目に遭って動けなくなると、それがどんな相手でも、ためらいもなく飛び出して守ろうとしてくれる。


 マイリーンはティサリアにとって、自分とは全く違う気質を備えた、美人で快活で大切な妹だった。





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