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64・ひそかな慈善活動

 *


 雲海を突き上げ、鮮やかな緋色の翼竜が浮上した。


 青空に舞い上がったヴァルドラは、氷のブレスを噴き上げる。


 日差しを受けて、空に広がる粒子がまばゆく散らばった。


「わっ! 冷たいっ!!」


 彼の背に乗ったティサリアは、眩しさと冷たさに明るい笑い声をあげる。


「これをかけられたら、魔獣たちもびっくりして逃げるね」


『まさか! あいつらを驚かせるときは、こんなお遊びではすまない』


 ヴァルドラは再び透明なブレスを噴き上げた。


 ティサリアがヴァルドラと連れ立ち、町を襲う魔獣を追い払うようになってから半年ほど経つ。


 それは空の散歩中に偶然、町が魔獣に襲われているのを目撃したことから始まり、その後も似たような場面に遭遇するたび続けていた。


 ティサリアから見ると、アルノリスタの大形魔獣が町を襲う頻度は、自分の住む国より明らかに多いと感じる。


「アルノリスタでは竜が討伐されて少ないから、天敵のいなくなった魔獣が増えすぎているのかな?」


『そうだとしても……俺たちだけで見回れる範囲は限りがある』


 その口ぶりで、彼が本心から人間を案じているのが伝わってきた。


「ヴァルドラは人が怖くないの?」


『……俺はあらゆる生物が恐れる竜だぞ。人間を怖がる理由なんてない』


「だけど小さい頃クレイを追いかけて会いに行ったら、たくさんの人に攻撃されて尻尾を怪我したんでしょう?」


『人は弱いから、群れるのは当然だ。幼かったとはいえ竜の俺が現れれば、恐れをなして攻撃するものだろう』


(そっか。ヴァルドラは人のことが嫌いになったわけじゃないんだ。むしろ逆で、だからあの場を去ったんだ……)


「ヴァルドラは育ててくれた人に似て、すごく優しいんだね」


『や、優しいわけがないだろう。俺は竜だ! 俺を恐れないのはお前くらいだ!!』


「そんなことはないよ。私だって、ヴァルドラのことは怖いし」


『俺のたてがみに乙女趣味なリボンをつけて遊んでいるくせに、何を言っているんだ!』


「もちろん普段はかわいいよ。だけどヴァルドラって、本気になるとすごく迫力があるから」


 ティサリアはクレイルドが気に入ってくれた黄リンゴのパウンドケーキを焼いて、ヴァルドラに持って行ったときの食べっぷりを思い出し、身震いする。


 ヴァルドラもはしたなかったと思ったのか、少し恥ずかしそうに声のトーンが弱くなった。


『そ、それは仕方がないだろう……。あんなにうまいものは、生まれて初めて食べたんだ。次はいつ作ってくれるのかと、俺はわくわくして待っているんだぞ……』


 声が小さくなっていくヴァルドラの頭を、ティサリアはよしよしと撫でる。


「ヴァルドラは怖いところもあるけれど、それだけじゃないよ。この国の人だって、少しずつ気づいているんじゃないかな。はじめは襲っていた魔獣を追い払いに行っただけで、『竜が来た』って怯えていたけれど、最近はちょっと違う気がするし」


『……』


 ヴァルドラは口をもごもごさせて何か言うか言わないか迷っていたが、やがて小さく呟いた。


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