60・ふたつのアミュレット
クレイルドは自然な動きで、上着のポケットから小さな箱を出した。
そこから細い鎖の輪が現れ、温かい力が伝わってくる。
首飾りの形をした、竜鱗のアミュレットだった。
鎖の一端には夜闇を思わせる黒い結晶が飾られていて、窓から差し込む光が撫でると、オーロラを映しているかのように神秘的な光沢を揺らめかせる。
「これは向けられる攻撃的な力を軽減して、持ち主の力を高めてくれるそうだよ。受け取ってくれるかな?」
ティサリアは目の前のアミュレットの美しさに釘付けになっていたが、クレイルドからその竜鱗を取り上げてしまってもいいのかと、少しためらう。
「本当にいいのですか? ヴァルドラの竜鱗を譲ってくださるなんて……」
「あれ。ヴァルドラは火竜のような外見だと伝えていたのに、黒い竜鱗を見ただけでよくわかったね」
(はっ!)
「そっ、それは……!!」
ティサリアが真剣な顔で口をぱくぱくさせるので、クレイルドは辺りを見渡す。
「困ったな。パウンドケーキは全部食べてしまったし……」
「ちっ、違います! 私は金魚のように餌をねだっているのではなく、その竜鱗がヴァルドラの物だとわかった理由をお伝えしたくて……えっと、その!!」
そしてまたぱくぱくし始めたので、クレイルドは思い出したかのように頷いた。
「ああそうか。竜鱗は幼少期に取れるのがほとんどで、とても希少だからね。それに竜関係の物はアルノリスタではほとんど流通していないし、王室で買い付けることもしていなかったから、俺が小さい頃一緒に過ごした幼竜のヴァルドラのを持っていたと気づいたのか」
「そっ……そうでした!!」
「やっぱりね」
そういうことになる。
「だけど俺たち、気が合うと思うな」
クレイルドの言葉に、ティサリアも頷く。
「確かにそうですね。竜鱗のアミュレットを作って、偶然一緒に渡すなんて……」
「つけてもいい?」
「は、はい! ありがとうございます!」
跪いていたクレイルドは立ち上がると、ティサリアの正面に身を寄せ、長い腕を彼女の首の後ろにさっと回した。
彼から良い香りが流れたかと思うと、すでにティサリアの胸元にはヴァルドラのアミュレットが飾られている。
黒い竜鱗がティサリアの鎖骨より少し下に落ち着いていて、その鎖の長さや質感、細さが上品につりあい、彼女のデコルテのラインを華やがせた。
「ティサリアにこの色は暗すぎるかと心配していたんだけれど……杞憂だったな。雰囲気も変わるし、すごく似合ってるよ。なによりヴァルドラが君を守ってくれるしね」
「ありがとうございます。大切にします!! では私も……!」
(あっ……あれ!?)