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47・単純な想い

 今までやこれから、様々なことへ思考を馳せているクレイルドの背後で、ザックが舌打ちをした。


「ったく、また立場もわきまえず殿下に暴言吐いていきやがって」


 ラウドも白けた様子で相槌を打つ。


「あのお方、立場に関しては以前『クレイルド殿下は王子という立場におごって年長者に対する尊敬が』うんぬんと持論を展開されていましたね」


「あの言い草が尊敬される年長者のすることか? 会うたびに殿下が幼竜をかわいがっていた話を持ち出して、やたら横柄に出てきやがって」


「彼との接触は不運でしたが、ティサリア様に会っていたことを知られなかったのは幸いです」


「確かに。知れば間違いなく、邪竜を使役するマルエズ王国の令嬢だって、殿下を非難する材料として彼女を……」


 そこまで言ってから、ザックはしまったという顔で口をつぐんだため、ラウドが不自然ではない程度に話題を逸らす。


「おそらくフォスタリア公爵は自領内の税を上げていることで、生活が貧しくなりつつある領民に言い訳をしたいのでしょう。過去に竜と賊によって起こった蛮行のような被害を防ぐ建前で、趣味のようにつぎ込んでいる軍事費が膨れ上がるのは仕方がないと。そのため竜のイメージが強い殿下を目の敵にして、不満の矛先をそちらに向けさせたがっているのだと思います。公爵は領民に対して、古い体質の王権がフォスタリア領をないがしろにしても、若き公爵である自分がこの領を強固に守ると口癖のように言ってますし」


「若者やりたいのか年長者やりたいのか、はっきりしない奴だな」


「防衛も費用を過剰に投入する以外にやりようはありますし、まずは領地経営に心を砕くべきだと思うのですが……。さらに過去の竜討伐の実績にしがみついて、竜討伐を推進する発言権を振りかざしてくるのもはた迷惑ですし」


「ほら殿下、ああいうのに『竜討伐をする』ってしつこく粋がられるのわずらわしいでしょ? やっぱりティサリア様を一刻も早く、婚約者としてお迎えしたほうがいいですって」


 先ほどから一言も発さず、クレイルドが静かな思案にふけっていることに気付き、ザックとラウドは様子をうかがった。


 二人はクレイルドが胸の内を明かすことを、極度に避けていると知っている。


 今回も思うことはあったのだろうが、弱音を吐くようなことはないと踏んでいた二人の予想に反して、クレイルドはフォスタリアに言われたひとつの言葉を思い返し、重苦しく息を吐いた。


「少女のように女々しい容姿か……」


 ようやく出せた弱音がそれかい、と護衛騎士たちの心の声が重なる。


 しかし二人は、できうる限りの激励を忘れなかった。


「何言ってるんですか! 殿下は世界に誇る国宝級色男ですって。幼少期に美少女だと間違えられたくらい、贅沢な悩みですよ」


「そうです! 確かに少年時代は可憐すぎましたが、今は長身に凛々しい面立ちですから。女装でもしなければ美女とは誰も間違わないでしょう」


「おいこらラウド。殿下に可憐は禁句だ」


「あ、つい本音が。大変失礼いたしました」


 護衛たちがやいやい騒いでいるのを横目に、クレイルドは薄闇に包まれ始めた空を見上げて思案を続ける。


(ティサリアはよく人違いにあうと言っていたけれど、それもわかるな。ころころと表情が変わるから、見ていて飽きない。色々な顔を持っているんだ)


 今日も様々なことがあり、その都度に変わっていくティサリアの顔を思い出しているうちに、いつしかそれは静養していたギルバルトの邸館の隅で泣く少女の姿になった。


 あの子は今も泣いているのか、たったひとりで。


 その疑問に突き動かされ、はじめは幸せに暮らしているのかを知りたい一心で探していた。


(だけど本当は違ったんだ。俺は……)


 単純な想いに気づくと、心が軽くなっていくようだった。


 するべきことが定まったクレイルドは、清々しい顔をして斜陽に染まりゆく空を仰ぐ。


 そんな主人の後ろ姿を見やりながら、二人の護衛騎士は気づかわしげにこそこそ囁き合った。


「殿下は子どもの頃に美少女容姿だったこと、相当気にしてるんだな。トラウマでもあるのか?」


「そうだとしても仕方がありません。本当に愛らしかったのですから」


 護衛の二人は、主人が未だ少年時代のかわいすぎた見た目を思い悩んでいるのだろうと、大真面目に同情する。


 そして空を眺めることで気が済むのならと、小言もやめて気長に付き合うことで話はまとまった。





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