38・熱心な質問
クレイルドはその端正な輪郭を青空へ向ける。
「だけどその日は、俺と同じ年で下働きしている子が解雇されていたと知ってしまってね。どうしても謝りたくて、城を抜け出したんだ」
「その方に、何かしてしまったのですか?」
「彼が手入れをした木剣で俺がへまをして、ちょっとした怪我をしたことが解雇の理由だったんだ。彼の父親は体の調子が良くなくて、少しでも家にお金を入れるために働いていたことを知っていたから、俺は夢中で飛び出して……。だけど子どもだったというか、彼の家の場所について知っていることは『王城より西側で、隣に大きな栗の木がある赤い屋根の家』だけだったんだよ。会うどころか、家すら見つけられなかった」
クレイルドは友人と会うことも叶わずとぼとぼと戻る途中、何気なく立ち寄った時計塔の屋上で、中型犬ほどの大きさをしたオスの幼竜を見つけた。
「ヴァルドラは親とはぐれたんだろうな。見た目の傷は軽傷だったけれど、遠くから飛んできたのか妙にぐったりとしていて、近づいても触っても威嚇どころか抵抗すらしなかったよ」
この国で竜が見つかればどうなるかはわかっていたので、それから時計塔に通ってこっそり世話をすると、ヴァルドラはどんどん元気になっていった。
「そのうち、本で読んだ通りブレスを吐くような仕草を始めたんだ。だから焼きイモでも一緒に食べようと思って持参したら……凍てつく息吹でカチコチにされたよ。綺麗な緋色の竜鱗だったから、てっきり火竜だと思ったんだけど」
イモが凍ってがっかりしている少年のクレイルドと、見事な息吹を出せて得意げな幼竜が浮かんできて、ティサリアもつい頬が緩む。
「ヴァルドラの外見は火竜のようですが、潜在魔力は氷竜ということですよね。そんな竜、初めて聞きました。好む生育環境は火山帯なのでしょうか。それとも氷山? 意外と渓谷や小島かも……そうだ、角はありましたか? 鉤爪は何本ですか? 生え変わったりは?」
ティサリアの熱心な質問に、クレイルドの方が驚く。
「詳しいね、竜についてそこまで調べてくれたの?」
「それもありますが、先ほど話した竜騎士の友達との出会いがきっかけで知ったこともあります。その竜にイモを食べさせようとしたということは、好きな食べ物は根菜ですか? 趣味は? 特技は? 好みのタイプのメスは?」
クレイルドは声を上げて笑った。
「俺よりヴァルドラの方が興味ある?」
「えっ……え、いえ! その、すみません。時折呼ばれるお茶会でも、他のご令嬢たちは素敵な竜騎士の男性の話で盛り上がるのに、私はこんな感じで彼らの乗っていた竜のことばかりが気になって……。みなさんの好きな話題についていけた方が、話も弾むとは思うのですが」
「いや、俺は竜の話をしてくれた方がいいな」
その言い方がどことなく親しげで、ティサリアもほっとする。