36・懐く護衛たち
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クレイルドに案内されて、賑やかな街通りの一角までやって来る。
そこからひとつ奥の路地に入ると古い建物が増えて、景観に歴史の深みが増した。
「ここだよ」
クレイルドはレンガ造りの建物のひとつに近づき、鍵を開けて中に入る。
そこは荷物のない倉庫のように殺風景だった。
広さはそこそこだが、頭上は空洞の塔のように見上げるほど高く、階段が壁に沿うように上へ上へとぐるぐる伸び続いていた。
クレイルドは護衛たちに「ティサリアと上で景色を見たり話したりしてくるよ」と、一階での見張りを頼むと、また小言を浴びせられる。
護衛たちは令嬢であるティサリアの体力や、階段を上る負担を気づかっているらしい。
クレイルドもティサリアのことを言われると、適当に受け流すことは出来ないらしく閉口したので、ティサリアが助け船を出した。
「私はこう見えても、マルエズ王国の令嬢の中では二番目に体力があると自負しています! 高い所も体を動かすことも好きなので、ぜひ上ってみたいです。もちろん、無理はしないと約束します」
そう頼むと、護衛たちは大人しく一階に残ることにしてくれる。
クレイルドはティサリアに手を貸し、壁伝いに階段をのぼりながら、しきりに感心していた。
「ティサリアがいてくれると、あいつらもずいぶん聞き分けがいいなぁ。普段なら他の人と上るなんて話したら小言なしで止めるし、それが出来なければ絶対ついて来るのに」
「そうなんですか? でも二人は任務以上に、クレイルド王子のことを考えて行動してくれているのが伝わりますよ。私のことを気にかけくださったり、今も自由にさせてくださったり、もちろん小言も。あなたをいたわっているというか、羽を伸ばさせてくれているというか……」
「君は相変わらず、人をよく見てるね」
数階上って息が切れてきたところで、壁際に少し広めの踊り場が現れた。
ティサリアは手すりにつかまり、上って来た場所を見下ろすと、一階にいる護衛の二人がこちらを見上げている。
元気な姿を見せれば安心してもらえる気がして手を振ると、丁重な礼で返してくれた。
背後から気持ちのよい風が吹き込んでくる。
振り返ると、踊り場の壁の中央にはめ込まれた大窓をクレイルドが開けていた。
「どう? ここにはいい風が吹くんだ」
ティサリアは胸の位置まである壁に寄ると、窓の外を覗き込む。
「わぁ」
遠い足元に、人々が往来する大通りが広がっていた。
その先に続く新緑の街路樹に彩られた石畳の道と、赤い屋根の街並みと、快晴を映している水路の姿が調和していて美しい。
窓から街を見下ろすティサリアの隣に、クレイルドも並んだ。
「よかった。花束よりずっと嬉しそうだ。今回はティサリアを喜ばせられたかな?」
ティサリアは前回、クレイルドとの再会に驚きすぎていて、贈られた見事な花束に喜ぶ余裕がなかったことを思い出す。
「あ、あれは状況について行けなかっただけで、嬉しくないわけでは」
(そういえばクレイは「次は一番喜ばせられるものを考えておくって」言ってくれていたような……)
ティサリアは改めて、大窓に切り取られた世界を望む。
何気ない日常が詰めこまれているような、ごくありふれた風景の美しさがそこにあった。
「ここはあなたの特別な景色なんですね」
「気に入ってくれた?」
「はい! それに私、こんな目の覚めるような青空はもちろん好きですが、花も好きなんです。いつもありがとうございます」
活気に満ちた鮮やかなアルノリスタの城下を眺めながら、ティサリアはまだずいぶん上へと続いているこの建物の正体に気づく。




