34・数少ない友達
「私の友達は、すごくかっこいいんです!」
ティサリアの意外な第一声に、クレイルドは真顔になる。
しかしティアリアはその変化に気づかず、身振り手振りで友人について話し始めた。
「その方は私より三つ年上でまだ二十歳ですが、すでにマルエズ王国の竜騎士団の第一部隊に所属している、才能にあふれた方なんです! 竜にまたがって空を突き抜ける姿は、誰もが見とれてしまう迫力です。私の憧れの人です!」
ティサリアの熱い友人語りを聞いているうちに、クレイルドの表情が徐々に曇っていく。
「ティサリアはその竜騎士に……憧れているのか」
「はい! あ、でも竜騎士としてだけではなく、騎乗していない時も素敵なんです。気品があるのに勇ましさが伝わってくるというか……。私もあんな風に颯爽とした振る舞いをしてみたいです」
「そいつと二人で屋台とか行って……分けて食べてるのか」
「はい! 忙しい方なのですが、時間が空くと誘ってくれます。マルエズ王国では、特定の広場にたくさんの移動屋台が並んでいて、色々な方が気軽に立ち寄れて賑やかなんです。友達はよくビールを頼むのですが、あまりお酒に強くないのかすぐほろ酔いになり……でもそのほうが居合わせた人と会話が弾むみたいで、普段は怖く思われることもあるのですが、その時は意外と陽気な一面を見れて楽しい人なんです。それに竜のお世話をしている時は無邪気になるというか、かわいいところもある人なんです!」
そこまでまくしたててから、ティサリアはクレイルドが珍しく、険しい表情で眉間を寄せていることに気付いた。
(はっ。調子に乗ってしゃべりまくってしまった)
「す、すみません。彼女は私の数少ない令嬢の友達なのですが、その話をするとあまり喜ばない方もいるので……。クレイルド王子が聞いてくれたのが嬉しすぎて、つい夢中になって話してしまいました」
「……令嬢の友達?」
「はい、彼女はマルエズ王国の侯爵令嬢です。貴族の令息は竜騎士になると讃辞を受けるのですが、令嬢はそうとも限らないので……」
「そうか、令嬢だったのか」
「すみません。隠していたわけではないのですが、いつもの癖で無意識に伏せて話していたのかもしれません。それに王子が聞いていないことまでぺらぺらと喋って……」
クレイルドは先ほどの渋面を緩ませて、小さく息をついた。
「そんなことはないよ。聞けてほっとした」
「心配してくれてありがとうございます。友達は本当にいい方なので安心して──っ」
ふとクレイルドの顔が迫って来る。
そしてティサリアの手に残っていた食べかけのクロワッサンを、ぱくりと頬張った。
あっけにとられたティサリアの前で、クレイルドは機嫌を直した様子でもぐもぐやっている。
「うん。こっちもうまいな」
ティサリアの脳裏に、アルノリスタ王城で盗み見た、第一王子と彼の婚約者のやりとりが脳裏によぎった。
(確かにこれは、緊張する……)
しかし青ざめながら震えていた第一王子とは対照的に、ティサリアは真っ赤になって固まっていた。