22・父の挨拶
なぜマイリーンはそこまではっきりと、クレイルドが自分の理想の相手だと言い切るのか。
どうにも気になるが、聞けば彼に対する想いが確定してしまうような、後に引けない予感にさいなまれる。
ティサリアの胸は重苦しい動悸に打たれ、嫌な汗まで出てきた。
「お姉様、目が泳いでいるわ」
「マイリー、あのね……そういう暗示は、私にかけない方向で……」
「それならお姉様自身に聞くわ。どうしてそこまで動揺しているの? クレイルド王子がお姉様の理想の相手だって気づいているの? それとも気づいていないの?」
「も、もちろん……な、何のことだか、私にはさっぱり……」
「気づいていないのね! じゃあ思い出してみて! 彼は──」
「わっ! 待って!! 待ってマイリー!!!」
「──っ、お姉様?」
「そうだ! 私、お父様に大切な話があったの! おやすみなさい!!」
逃亡者のごとく走り去った姉を、マイリーンはあっけに取られたまま見送る。
「お姉様、相変わらず迷いのない走りっぷりが美しいけれど……本当に気づいていないのかしら。クレイルド王子がお姉様を……『自分のことを間違えずに見つけてくれる人』だってこと」
*
「ティサ、こんな遅くにどうしたんだい?」
夕方から出かけていた父を廊下で待っていたティサリアは、ほっとした様子で歩み寄った。
(よかった。お父様がなかなか帰って来なくて心配だったけど、事故に遭ったわけじゃなかったんだ)
父は言わないが、唐突にクレイルドを招くことになった諸々の手配を頼んだ代わりとして、今夜は顔を出す用事ができたらしい。
「お父様、私のためにこんなに遅くまで出かけていたんでしょう? ありがとう」
「ティサが気にすることはないさ。僕に話でもあるのかい? ずいぶん待たせてしまったようだね」
「いいの。その……少しひとりになって、気持ちの整理をしたかったし」
「今日は色々あったからね」
父はティサリアの胸の内に言及しなかったが、ティサリアは自分の動揺を見透かされているような気持ちになる。
「お父様は、私を暗示にかけようとはしないよね?」
「さぁ、どうかな」
わかっているのか、いないのか。
疲れも見せず、軽くおどけてみせる父と並んで歩く。
「だけどお父様、今回は余計な心配まで増やしてごめんなさい。私が来て下さる相手を第一王子だと人違いして、第二王子に対する警戒心を煽るようなことになってしまって」
「それも気にすることはないよ。夕食の時にも話したけれど、王子違いだということはわかっていたんだから」
しかし手紙のやりとりをしているうちに、父は相手の思惑に気になることが増えたため、娘にも余計なことを言わず、会うまで黙っていたらしい。
「あれはやって来る相手に対する、僕流の挨拶なんだよ。僕の大切な娘に近づくのだから、そのくらいの洗礼に応えてもらえるようでなくてはね」
父は家族のためなら、笑顔でそんなことを言う。
「だからわずかな回数とはいえ、心を込めてクレイルド王子と手紙のやりとりをしたよ。あちらからの返事はなかなかでね、僕が聞きたいことは全て回避された。僕には何も明かすつもりがなかったらしい」
(クレイ……)
含みのある父の言葉に、ティサリアは何も言えない。
そしてクレイルドが父に事情を伏せたのは、ティサリアを困らせないためにと配慮してくれた、彼の思いやりだということもわかっていた。
(どうしよう。私に配慮したせいで、クレイがお父様に悪い誤解を受けてしまったら……)
黙って悩み顔をしているティサリアに気づくと、父は安心させるように笑みを浮かべる。
「だけど彼はいいね」
「えっ?」




