21・探していた人
「そうだったわ! 応援には長が必要よね! 本人から任命されたのだし、私は喜んでお姉様の応援団長を引き受けるわ!」
「ん? う、うん。ありがとう」
予想以上の勢いでマイリーンから生気がひしひしと芽吹いているが、いつも通りの妹に戻ったので、細かいことは気にしないで喜んでおく。
(マイリーは昔から変わらないな……って、そうだ。クレイと会ったことがあるか、マイリーにも聞いておこうかな)
いつも自分の後をついてきたマイリーンなら、あの曾祖父の邸館で過ごした時期、ティサリアと会った人を覚えてている可能性は高い。
「ねぇマイリー、私たちがまだ小さい頃、ひいお爺様の所へ遊びに行った時のこと覚えている?」
「ええ! 絵画のような大自然に囲まれた邸館で、お姉様を追いかけたあの夏は最高の思い出よ!」
(私以外の人は、覚えているのかな……)
少し不安に思いながらも聞く。
「マイリーも色々な人と会ったはずだけれど、その……クレイ、ルド王子のような人っていたかな?」
マイリーンはぱちぱち目をしばたかせる。
「いたかしら? 私はまだ小さかったし、少し会った程度の方はきれいさっぱり忘れているわ。ただお姉様に失礼を働いた奴らなら、今でも覚えているから安心して。食べていたお菓子を落としただけで責めた赤毛のベンに、花壇を踏み荒らした別の子と勘違いして怒鳴ったザバス爺に、自分が置き忘れていたくせに財布を盗んだと癇癪を起こした……」
「わわわ、マイリー、人は忘れる生き物だよ。忘れてもいいんだよ!」
(だけどこの様子だと、マイリーもクレイには会っていなさそうだな)
少し残念そうなティサリアに気づき、マイリーンは蘇っていた怒りを静める。
「でもお姉様、よかったわね。クレイルド王子はお姉様が探していた人だもの」
「……私が探していた?」
「ええ。そうでしょう?」
ティサリアはわざとらしくマイリーンから目を逸らす。
(まさかマイリーまで、私がクレイを好きになるように暗示をかけてくるなんて……)
「わ、私はそうだな。カル兄とかが一般的な理想の人だと思うというか。穏やかそうというか」
暗示に抵抗するため、無難に素敵な人物を挙げる。
マイリーンもよく遊んでもらった従兄の名前に、大きく頷いて賛同した。
「確かにカル兄様は控えめな好青年だわ!」
「やっぱりそうだよね」
「だけどクレイルド王子はお姉様にとって特別よ。彼の目は間違いないもの」
(……)
「た、確かに。彼は人の喜ぶ贈り物を見つけるのが上手だし、人違いはともかく、マイリー好みの珍味を見つける目がある人だよね!」
「お姉様、まさか気づいていないの?」
「な、何のこと?」
「それはもちろん、彼がお姉様の理想の男性だってことよ」