2・どれをとっても『無難』だけれど
「ティサ、一体何が……君は大丈夫なのか?」
「私? 久々だし慌てていたし、ちょっと荒療治だったけれど。でも無事に解呪できたし、問題なさそうだよ」
「解呪だって!?」
「わわっ、声が大きい」
ティサリアが自分の唇の前で人差し指を当て「しーっ」と言いながらたしなめると、従兄のカルゼはあんぐり開けた口を閉じて、小さく咳払いをする。
「……最近殿下の様子がおかしいと言われていたんだ。つまり、何か悪いものでも施されていたのか?」
「うん。妙なものがくっついていたみたいだけど、もう平気だよ。そのうち目を覚ますだろうし。ただ今まで夢中になっていた方への気持ちも消えていて、はじめは混乱すると思うけれど」
「だけどどうして、ティサに解呪できるような力があるんだ?」
「ほら。前に話したの、覚えてる? 私が呪術師の弟子と間違えられたこと」
「……まさか、そのまま呪術師の弟子として習得したのか?」
「だってこのまま誰にも継承できなかったら、術が途絶えてしまうってすごく困っていたから……。でもそのおかげで今助かったし、教えてもらえて良かったよ。あまり目立ちたくないから、もう帰るけどいい?」
「もちろんだよ。だけど」
カルゼは頷きながら、本当に残念そうな顔をした。
「本当にすまなかった。わざわざ隣国から呼び出して、こんなことになってしまって……」
「気にしないで、私だってみんなと会いたかったの。それにもう十七歳になったのに、こういう場に一度も出ないのは目立ってしまうでしょ? だから招待してもらえて、いい経験にもなったと思うよ。でも騒いでしまったね。ごめんなさい」
「謝る必要はないさ。完全にとばっちりだったんだから。だけどティサは、本当によく間違えられるな」
カルゼがまじまじと見つめるティサリアは、今こそ夜会向けの衣装を身にまとって煌びやかだったが、その身長も体つきも、平均的といえる容姿をしている。
自国の貴族に一番ありふれている金髪と藍色の瞳、やや色白の肌に、やや薄めの唇、やや大きめの瞳、やや長めのまつげ。
どれをとっても『無難』に思える容姿をしたティサリアが常に言われ続けてきたのは美醜ではなく、癖のない顔立ちだということばかりだった。
日によってむくんだり顔つきが少し変わったりすると、別人に思えるほど印象も違ってくる。
それが原因なのか、驚くほど人違いにあうことがティサリアの日常ともいえた。
(今回は華やかな夜会で浮かないように、メイクはしっかりとしてもらったんだけど)
「私、エリザベート様という方に、そんなに似ているの?」




