18・母の本心
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クレイルドとの再会を果たした日の夜。
ティサリアは母に声をかけると、何やら上機嫌で談話室に案内された。
「こっちよ、見て見て!」
母が指し示すテーブルの上にはガラスケースが飾られていて、中にはクレイルドから贈られた東国のネコやらウサギやら、丸みを帯びた甘い綿菓子が並んでいた。
「少しの間、ここに飾っておくことにしたの。こんなにかわいいくて日持ちがいいなんて、褒めるところしかないわね」
ほんわかした表情の母は、東国の技術で再現された小動物たちの魅力を語った。
「お母様は彼の持ってきたお菓子が本当に気に入ったのね」
「もちろんよ。どれもさりげないのに、相手のことを考え抜いている贈り物だったわ。それだけに留まらず、品にまつわる様々なことも学ばれていて、しかもそれを楽しんでいて。クレイルド王子は本当に、ティサと会うのが待ちきれなかったのね」
甘い菓子を見つめる母の声が、どことなくほっとしている。
(お母様は自分好みの贈り物に浮かれていたわけじゃなくて。私に会いに来たクレイの人柄を感じて、あんなに喜んでくれていたんだ)
「でもこの子たち、食べるのがもったいないほどかわいいわ。食べるけれど」
(やっぱりお菓子も気に入ってるんだ)
「ふふ。だけど内気なティサが『また会いたい』って、本気でお願いしたのも分かるわ」
「あ、あれは……」
恥を捨ててお願いしたが、それは自らの恥の歴史として人々の記憶に残るのだと痛感する。
「本当に素敵な人だったものね。第一王子との人違いだったことは夕食の時に聞いたけれど、あの夜会がきっかけで出会えたのでしょう? 誘ってくれた伯母様とカルちゃんには感謝しかないわ」
(あっ、そうだった)
「お母様、あのね。私があの夜会より前に、クレイ……ルド王子と会ったことってあるかな?」
ティサリア自身は、自分がクレイルドの探している人物である可能性は、ほとんどないと思っている。
しかし彼の言う通り、それは証拠のない直感のため、確認できることはしておきたかった。
「あら。ティサはクレイルド王子と会った記憶でもあるの?」
「それが全くないの」
「全くないのに気になるの? ふふ、もしかしてティサの初恋の子に似ているとか? だからあそこまで本気になって……」
「えっと、ほら! 昔、ひいお爺様の邸館で過ごしたとき、たくさんの人が来ていたでしょ? もしかしたら私が忘れているだけで、彼がその中にいたのかなぁと思って」
(クレイは想い人をアルノリスタ国内の夜会で探していたし。もし探している人が私なら、アルノリスタ王国で出会う可能性があるのは、そこだと思うんだけど)
「そうねぇ……ティサは引っ込み思案だったし、私たちもあなたのことは不用意に人前へ出さないように気をつけていたの。あんなに素敵な方と会わせていたら、忘れるはずはないと思うけれど」
「そうだよね」
(やっぱりいつもの人違いなのかな)
「だけどお爺様の邸館で遊んだ話なら、マイリーの方が詳しいかもしれないわ。あの子、いつもティサの後を追いかけていたもの」
「あっ、確かに」
「でもそうね……彼の少年時代が噂通りなら、こっそりあの邸館に遊びに来てティサと会っていた、なんてこともあるかもしれないわね」
「噂?」
「そう。彼は不思議な魅力のある人よ」
母は楽しげに微笑んだ。