17・きっと会えるよ
(だけど……)
ティサリアは浮かない顔で黙り込む。
(私がこの話を受けてしまえば、クレイが一途に探していた人への想いは叶わない。相手の人だって、こんなに想ってくれているクレイと会える可能性を、奪われてしまうことになる)
その思いを見透かすように、クレイルドはどこか懐かしそうにティサリアを見つめた。
「俺のずっと探していた人はね。自分と同じように、相手にも幸せになって欲しいと願う人なんだよ。自分のために誰かを不幸にするようなことは望まない。そんなことをしていると感じれば、心が壊れてしまうような繊細なところもあるから心配だった。だから今はどうしているのか知りたかった……会いたかったんだ」
その言葉を聞いて、ティサリアの瞳に光が宿った。
(そうだ! 私がその本人を探して会ってもらえばいいんだ!)
クレイルドは夜会の警備兵のふりをして、想い人を探していた。
名を知らなくても、そのような場に来る家柄の娘だということは知っているのだろう。
(そのお相手が私の知り合いかもしれない。私ではなくても、お父様やお母様ならわかるかもしれない)
名案だと、ティサリアが勢いよく口を開きかけたその時、クレイルドは笑みを消して立ち上がる。
(あれ)
クレイルドは扉の外の様子に気づいていたらしく、ちょうどノックの音が鳴り、従者たちから帰る時刻だと告げられた。
そのまま話は切り上げられる。
(そんな。もう時間だなんて……クレイの探している人を見つける手がかりになりそうなこと、まだ何も聞けていないのに。それにクレイも、急に素っ気ない気がする。まさか私、気づかず何かやらかしてしまって……!?)
思えば何かどころか、全てにおいてやらかしている気がしてくる。
「ティサリア、今日は貴重な時間をとってくれてありがとう。君の様子を知ることができて、ほっとしたよ」
言葉少なに別れの挨拶をするクレイルドの様子に、ティサリアは周囲の目もはばからず、恥を捨てる気持ちで声を上げた。
「クレイルド王子、私にもう一度だけチャンスをください!」
予想外のことだったらしく、クレイルドは目を見開いてしばらく言葉を失っていた。
「何のこと?」
「もちろん、今日の私が無礼の塊だったことは承知しております! ですが私、どうしても気になることがあるんです。大切なことなんです。どうかまた、会っていただくことはできませんか?」
「……会ってくれるの?」
「はい」
「無理している?」
「していません。私からお願いしたいんです! 本気なんです! よろしくお願いします!」
おとなしそうに見えるティサリアからの妙な熱量に、周りの人々は度肝を抜かれている。
その中でただ一人、クレイルドの沈んだ表情が和らいだ。
「君を無礼だと思ったことはないよ。ずっと楽しい時間だった。ただ君の方が俺の諸々に迷惑して、もうこれ以上付きまとわれたくないだろうなと想像していたから……ほっとしたよ」
言葉の通り、安堵したかのように静かな息を吐き出した。
ティサリアは目をぱちぱちと瞬く。
(あれ? もしかしてさっきから暗かったのは、私の無礼に気を悪くしたのではなくて、もう想い人に会えないと思って落ち込んでいたのかな。そういえば次の約束を言い出さなかったのは、私が断りやすいように配慮してくれたとか……)
都合のいいことを言ってその気にさせようとしたり、強引に誘ったりはできない人らしい。
(努力家で完璧な人物に見えていたけど、ちょっと不器用かも)
「だけどティサリアが俺に会いたいなんて、何か企んでいるの?」
「えっ。あの、それは……そうです! 王子が私と会った思い出の話を教えてくださったらお伝えしますので、どうぞ思い出語りをご検討ください!」
「罠にかけられている気がするな。言わないけど」
「その思い出はどうしても隠すんですね……。あ、でも罠とか物騒な考えではないんです。もしよろしければ、またお会いして色々調べ……聞きたい話があって」
クレイルドに笑顔が戻る。
「もちろん。ティサリアがいるなら、罠だと知っていても行くから」
「相変わらずですね。それと念を押しますが、罠ではありませんのでご安心ください!」
「わかってるよ」
再会の約束を得て、クレイルドの去っていく後ろ姿は軽快だった。
(本当に、好きなんだな)
ティサリアは彼の健気な気持ちを思うと自然と心が明るくなり、笑顔で見送る。
(大丈夫だからね、クレイ。きっと会えるよ!)
胸にひとつの思いを秘めて。
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