14・王子の謝罪
「警備兵では、なかったんですね」
「うん。あれは自分でティサリアを探すためだから」
(自分で探す? あんなに会いたがっていたんだし、従者に手伝ってもらったりしたほうが、早く見つかる気がするけど)
不思議に思いながら、もっと不思議に思っていたことを聞く。
「今回はどうして、私の家がわかったのですか?」
「会った時、ティサリアが丁寧に挨拶してくれたからね」
(あっ、そうだ。身元を明かせば人違いだってわかってもらえると思って、自ら個人情報をぺらぺら漏洩したような……)
動揺していたとはいえ、どうぞご利用くださいと言っているようなものだ。
クレイルドも心配そうな顔をしている。
「これからは、怪しい人に言わない方がいい」
「……はい。どうなるか身をもって体験できました」
(悪用する相手ではなさそうで、それはよかったけど)
「翌日に正式な文書を用意して、隣国の我が家へ使者を送ってくださったんですよね? その、人間離れしているというか……早業ですね」
「生まれて初めてってくらい、何でもやったから」
(一体何を……)
聞く勇気のないティサリアは戸惑いの視線を向けると、幸せそうな笑顔が待ち構えていた。
「だけどティサリアにまた会えると思えば、雑事も楽しい時間だったよ」
(相変わらずだな)
世の中にはどっちだか分からず人違いをされる人間もいるが、ここまで一途に求められる人もいるのかと、ティサリアは少し眩しく思いながら彼の笑顔を見つめる。
「君と再会した時、俺は警備兵に変装していて、何を言っても怪しまれていたからね。次に会う時は誤解を解きたいと思って、こういう形にしたんだけれど。少しは安心してもらえた?」
「それはもちろん。私の家族なんて緊張感も一瞬で吹っ飛ぶほど、あなたからの贈り物に心を奪われていた様子ですし……」
「よかった。またティサリアと会えると思ったら、じっとしていられなくてね。色々見たり調べたりしたんだ。それに君の家族は感じ良く聞いてくれるし、楽しかったよ」
(余裕の顔で笑ってるけど。来るかわからない相手を探すために夜会の警備兵に変装したり、見つけたと思ってからは使者を送る速さも、再会の日までに相手へ贈る物にかける手間と情熱も……本当に努力を惜しまない人なんだな)
そこまでして探しているのは、一体どんな女性なのだろうと、ふと思う。
「だけど次は、ティサリアを一番喜ばせられるものを考えておくから」
ティサリアは慌てて、侍女が先ほど花瓶に飾ってくれた青い花束に視線を移した。
「あ、いえ。あんな態度では伝わらなかったかもしれませんが、私も嬉しく思っています。ありがとうございます」
実際はあんぐり表情の通り、驚きで感情も吹っ飛んでいたが、それは忘れたことにする。
「俺は君と色々話したいことがあって来たけれど、一番の目的は謝罪なんだ。あの時の俺はティサリアに会えて浮かれていて、すっかり困らせてしまったようだから。申し訳ないことをしたと思っているよ」
「いいえ、気になさらないでください。私の方こそ、クレイ……ルド王子に失礼な態度をとりました」
「あの後は自分なりに反省したんだ。それでティサリアの負担にならないようにと考えて、面会の理由も婚約者候補という言葉はどうにか濁したんだけれど……。エイルベイズ伯爵にあそこまで疑われるとは思わなくて」
(な、なんてこと……)
「本当にすみません、それは私のせいです。父が警戒してたのは、私が第二王子をはぶっ王子だと勘違いしていたために、あんなに慎重になってしまったんだと……」
「ん? はぶっ?」
「あ。い、いえ。父は私が魅了の呪いを解いた、あの男性が会いに来たのだと思って心配していたんです」
「ティサリアは魅了の呪いを解けるの?」
(あっ!)
「へぇ、すごいな」
うっかり漏らしたティサリアに対し、クレイルドは感心したように声を上げた。
「あれは古術の一種で、今は扱える人も相当限られているはずだよ。しかも解呪? 危険性が高いのに汎用性は低いから、金儲けの魔術師たちは習得しないし、どんどん廃れているんだ。王立の魔術学院でも、授業の単位にすら含まれない。そのくらい希少な術なのに」