13・贈り物
自己紹介でクレイの名乗っている単語が、断片的に頭の中へ入って来る。
(クレイルド・レイヴ・アルノリスタ、第二王子、って言ったような……? だけどアルノリスタの第二王子は、解呪を受けて「はぶっ!」と鳴いた青年だったはずでは)
執拗に集団を確認するが、ティサリアが魅了の呪いを解いた青年は見当たらなかった。
(つまり……)
恐る恐る様子をうかがうと、クレイルドと名乗った第二王子らしき男は、ティサリアの家族に贈り物をしている。
彼はエイルベイズ家の嗜好を把握済みなのか、東の小国でしか手に入らない、おいしそうな甘味や珍味、美酒などを持参していた。
その品々を種に、ちょっとした雑学やユーモアを交えながら説明している。
家族の目がみるみるうちに輝き始めた。
(えっ、みんな!?)
「まぁ! これは本当にお菓子なの? なんて愛おしい姿なのでしょうね!」
「なんてこと……私、この瓶詰されているグロテスクな物体から目が離せないわ! 王子、これは本当に食べ物なのですか!? 何で出来ているのか聞かせて欲しいわ!」
「これはアスマ島秘蔵の……本物かい? いやぁ、参ったな! まさかお目にかかれるなんて!」
次第に和やかな笑いまで生まれ出した様子に、ティサリアはさらに唖然とする。
(血色が悪いと悩んでいるあのお母様が、可愛いお菓子に心をくすぐられて少女のように頬を染めている? それに説明の類に興味を示さないマイリーが、初めて見る異国の珍味について熱心に質問しているし……あっ、お父様まで! あれは東国の美酒と聞いて胸を躍らせているよ絶対!)
なかなか人を懐に入らせないと思っていた家族全員が、見事に手なづけられているように見えた。
一瞬でティサリアの家族を上機嫌にしたクレイルドは、磨き上げられたエイルベイズ邸の応接間に招かれると、ティサリアと共に席に着く。
「ティサリア、早速だけど人払いをした方が良い?」
(確認するってことは、やっぱりあの相談の話? それともあれ以上の爆弾な話?)
「念のため、二人で話したいです」
「うん。そうしよう」
ティサリアの願いとして互いの従者や侍女を隣の部屋に下げてもらい、静かに息を吐いた。
しかし何をしようとしていたのか、すべきだったのか。
考えていたことは清々しいほど、きれいさっぱり取り払われている。
(な、何か話さないと……)
クレイルドは二人きりになったせいか、想い人と再会できたと喜んでいたあの時と同じ、怜悧な顔立ちに甘い笑みを浮かべていた。
(やっぱりクレイだ)