12・アルノリスタの第二王子
ずらりと並んで来客を迎える使用人たち、その奥にティサリアと家族も並んで待つ大歓迎に見せた演出の中、第二王子とお供らしき数人の集団が、颯爽とした足取りでやって来た。
ティサリアはいよいよ緊張してくる。
(どういう事情で私に会いに来たのか分かるまでは、さぐっていることを知られないように気を付けなきゃ。それに一番は、解呪後の体調の確認だよね。数日間は問題が無くても、本人も気づかない静かな患いが潜んでいて、それが徐々に命を削ることだってあるし。責任重大だ、見逃さないようにしよう)
話す前に確認しておければと、ティサリアは呪術を捉えるための呼吸法に切り替えて、意識を瞳に集中した。
(数人いるけど、王子はおそらく中央に……っ?)
向かってくる集団の中に見覚えのある人物を見つけて、ティサリアは小さく声を上げる。
「クレイ!」
思わず名を呼ぶと、近づいてくる内の一人が気づいた。
男は凛とした美貌に意味深な笑みを浮かべる。
(よかった。あれから落ち込んでいないか気がかりだったけど、今は元気そう)
クレイの様子を見て、最後の別れが散々だったティサリアは、少し気持ちが明るくなる。
(初めて会った時、相当強そうな人だなとは思っていたけど、まさか王子の護衛が出来るほどだったなんて……って、あっ! 今日の目的はクレイじゃなくて)
ティサリアは再び意識を集団に戻そうとした。
しかし肝心の王子を見つける間もなく、クレイはすぐ目の前に来る。
「俺のこと、今度は覚えてくれていたんだね」
「えっ、あの。はい。それは、あんな相談をされたら誰だってそうだと……って、その話は後ほど。それで、今日私がお会いする予定の……」
集団へ視線を漂わせるティサリアに気づき、クレイが長身を屈めて耳元に唇を寄せると、気品に満ちた花の香りが漂った。
「ティサリアが誰を探しているのか、当てようか?」
「えっ、あの」
「俺だよ」
低く囁かれると同時に、ティサリアの両手には抱えるほどの重みが渡される。
気づけば腕の中には花束があり、大輪の青いバラが鮮やかに咲き誇っていた。
花束を受け取った乙女がするには不適切なほど、ティサリアはあんぐりと口を開ける。
クレイはそれを気にする様子もなく、ティサリアの家族に洗練された振る舞いで挨拶を始めた。
彼は以前の詰襟の警備服ではないが、凛々しく聞きやすい声と、目を見張るほどに整った顔立ちは紛れもない。
引き締まった長身を一層引き立てる上等な装いに、身のこなしからも爽やかな品格がかもしだされていた。
(まさか……)