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10・ひとつの思い

「だけど私、なぜ王子から声がかかったのか、全く思い当たることがなくて……」


 不安そうなティサリアに対して、父は軽い口ぶりで笑ってみせる。


「そうだね。なかなか派手な人違いをされたみたいだし、王子はティサへ謝罪でもする気なのかな?」


 しかしマイリーンは珍しく、父の笑顔に真顔で言った。


「失礼の極みのような方が、謝罪なんてするかしら。くだらないことでも企んで、お姉様に近づこうとしている気がしてならないわ。私は彼の腐った目玉に、お姉様の姿を再び映すなんて反対よ。それにいくら隣国の王家だとしても、お父様はお姉様に害をなす相手なら上手にお断りできる度胸も力もあるんだから、お姉様はもっと頼ってもいいと思うわ。お父様って、本当に優秀な方だもの!」


「マイリーは僕を褒め過ぎているけど、指摘はなかなか鋭いと思うよ」


 普段ならまず本人の考えを聞いてから意見を言う父が、マイリーンの話に同意する。


「それに夜会での話からもわかるように、複雑な事情が絡み合う場所では、人違いが文字通り命取りになる場合もあるからね。この事は、こちらから誠意を込めてお断りしておくよ。いいね、ティサ」


 確認されると、ティサリアは自分ですら思いもしない強い口調で、きっぱりと否定した。


「いいえ、お父様。お願いです、その話を受けさせて下さい!」


 父と妹から心配そうな視線を注がれたが、ティサリアは明るく頷く。


 王家からの申し込みを断れないことはないとしても、それが父やこの家の立場を揺るがす可能性があることを、ティサリアも方々から話を聞いて多少は知っていた。


 それに夜会の出来事がきっかけで王家から手紙が送られたのだとすれば、隣国にあるエイルベイズ邸まで、正式な申し込みの形をとって翌日に使者を送る手配の早さは異例だった。


 圧力にすら思える色よい返事を要求されているようなもので、明らかに一度断れば終わる類いの話ではない。


 それでも父が断ると明言したのは、良からぬことに巻き込まれた可能性のある娘を守ってやりたいという、深い親心だということも分かっていた。


 しかしティサリアは、両親の後ろで隠れている自分に気づくたび、ひとつの思いが込み上げてくる。


(私はあの、ふわふわなカステラみたいになりたい!)


 以前マイリーンに話した時、かなり戸惑い気味に「そ……それは私たちの秘密にしましょうよ! お姉様のイメージ的に、誰にも知られない方が良いわ!」と念を押されたので、他の人には言っていない。


 しかしティサリアは、自分を一瞬で元気にしてしまったあの魔法の味を知った後から、娘を守ろうと憔悴している両親に対して、今までの悲しみとは違う気持ちがむくむくと湧き上がってくるようになった。


(お父様とお母様にも、元気になってもらいたい!)


 カステラを自分で作って再現することは出来なかった。


 それでもあんな気持ちになってもらえたら、それはどんなに素敵なことだろう。


 ティサリアは気づいてから、隠れて何もできないと思っている自分でいることをやめた。


(今回のお誘いを受けて、第二王子がどんな事情で私に会いに来たのかが分かれば、お父様だって今後の振る舞いを定めやすくなるはずだし)


 それにもう一つ、確かめたいこともある。




金曜日は更新を休む予定です。

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