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7/22

第7話 そして篝火に和む

 先週の土曜日、対抗戦は無事に終了しました。


 今夜は、大原さんの初めての企画が成功したお祝いを口実に、焼肉屋で慰労会と連絡会対策を兼ねた打ち合わせをしています。


「乾杯!」


 大原さんがお酒をたしなむのは承知しているので、ビールをジョッキで頼みました。これなら飲酒量がわかるので、飲みすぎる前に止められるでしょう。


「やっと山をひとつ越えた気分だわ」


 誇らしさと充実感に満たされている大原さんを見ていると、幸せな気分になります。


 実際は、有志の方々がすべてを仕切っており、私や大原さんは何ひとつしていないのですが。


 大原さんは、私達が会場に行くことなく対抗戦が実施できたことに何の疑問ももっていません。


 そのおおらかさに救われる思いが半分、あきれる思いを半分いだいたまま、注文した肉が届くまでのわずかな時間に、対抗戦の報告書を渡して説明をします。


 明日の連絡会では、これと6月の県大会の計画表のコピーを受付で配付し、役員からの報告と説明に代える予定でいます。


 会員からの質疑応答に困ったら「一度持ち帰って検討します。回答は後日早急に」と答えればいいので、何も心配はいりません。


 議事録を作成する必要がありますが、役割を負っていない会員にはイベントの進行について何もわかるはずがありません。式次第をそのまま引用できるでしょう。


 問題は、連絡会の後に開かれる懇親会です。実質、有志の方々の慰労会なので取りやめることなどできません。


 けれど、大原さんが参加すれば、セクハラまがいのことが起こるのは確実です。参加しない方向に話をもっていかなければ。


 前回のようなことは二度とごめんです。


 説明を終えたところで折よく、肉が運ばれてきました。


「お待たせしました。カルビとロース、タン2人前。コリコリ 、センマイ、サンドミノ、ハラミ、ギャラ芯、コプチャン、テッポウ各1人前」


 店員が呪文を唱えるように並べていったホルモンの皿に、大原さんは目を白黒させています。


「もしかしてホルモンは苦手でしたか?」


 私は大原さんの顔色をうかがいながら恐る恐る聞きました。焼肉といえばホルモンと思い込んでいましたが、内臓は女性にとってハードルの高い食材だったと今になって気づきました。


 私にしてもホルモンを好んで食べるようになったのは、三十も半ばを超えてからのこと。


 食べてみれば、部位にそれぞれ違う味わいがあって、肉を楽しむとはこういうことなんだと理解できるのですが。


 生きるために胃袋を満たすために食べるのではなく、ぷりぷりとした歯ごたえや舌ざわり、甘さの違いを、口と脳、つまり体全体で堪能できる嗜好品。それが内蔵なのです。


 その旨味と弾力性に、この肉がかつて生きていたことを心の奥底から実感し、せいをいただくことの罪深さ、おのれせいのありがたさを理解できるのです。


 せいの両方を我がものとし、肉の一片に至るまで味わい尽くす。


 人はどこまで自分勝手に、貪欲になれるのか。


 でも。


 それが肉を喰らうということだと思うのです。


 しかしながら、嗜好が合わないのならしかたがありません。


「すいません」と店員を呼んで、カルビと牛ロースを追加しました。


 大原さんに笑顔が戻ります。


 私はトングでタンとロースを網の上に並べました。


「今日は大原さんの慰労会ですから」と、焼肉奉行に名乗りをあげ、表、裏と適度に焼いて「塩がおすすめですよ」とタンを大原さんの前の取皿に乗せます。


 大原さんは「いただきます」と言って、最初の一口こそは塩とレモン汁をつけていましたが、すぐにタレの皿に泳がせてぱくりとほおばりました。


「おいしいわねぇ!」


 いや、それ、タレの味しかしないでしょというツッコミなどしません。大原さんがおいしければいいのです。


 ですが。


「注文いいかしら」と店員を呼んでご飯を頼んでいます。


 焦がさないよう注意深く焼いたロースをじか箸でタレにつけてご飯の上でワンバンさせて口に運ぶさま、そして追ってご飯。


 挙げ句。


「もう、ワンバンさせたご飯って最高!」と破顔するさまを見ていると、些細なことなど、どうでもいいじゃないかと思ってしまいます。


 さらには、私がじっくり火を通していたハラミを「それ、おいしそう!」と、ひょいとつまんで口にした後は、空いた手でトングを持って「これはなぁに?」と言いながら端から並べていきます。


 私が「ホルモンはまず網の中央で焼いて、火がとおったら端に寄せて」と焼き方を説明すると、ふんふんとうなずきながら、左手にトング、右手に箸を構え、焼けたそばから食べていく気満々です。


「コリコリは歯ごたえがあって食感が……」、「それはセンマイですね。牛には胃袋が4つあって、サンドミノとか、ギャラ芯……」、「コプチャンは小腸ですが、コラーゲンが豊富で甘いのに低カロリー……」と説明する横からあっという間に平らげて、ジョッキをゴクリゴクリと空にしました。


 さすがに、ぷっふぁ! とは言いませんでしたが、満足してもらえたようで、私も誘ったかいがあります。


 ただ、大原さんは一家の主婦です。無理して夜に外出することになったのであれば申し訳ないと恐縮してしまいます。


「私の都合で打ち合わせを夜にしてもらいましたが、本当に大丈夫なんですか?」


「いいのよ。子供達も塾やカラオケに行くとかで遅くなるみたいだし」


「中学生でカラオケですか?」


「いまどきは当たり前なのよねぇ」


「そうかもしれませんが、時代の違いを感じますね」


「あら、お宅のお子さんも行ってるんじゃないの?」


「えっ?」


「今日は剣道部の対抗戦優勝のお祝いらしいのよ」


 知りませんでした、なんて言えません。あわてて「そうでしたね」と返して、話題をそらします。


「いやぁ、私が中学生の頃はラーメン屋に入るのもどきどきでしたよ。カラオケなんて大人が行くところでしたね」


「そうね。わたし達が子供の頃はカラオケは夜のお店か、コンテナみたいなカラオケボックスで、知ってる歌もなくて」


「私が最初に喫茶店に入ったのは、大学生になってからです。それでも、コーヒーを飲み終わると、注文をしないでそのまま居続けるのが居心地が悪くて、あわてて会計をしてお店から飛び出してしまいました」


「カラオケに初めて行ったのも大学生になってから?」


 必死でカラオケの話題をそらそうとしているのに、大原さん、まるでサイドワインダーのように追尾してきます。食らいついて離れてくれません。


 しかたなく、カラオケが苦手だと言って話題を打ち切ることにします。


「就職してからですね。カラオケ店が普及したのは。正直、今でも苦手です。人前で歌うのは」


 なのに。


「一人では行かないの?」


「一人で? カラオケって一人で行ってもいいんですか?」


 逆に私のほうが釣られてしまいました。


「一人で行って、思い切り歌って練習するらしいわよ。最近の子は」


「なるほど。なら、今度、試してみようかな」


「じゃあ、今夜どう? わたしと一緒に」

「えっ」


 お互いに顔を見合わせてしまいました。


 なんだか妙な雰囲気です。


「あらっ」


 大原さんは慌てて両手を振りながら「やあねぇ。カラオケのことよ」とけらけら笑っておかしな雰囲気を消してくれました。


 けれど。


「そうですね。カラオケ……お願いできますか」


 私が欲しいのはカラオケに一緒に行く相手なのか、別のぬくもりなのか、それすらわからないまま大原さんに甘えてしまいました。


「そ、そうね。カラオケくらいなら」


 大原さんは微妙に目を伏せています。その、まるで小娘のような反応に心がざわつきます。


 何も起こるわけがない。たかがカラオケじゃないか。自分にそう言い聞かせて。


「じゃあ、お願いしようかな……カラオケ」

「はい。カラオケですよね」


 私は大原さんを見ています。大原さんは網の上の焦げたタマネギを見ています。


 すっかり忘れ去られて、小さく黒く丸まった祭りの後の残骸。


 それが私達の今の姿を表しているように思えてなりませんでした。


 ❑❑❑❑


 連絡会の日を迎えました。


 柿崎さんが立ち上がって説明を始めました。わたしといえば、何もすることがなく、机に頰杖をついて、昨夜のカラオケのことを思い出しています。


 柿崎さんが最初に歌ったのは村下孝蔵と稲垣潤一でした。印象にたがわない選曲に納得しながらも、古い曲の用意を怠らないお店のサービスに驚きます。


 通信カラオケ? レーザーディスクじゃないの? 時代の違いを感じるって、こういうことよね。


 だけど、柿崎さんは相変わらずです。イノベーションがどうのこうのとか、著作権使用料でジャスラックが代々木上原の駅前に大きなビルを建てたとか、簡易裁判所の支払督促と調停がどうのとか。


 ジャスラックって確か、恐竜の島? 違った、宇宙開発してるところよね? 代々木上原って何県にあるの? 裁判所って悪いことをした人を裁くところでしょ。たまに阿蘇山が大噴火……大噴火したことはなかったかも。


 数々の疑問を口にしないで、わたしは選曲のページをめくります。


 そして、気分を変えようと選んだのはフライングゲット! 娘のお気に入り。見よう見まねの振り付けで踊りも披露しちゃいます。


 柿崎さんは手をたたいて喜んでいます。


 でも、いいのかしら。この歌、抜け駆けして何かを手に入れたいって歌詞でしょ。ちっとも公正じゃないんだけど、カキザキ的にはオールオッケー?


 今夜、わたしは柿崎さんが大笑いするところを初めて見ました。いろいろと難しいことを言ってなかなか理解できない人ですが、友人にするなら悪くない。面白ければそれでよし。


 ただ、来生たかおとか大澤誉志幸、佐野元春というラインナップに情感がこもった歌い方……柿崎さん、多分、自分のことが大好きすぎて誰かとカラオケなんて無理なんじゃ?


 そんなことを考えているうちに、連絡会は終わったようです。折りたたみ椅子ががたがた鳴る音がし、ざわめきが大きくなりました。


 柿崎さんが、書類を片付けながら「この後の懇親会ですが」と前回の不愉快な出来事を思い出させながら、「出席せずに帰ってもいいんですよ」と話しかけてきました。


 あたりを見回すと、役員席にいた女性達は「お先に」とか「失礼します」と言って帰っていきます。残っているのはわたし達だけになっていました。


「柿崎さんはどうするんですか?」


「私は出席することになってますね」


「なら、わたしも」


「大丈夫ですか?」


「相手にしなきゃいいだけでしょ」


 わたしだって、あんな不愉快な思いは二度とごめんです。ですが、このままやられっぱなしというのも釈然としません。


 さすがにビール瓶で殴るのはやりすぎにしても、気に入らない相手には酔っ払ったふりをしてコップ酒を顔に浴びせるくらいならありでしょう。


 前回は心の準備ができていませんでしたが、今回は心身ともに絶好調です。狙うはハゲとメガネ。逃しはしません。


 前回の分もあわせて!


 ❑❑❑❑


 懇親会に出席した女性は大原さん一人でした。


 参加を見合わせてはどうかと散々忠告しましたが、翻意させることはできませんでした。


 あぐらをかいてコップ酒をあおる姿を思い出します。そんなにお酒が好きならしかたありません。今夜も不祥事が起きないように私が頑張るだけです。


 会長の「乾杯」で懇親会が始まりました。早速、有志の一人がビール瓶を持って大原さんに近づいてきました。


 大原さんの前に座り、「奥さんも一杯どうですか」と言いながらビールを勧めています。


 大原さんは、なみなみと注がれたビールをゆっくり傾けてほんの少しだけ口にすると、コップをビール瓶に持ち替えて「お疲れさまでした」と相手に勧めます。


 オヤジが「こりゃどうも」と言いながら一気に飲み干し、大原さんはお代わりを注ぎます。オヤジは2杯めも一気に飲み干すと、空になったコップをタンとテーブルに置いて。


「ところで、奥さん、柿崎さんと仲がいいんだって?」


 爆弾を落としてきました。


「そんなことはありませんよ」


 横から私が割り込んで反論します。


 私と大原さんの関係を邪推したようなものの言い方には我慢なりません。


 オヤジは私のほうに向き直り、「いいなあ、柿崎さんは」と、うらやましそうな声を出しました。


「俺も奥さんと付き合いたかったなぁ」


 とんでもない話です。酔って不祥事が起きないよう目を光らせている私がよりによって不倫を疑われていたなんて。


 会長も副会長も、あと主義者のババァも、そんな噂があるならそっと私に耳打ちしてくれてもいいじゃないか。


 会長達を睨むと、あわてて目をそらしました。どうやら、噂になっているのは事実のようです。しかも、妖怪3人組、私に注意しなかったことをとぼけるつもりでしょう。


「柿崎さんとは邪推されるような関係じゃありません。役員の仕事を色々教えてくれたんです。どうしてそんなことを言うんですか!」


 隣で大原さんが反論していますが、オヤジは「役員の仕事?」と怪訝な顔を私に向けてきました。


 私が、ありもしない役員の仕事を大原さんに教えることで親密な関係を作ろうとしているのではないかと疑っている顔です。


 実際、半分は当たっていますが、その半分の事実ですら大原さんには知られたくありません。


「変なこと言わないでくださいよ。大原さんが困ってるじゃないですか」と、オヤジの隣に座り直し、「そんな根も葉もない噂が広まったら、大原さんが役員を辞めることになりますよ」と特大の釘を刺します。


「でも、仲がいいのは事実だろ。今日の連絡会でも奥さん、柿崎さんをじっと見つめていたって……」


「誰がそんなことを!」


 有志は連絡会には出ていません。私はもう一度、妖怪3人組に目を向けました。


 3匹が一斉に顔をそむけました。


 お前らかぁ!


「わたし、そんなことしてません」


 大原さんが連絡会の最中、何をしていたかは知りませんが、どうせいつもの打ち合わせのときのように、メモ帳に意味不明な落書きをしていたに違いないのです。


 仮に私を見ていたとしても、ただぽかんとほうけて焦点の合わない目で見ていた先に私がいたというだけのこと。


 ですが。


「柿崎さんは単なるお友達ですからっ!」


 大原さん。それは、仲良くしていることを認めたってことですよ。


 3匹を見ると、やっぱりねぇと、顔を見合わせています。


 そこ、聞き耳たててんじゃねぇっ!


 私が睨むと顔をそむけて知らん顔をします。その間も、大原さんとオヤジは言い争っています。


「まあ、まあ、誰かに言ったりするわけじゃないけど、仲がいいのは見てりゃわかる。いいなあ。俺もなあ」


「そんな。困ります。わたしには主人がいるんだから。変な噂立てないでください」


「柿崎さんはぁ、どうなのぉ。奥さんのことが好きなんだろぉ」


 今度は私に振ってきます。もう完全に酔っ払っています。言葉が通じる気がしません。


「好きとか、そんなんじゃなくてね」と、まわりが聞いているのを意識して言葉を選びます。


 だけど。


「好ぅきぃなんだろぉぉお!」


 誰か、ロープとガムテ持ってないかな。店主に注文したら「あるよ」って出してくれないかな。


 途方に暮れて3匹を見ると、周囲の全員が固唾をのんでこちらを注視していました。


 こっち、見てんじゃねえっ!


 そう言えたらどんなに楽でしょうか。ですが、今、私がするべきことは大原さんとの噂を完全否定し、そのことを周知すること。皆が見ているならむしろ好都合です。


「私と大原さんは一緒に役員をしているだけで、特に仲がいいわけではありませんよ。今日、私を見ていたのだって、多分、私が間違ったことを言わないか心配したんでしょう。


 そんなことより、大原さんにはご主人がいらっしゃるんですよ。


 こんなお酒の席で自分の奥さんが笑い者にされたなんて知ったら、後援会に何らかの対応を求められるかもしれませんね。それは今後の親睦会にも影響すると思います。


 たとえば、今後お酒の席はなくなって、次からはハンバーガーショップでバーガー片手にコーラとか。あるいは、牛丼屋で全員並盛り、紅生姜食べ放題とか。ああ、みそ汁は付けてもいいですよ。一杯だけならね」


 予想したとおり、会場は静まり返りました。兵糧攻めが効果的なのは、戦国の時代から証明されていることです。


「だからぁ、好きなんだよぉ」という酔払いオヤジの声は誰かによって、モガモガといううめき声に変わっていきました。


「場が白けちゃいましたね。副会長、やり直しの乾杯をお願いできますか?」


 私のドスを利かせた指名に、副会長が弱々しく「それじゃ、ご指名なので」と立ち上がり、「乾杯」とグラスを掲げます。


「乾杯!」


 皆さんのご唱和で宴会の再開です。ふと、気になって大原さんを見ました。空のコップを握った手。その先に、びしょ濡れになった酔払いオヤジの顔が。


 私は何も見なかったことにしてビール瓶を持ち、有志の方々に慰労のお酌をする旅に出たのでした。


 ❑❑❑❑


 宴会がお開きになりました。


 わたしはたいして酔っていないのですが、柿崎さんが送ってくれると言うので、その言葉に甘えます。


 その途中、コンビニに立ち寄りました。柿崎さんを外に待たせたまま手早く豚肉、野菜、えのき茸に味噌を買います。


 柿崎さんはくそオヤジどもの相手をしていてあまり食べていないのです。おなかがすいているに違いありません。


 柿崎さんに伝えると、最初は遠慮していましたが、コンビニの袋を見せると、あきらめて納得してくれました。


 おそらくは、コンビニの前で痴話げんかをしているように見られるのが嫌だったんでしょう。


「家の中が散らかっているんです。5分だけ待ってもらえませんか」


「押しかけたのはわたしですから、そのくらいなら」


 ですが、約束の5分が過ぎても出てきません。


 約束したのは5分だから、もういいわよね。


 勝手にそう判断して「ごめんください」とドアを開け、「上がらせていただきますよ」と家の中に入っていきます。


「大原さぁん。まだ」と困り果てた声がしましたが、無視です。前回お邪魔して確認済みのキッチンに向かいました。


 やっぱりね。


 キッチンシンクに溜まった食器を見て、主婦魂に火がつきました。


 主婦の底力、見せてあげる。


 腕まくりをして、食器を手際よく洗い、水切りに並べます。シンクを軽く掃除して、まな板と包丁、鍋を見つけ出し、鍋に半分まで水を張って火をつけます。


 沸騰するまでの間に野菜とえのき茸をざく切りし、豚肉、えのき茸、野菜の順に鍋に放り込みます。


 沸騰したら火を止め、最後に出汁入り味噌を溶かして具だくさん豚汁の完成です。


 お椀にすくい、白髪ねぎと刻みみょうがを上からあしらい、お箸を添えてお盆に載せます。そうしてお盆を両手に持って柿崎さんににっこりと笑いかけました。


 この笑顔が最高の調味料。


 夫が言った言葉だから間違いありません。


「できましたよ。簡単ですが、豚汁です」


「おいしそうですね。いただきます」


「どうぞ、召し上がれ」


 わたしは、目の端で部屋の汚れの数を確認しながら、これでもかと微笑みを送り続けました。


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