一番になりたい
「沙綾ちゃんは、天才だから、何をやっても一番になれるわ!」
それがママの口癖。
本当は一番の成績で幼稚園に入るはずだったんだけど、お受験の日に、パパがインフルエンザになってしまったので、仕方なく、天才の沙綾は、保育園なんてレベルの低いところに行ったのよ。
どこを見てもバカばかりで、こんなレベルの低いところでは、沙綾がダントツの一番ね、なんて思っていた。
だから、保育園で一番かわいいゆう先生は沙綾のものよ!
それにしても、沙綾のゆう先生はどこにいるのかしら?
「灯里ちゃん!すごーい!もう、英語わかるの?」
「私が分かるのは少しだけだよ?」
あれは!
顔だけは沙綾より少しだけ可愛い笹岡灯里!
顔が可愛いからって、先生たちにちやほやされるなんて、許せないわ!
英語だったら、沙綾だって、塾に通ってるから、負けないもんね!
そう思いながら、灯里とゆう先生の間に割って入ると、「沙綾だって英語できるもん」と、沙綾は地面に「I habe a pen」と書いた。
「沙綾ちゃんもすごーい!」とゆう先生が言った。
「沙綾ちゃんすごい!」と言った灯里が「でも、ここ、bじゃなくてvだよ」と、直した。
あ、灯里のくせに生意気な!
「沙綾、知ってて、わざと間違えたのよ!灯里を試しただけなんだから!」
仕方がないから、今日は、ゆう先生は灯里に貸してあげるわよ!
沙綾は、仕方なく二人のそばを離れた。
決して、間違えたのが恥ずかしいとか、そのあと灯里がもっと難しい文章を書き始めたからじゃないんだから!
沙綾は優しいから今日は灯里にゆう先生を貸してあげるだけなんだからね!
翌朝、沙綾は、一番乗りに来たら、一番にゆう先生を独占できるって気づいたから、いつもより10分も早く起きたの。
それなのに、それなのに、沙綾が来た時にはもう、灯里が来ていて、ゆう先生と遊んでいたの。
「あ、ゆう先生、沙綾ちゃんきたよ!私、おばあちゃん先生のところに行ってくる!」と、灯里は天才の沙綾におじけづいたのか、おばあちゃん先生のところへ行った。
これで、ゆう先生は沙綾のものだわ!
「あら、灯里ちゃん、おはよう」
「おばあちゃん先生、おはよう!」
「いつもはゆう先生と遊んでいるのにどうしたの?」
「今日は、沙綾ちゃんがゆう先生と遊ぶために早く来たみたいだから、いいの!」
私は毎日朝一番で遊んでるから、と、灯里が余裕の表情で言った。
何だか、何だかわからないけど、すごく負けた気がする!
明日は、一番乗りに行ってやるわ!
その日、沙綾は帰ってすぐママに行った。
「ママ、明日は沙綾、一番乗りで行きたいの!灯里に負けたくないの!」
「そうね、沙綾ちゃんが一番でなくてはならないわ!ママも頑張るわ!」
翌朝、沙綾は宣言通り一番乗りに保育園にやってきた。
ちょっと寝坊しちゃった分は、ママが大急ぎで車を飛ばしてくれたもの。
なのに、なんで灯里は全然悔しそうじゃない!
保育園で一番かわいいゆう先生は沙綾に取られたのよ?もっと悔しがりなさいよ!
その日は、おなかが痛くなってしまって早く帰ってしまったけれど、絶対に沙綾のほうが楽しいゴールデンウィークを過ごしてやるんだから!
そして始まったゴールデンウィーク初日、沙綾はママとパパとキャンプに出掛けることにした。
車の中から、外を見ていると、ちょうど赤信号で止まった時に、灯里と灯里の冴えない父親の姿が見えた。
沙綾のパパのほうがイケメンだもんね!と思っていると、「灯里ちゃん、お待たせ!」と、かっこいい男の子が出てきた。
「あ!荘ちゃんだ!おはよう!」と、イケメンにハグをしに行く灯里。
え?何あのイケメン!うらやま……!と思っているうちに、信号が青になって、灯里たちの姿は見えなくなった。
灯里に負けていられないわ!沙綾だって、可愛いんだもの、イケメンの彼氏がゲットできるはずだわ!
キャンプ場に着くと、パパとママはバーベキューの準備をし始めた。
沙綾はかっこいい彼氏をゲットしなきゃ行けないから、バーベキューの準備とかしていられないわ!
少し離れたところに、何組かの家族連れのグループがいた。
沙綾よりちょっとお兄さんの男の子がいるみたいだわ!
沙綾の運命の彼氏かもしれない!
沙綾がそのグループに近づくと、まあまあイケメンのお兄さんがいた。
灯里の荘ちゃんに比べたら、今一つだけど、まあ、イケメンの部類に入るわね。
「こんにちは」と、私が笑顔で言うと、「こんにちは」と、お兄さんも笑顔で返事してくれた。
「私は小早川沙綾ちゃんでしゅ!」
しまった!沙綾としたことが、噛んだわ!さしすせそは難しいのよ!
「僕は、森田翔悟」と、ちょっとイケメンのお兄ちゃんが言ったところで、「翔悟!」と誰かが呼ぶ声が聞こえた。
「じゃあ、またね、沙綾ちゃん」
翔悟君こそが私の運命の彼氏なんだわ!
そう思っていると、再び翔悟君が現れた。
何かさっきと服の色が違う。
「あ!翔悟君!」
「違うよ」と、翔悟君は不機嫌になった。
「だって、翔悟君じゃない?」
「僕は、翔悟の兄の悠悟」
そう言うと、悠悟君は去っていった。
しばらくすると、今度は翔悟君が二人現れた。
翔悟君は双子だったのね!それで、悠悟君がお兄ちゃんなのね!
でも、どっちに沙綾の運命の彼氏になってもらおうかしら?
やっぱり、最初に微笑みかけてくれた翔悟君よね!
「翔悟君、沙綾の運命の彼氏になってください!」と、最初に見た翔悟君に私は言った。
「僕は悠悟だよ」
「でも、服が……」
「僕たちの見分けがつかない人は彼女にできないな」と、悠悟君の服を着た翔悟君に言われた。
「でも、でも、全く同じ顔じゃない!そんなの見分けるなんて無理だよ!」
そう言ったところで、「おーい!悠悟!翔悟!」と女の人が歩いてきた。
悔しいけれど、女の人は、沙綾よりもちょっと可愛いわ。
「バーベキューの準備できたって……って、なんであんたたち服着替えてるの?」と、女の子が言った。
「さすがさやか姉ちゃんだな」と、翔悟君が嬉しそうに言った。
「僕たち、同じ顔だと思うけど」と、悠悟君が私のほうをちらりと見ながら言った。
「え?全然違うじゃない。あんたらと何年つるんでると思ってんの?」と、さやかちゃんは言うと、「行くわよ」と、去っていった。
翔悟君も悠悟君も、二人を見分けてくれて、沙綾よりちょっと美人なさやかちゃんが好きなのね。
どっちか一人くらい、沙綾の運命の彼氏になってくれたっていいと思うんだけど……。
そうだわ!まだ、悠悟君がいるわ!
そう思って、私は三人の向かった方向について言った。
「沙綾ちゃんだっけ、なんでついてきたの?」
悠悟君がぶっきらぼうに言った。
「だって、悠悟君が沙綾の運命の彼氏だと思ったんだもん!」
「僕だって、翔悟と僕を見分けられない子は嫌だよ」
「あれ?翔悟君と悠悟君、さっきと服反対になってる!」
今度は眼鏡をかけたおっとりした感じの女の子が言った。
眼鏡で目はよく見えないけど、この女の子よりは沙綾のほうが可愛いと思う!
「紗代姉ちゃん、眼鏡にごみついてるよ!」と、翔悟君が言うと、紗代ちゃんは「え?どこ?」と眼鏡をはずした。
う!
沙綾よりも美人だわ……!
てことは、翔悟君と悠悟君の見分けがついて、沙綾よりも美人なお姉さんが二人……。
これって、これって、翔悟君も悠悟君も沙綾の運命の彼氏にはなってくれないってこと?
「ねえねえ、オレがさーやちゃんのかれしになってあげるよ!」
上から目線で言われてそっちを見ると、ブサメンがそこにいた。
「はぁ?」
「いま、はいっていった?」
「言ってない!」
「もう、てれやさん!」と、ブサメンが沙綾の鼻をつついて言った。
「嫌!触らないで!ヘンタイ!」
「これって、ツンデレってやつでしょ?」
「違う!」
勘違いブサメンに言い寄られて困っていると、ブサメンに強烈なキックが入った。
「兄貴、よその人に迷惑かけちゃダメ」
沙綾と同じ年くらいの男の子が言った。
あまりイケメンではないけれど、あのブサメンよりはだいぶましだ。
「あなた!沙綾の彼氏にしてあげる!」と、沙綾が言うと、男の子は少し困った顔をした。
「やめといたほうがいいと思うよ。これが兄貴だし」と、男の子は、地面にはいつくばっているブサメンを指さした。
「それに、彼氏は無理して作るものでもないと思う」と、悟ったように男の子が言うと「こら!竜ちゃんたち!早く来なさいって言ったでしょう!」と怒号が聞こえた。
男の子が走っていこうとして、沙綾もブサメンが起きる前にこの場を離れなきゃと思ったけれど、足が動かなかった。
「えへへー!オレの彼女……」と言いながらブサメンが沙綾の足をつかんでいた。
「イヤー!」と沙綾が叫ぶと、再び、男の子がブサメンを足蹴にしながら、「今のうちに逃げて!」と言った。
ああ、この胸の高鳴りは!きっと、あの男の子が沙綾の運命の彼氏なんだわ!
そう思いながら、沙綾はパパとママのところに帰っていった。
ゴールデンウィークが終わって、沙綾は大きなため息をつきながら保育園に向かった。
結局、灯里の彼氏よりもかっこいい彼氏は見つからなかったし、あの男の子の名前すら知らない。
灯里は、あのかっこいい彼氏ときっと楽しいゴールデンウィークを過ごしたに違いない。
なのに、どうして、沙綾より早く来てゆう先生と遊んでいる灯里の顔があんまり楽しそうじゃない。
あんなにかっこいい彼氏がいて、ゆう先生と一緒にいて、灯里は何が不満なのかしら。
「ちょっと!灯里!」
「あ、沙綾ちゃん、おはよう!」
「何であんた、そんなに暗い顔してるのよ!かっこいい彼氏いるじゃない!」
「あ、うん、彼氏?荘ちゃんのことかな?荘ちゃんならゴールデンウィーク中ずっと一緒にいてくれたよ」
「だったら、もっと、幸せそうにしていなさいよ!私なんか、荘ちゃんみたいなかっこいい彼氏が見つけられなくて、ママとパパとバーベキューしただけなんだから!」
「……いいじゃない」
「へ?」
「ママもパパも一緒にいてくれたならいいじゃない!」
そう言うと、灯里は泣きながら走り去っていった。
「灯里ちゃんのママはお仕事で忙しくて、ゴールデンウィークの間全然一緒にいられなかったみたいよ」と、ゆう先生が教えてくれた。
何よそれ!かっこいい彼氏が見つからなかった沙綾よりもかわいそうじゃない!
灯里のくせに、沙綾よりかわいそうなんて、許さないわ!
灯里が去って行った方向に沙綾も走っていった。
「灯里!」
「どうしたの?沙綾ちゃん」
灯里の目からはまだ涙がこぼれていた。
「今日は沙綾が一日遊んであげるんだから、そのしんきくさい顔、やめなさいよ!」
「辛気臭い顔って……うん、今日は一日沙綾ちゃんと遊ぶ!」
灯里はかわいそうだから、沙綾が一番の友達になってあげるわよ!
沙綾と灯里が手を繋いで戻ってきたのを、保育園の先生たちがほほえましく見守っていた。
持病の、シリアスな展開続けられない病の発作が出まして、沙綾ちゃんに主演を務めていただきました。
文章をまとめる能力が欠如しているので、何だかいつもより長文になってしまっています。