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初夢かもしれない

 朝目が覚めると、ソファの上にいた。

 体にかけてあったのは、灯里あかりの毛布だ。

 俺に毛布掛けてくれるとか、灯里はマジで天使だ。

 これはきっと、体がバキバキになっているに違いないと思って起き上がると、案外体は軽かった。

 こんなに体が軽いということは、もしかして、寝過ごしたのか?

 しかも、昨日風呂に入らず寝た気がする。

 そう思って自分の服を見ると、見たことがあるようなないようなパジャマを着ていた。

 風呂には入ってたってことか?

 何だかこの柄、灯里のパジャマに似てるからおそろいのパジャマを買ったってことか?

 翠先生がおそろいにするならまだしも俺がおそろいにするのはおかしいんじゃないだろうか?

 とりあえず、支度して出かけなければ、と、ソファから降りようとしてふと気づいた。

 足が、つかない。

 俺の足は大して長くはないが、流石にソファに座って足がつかないほどではなかった気がするが……。

 俺が寝ている間に、ソファがデカくなったのか?

 それとも、俺が小さくなったのか?

 よく見ると、手も足も小さい気がする。

 これは、どういうことだろうか?

 よくわからないが、とりあえず、顔を洗おう。

 俺はソファから飛び降りると、洗面台に向かった。

 洗面台も大きい。

 というか、何だか家全体が大きい。

 このままでは蛇口に手が届かないので、俺はいつも灯里が使っている踏み台に乗った。

 そして、鏡に目を向けた俺は、思わず鏡を二度見して叫んだ。

「あ、灯里になってるー!」


 俺が灯里になってるってことは、灯里が俺になってるのか?

 俺(見た目は灯里)は顔を洗うと、リビングに戻った。

 食卓の上にはいつものように朝ご飯が準備して置いてあった。

 今日は正月だから、お雑煮とおせち料理にしようと思ったのに、いつも通り御飯と味噌汁が出来てる!

 正月っぽさがなさすぎるだろう!

 リビングには、俺(中身は多分灯里)の姿が見当たらなかったので、俺(見た目は灯里)は、寝室へと向かった。

 寝室にも俺(中身は多分灯里)の姿は見えなかった。

「灯里、おはよー」

 どうやら、翠先生は翠先生のままのようだ。

 翠先生なら、『声』の存在も信じてくれたから、この入れ替わりも信じてくれるに違いない!

「あの、翠先生、灯里と俺が入れ替わっちゃったみたいで」

「あら、また?そっか、大変……」

「え?また?あの、俺の姿の灯里は?」

「へ?明くんはなんか今日早く出てったよ……」

 ヤバい!灯里はもう出かけてたのか!

「灯里に仕事をさせるわけにはいかないので、追いかけなきゃ……」

「もし本当だとしても、灯里は優秀だから大丈夫、さ、灯里、ふざけてないで二度寝ターイム!」

 翠先生は信じてくれなかった上に俺(見た目は灯里)を布団の中に引き込んだ。


 うっかりあのまま二度寝してしまった。

 時計を見ると始業時刻をとっくに過ぎていた。

 灯里はどうしているのだろうか?

 俺、クビになったりしないだろうか?

「あ、灯里、おはよう!」

「翠先生、大変です!俺と灯里が入れ替わったまま始業時刻が過ぎてます!」

「あれ?それまだやってたの?」

「本当に入れ替わってるんですってば!心配だから様子を見に……」

「うん、とりあえず、ご飯食べよ!」

 俺(見た目は灯里)は、翠先生に連れられて、リビングにやってくると、食卓の上に並んでいるものを見て、はっと気づいた。

「翠先生、ほら、正月なのにこの正月感のないメニューとか、俺、やらないじゃないですか!」

「昨日帰る前に灯里に、明日の朝はお餅って気分じゃないし、久しぶりに明くんのお味噌汁が飲みたいなって言ってたのをパパに伝えてくれたんでしょ?」

 正月感のないメニューは、灯里が空気読んだ結果だったー!

「あ、いつもより美味しい!」

 しかもクオリティが高かった!


 その後ものらりくらりと翠先生にかわされ続け、やっと翠先生が、「じゃあ、病院行こうか?」と、言ったのは、翠先生が予約していた面会時間の30分前だった。

 病院の患者さん用の出入り口には、いつもより多くの警備員が立っていて、検温をしたあと来院目的や、渡航歴、症状の有無などを紙に記入するよう言われた。

 患者さんはいつもこんな煩わしい思いをして来てたのかと思っていると、翠先生が「年明けから感染症対策強化するって言ってたもんね」と、つぶやいた。

 病院についた俺(見た目は灯里)は、「じゃあ、とりあえず、ママ行ってくるから、荘ちゃんと待っててね」と、荘太の病室に連れて行かれた。

 俺としてはいち早く、俺(中身は灯里)の様子を見に行きたいんだが……。

『今、中身笹岡なんだろ?』

 荘太の問いかけに俺(見た目は灯里)は、顔を上げた。

『笹岡が急に抱きついてくるし、『声』は通じなくなるし、パパと入れ替わっちゃったって言うから、本当に入れ替わったんだなと思って』

 荘太はわかってくれた!

 喜びのあまり、荘太に駆け寄ろうとしたところ、思いっきり手で制された。

『流石に中身が笹岡とわかってたらハグできない』

 ハグしようとはしてないんだが!


 そんなやり取りをしている間に翠先生が迎えに来て、俺(見た目は灯里)はNICUの子供用面会スペースに連れてこられていた。

 去り際に、荘太が『灯里は上手いことやってるみたいだぞ』と言っていたが、灯里びいきの荘太の言うことだから信じていいものかわからない。

 少し待っていると、きよしと美来がやって来た。

『あ、灯里ねーちゃんだ!』

『違うわよきよし、あれは中身は笹岡よ!』

 灯里、もしかして職場で入れ替わりをバラしたのか?

『灯里お姉さんが私達にだけこっそり教えてくれたのに、笹岡に言っちゃった!』と、『言い』ながら、美来は俺(中身は多分灯里)に、奥のスペースに連れて行かれた。

 俺(中身は多分灯里)が再び戻ってきた時、ちょうど翠先生は他の看護師に話しかけられていた。

 俺(中身は多分灯里)は、ポケットからいつも使っているメモ帳を取り出すと親指を立ててニヤッと笑い、再びポケットにメモ帳をいれると何食わぬ顔をしてきよしを連れて戻っていった。

 俺の何でもかんでもメモってあるメモ帳が、役に立っていたとは……。

 きよしを連れて行く俺(たぶん中身は灯里)に、看護師たちが話しかけている。

 何か、特に堀江とか、普段の俺に話しかけるよりも笑顔が多くないか?

 モヤッとした気持ちを抱えながらも、面会時間の終了とともに俺(見た目は灯里)は翠先生に引っ張られて病院をあとにした。

 俺の中身、多分灯里なんだが……。


 翠先生とともに帰宅した俺(見た目は灯里)は、やることがなくて手持ち無沙汰になっていた。

 晩御飯の下ごしらえは俺(中身は灯里)がやり終えているし、洗濯物はまだ乾いていないし、掃除も昨日完璧に終えている。

「灯里、昨日のご本の続き読む?」

 翠先生が医学大辞典を片手に現れた。

 うん、それ、4歳児が読む本じゃないですけどね。

 灯里と入れ替わっていることを説明するのに疲れ果てた俺(見た目は灯里)は、翠先生が手にしている医学大辞典を覗き込んだ。

 俺だって医療従事者の端くれだから、医学大辞典くらいは読め……意味わからん!

 俺(見た目は灯里)は、目を白黒させながらその場に倒れた。

「灯里?」

 そう言うと、翠先生は、俺(見た目は灯里)を抱き抱えて、ソファに座らせた。

「熱もなさそうだし、他に悪そうなところないけどなぁ、疲れが出たのかもね」と、翠先生は言うと、俺(見た目は灯里)の隣に腰掛けた。

 俺(見た目は灯里)の頭をなでてくれる翠先生の手の心地よさに、俺は安心してかまどろんだ。


 次に目を覚ました時、俺(見た目は灯里)の隣には、俺(中身は灯里)が座っていた。

「パパ、今日すっごく楽しかった」

 灯里(見た目は俺)が俺(見た目は灯里)にこっそり囁いた。

 そうか、パパは今日はすっごく疲れたよ。

「でも、朝早起きしたし、1日働いたら疲れちゃった」

 灯里(見た目は俺)がそう言うと、目を閉じた。

 俺(見た目は灯里)も、再び眠気に襲われて、目を閉じた。


 どこかから、除夜の鐘の音が聞こえた気がした。


 俺は、ソファの上で目を覚ました。

 どうやらあのまま眠ってしまったらしい。

 体中がバキバキだ。

 なんだか変な夢を見ていた気がする。

 隣では灯里が眠っていた。

 あれ?灯里は昨日お風呂に入ってから俺の隣りに座ってたような……。

 なんでパジャマじゃないんだ?

 灯里を起こさないようにそっとソファから立ち上がった俺は、時計を見て叫んだ。

「ヤバい!遅刻!」

「明くん何言ってるの?今日から休みでしょ?」

「え?今日って1月1日じゃ……?」

「今日は、1月2日、昨日明くんめっちゃ早起きして張り切って仕事に出かけてたじゃない」

 疲れすぎて記憶にないが、どうやら俺は働いていたようだ。

 笹岡は入れ替わりのことを忘れてしまいましたが、灯里ちゃんはバッチリ覚えているみたいです。

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