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騎士(ナイト)は誰?

「じゃあ、灯里あかり、お利口にしてるんだよ」

 いつもなら、荘太といられることで大喜びのはずの灯里は、今日は何だか不機嫌だ。

「パパだけずるい!」

「え?」

「パパだけ美来みらいちゃんに会いに行くの、ずるい!」

「いや、ずるいと言われても、パパ、仕事だし」

「私だって、美来ちゃんをもっと近くで見たり、抱っこしたり、お世話したりしたいのにー!」

 そう言うと灯里は、泣き出した。

 いつも聞き分けの良い灯里が、ここまでぐずるのは初めてだった。

 珍しく泣き出した灯里に、オロオロしていると「明おじさん、時間が!」と、荘太が言った。

 確かに、時間がヤバい!

「灯里ちゃんは、僕に任せて、行ってください!」

 そう言いながらちゃっかり灯里の肩を抱く荘太に一言言ってやりたいが、そんなことをしている場合ではない。

 俺は、泣きじゃくる灯里を尻目に駅へとダッシュした。


 電車に飛び乗った俺は、思わずよろけて誰かにぶつかった。

「あ、すみません!」

「いえ、構いませんわ」

『あら、笹岡じゃない……あなた、灯里様を泣かせたの?』

 俺がぶつかった黒ずくめの女性に抱っこされていたのは紫音しおんだった。

 ヤバい!灯里を泣かせたから、俺、呪われるのか?

『灯里様と美来の宿縁はとても強いものだから、致し方ないわね』

 よく分かんないけど許された!

『美来は灯里様に抱っこされたのね、羨ましすぎるわ。笹岡、あなた、灯里様を悲しませないためにもちゃんと美来を大切になさい!』

 それはもちろん、うちの子になる予定だし大切にするつもりだが……。

『まあ、美来には騎士ナイトがついているから、よっぽど大丈夫だけどね』

 確かに美来は、新生児の今の段階で、たくさんの新生児を見てきた俺から見ても可愛らしい顔をしているので、モテるし守ってもらえるのかもしれない。

 紫音の『話』を聞いているうちに、あっという間に病院の最寄り駅に到着し、俺は駆けだした。

 職員証を出しながら、そういえば、紫音がこの扉の開け方を教えてくれたなと思い出していると、NICUから『声』がした。

『今こそ!闇の力で扉を開けるのだ!』

 俺が休んでいたたった一日の間に、なんか変なのがいる!

 闇の力で扉を開けるということは、もしかして、職員証をかざす以外の方法で扉が開くようになったのか?俺が休んでいたたった一日の間に?

 と、思いつつ、いつもの癖で職員証をかざしたら、普通に扉が開いた。

 ……当院の職員証は闇の力でできているのか?


 何とかギリギリ朝礼が始まる直前に滑り込んだものの、猛ダッシュ直後の俺は、激しい息切れを起こしていたせいで、朝礼の内容はほとんど頭に入ってこなかった。

 朝礼が終わって、ぼうっとしていると、黒川から「さっきも言いましたが、笹岡さんは今日はとしくんの担当です」と、言って去って行った。

 ……としくん?誰?

『とっしー、今日の担当笹岡だって!ツイてないね!フゥ~!』

 拳志郎がちょっかいをかけていると言うことは拳志郎の近辺のベッドなのだろう。

 だがしかし、拳志郎は一言多いな。

『とし殿、今日の担当は笹岡でござるよ。微妙でござるな』

 ソレガシことトーマスも『発言』しているから、やはりこの辺りのベビーなのだと思うが、トーマスの『発言』内容は聞き捨てならない。

『とっしー、聞いてる?』

 梛子なこが話しかけてると言うことは、それなりにイケメンか普通の顔をしているのだろう。

 キョロキョロと見回していると、美来のきよしと反対側の隣に見たことがないベビーがいた。

 ネームプレートに、「佐藤俊雄さとうとしお」と書いてあるので、としくんで間違いない。

 そして、結構顔が整っているので、梛子が話しかけるのも頷ける。

『よくぞ来たな、ボク……俺様の闇の帝王の闇のしもべよ』

 だが、その『声』は、まさしく扉のところで聞いた『声』だった。

『おい、闇のしもべ、おむつ替えて!』

 そして、早速、闇のしもべとしておむつを替えねばならないらしい。

 オムツを替えていると、不意にとっしーが『闇のしもべ、お前昨日見たことないから新入りか?』と、とっしーが言った。

『笹岡は前からいたよ』と、とっしーの『言葉』に反応したのは愛斗まなとだ。

『笹岡って、美来……闇のプリンセスとおそろいじゃないか!』

 ん?美来は闇のプリンセスなのか?

『僕も美来とおそろいで笹岡だけど……』と、控えめな『声』で、きよしが言うと『きよしは黙ってろよ!』と、とっしーが怒った。

『あ、なんか、ごめん』

『名前はおそろいじゃないけど、ボク、俺様と闇のプリンセスは、ほとんど同じ日に生まれてるんだぞ!これはきっと運命なんだ!』

 ということは、とっしーもクリスマスイブ生まれか?と、とっしーの生年月日を見ると、12月25日出生と書かれていた。

『それなら、僕の方が近……』

『きよしは黙ってろよー!』

『あ、なんか、ごめん』

『きよしのくせに私より先にとっしーとお話しするからよ!』

『……なんか、ごめん』

 とっしーに責められたきよしは、さらに梛子なこからも責められていた。

『きよし、謝ってばっかで鬱陶しい』と、起き抜けの美来にまで文句を言われる始末だ。

『あ、ごめん……ごめん』

 もはやきよしの将来が不安でしかない。

『おー!みら……闇のプリンセス!おはよう!』

『とっしーおはよう』

 俺は不意に朝の紫音の言葉を思い出した。

 美来のことをプリンセスと呼んで慕っているとっしーは、もしかしたら美来の騎士なのかもしれない。

『美来、おは……』

『美来おはよう!』

『きよし、邪魔しないでよね!』

『あ、なんか、ごめん』

 そして、今日もきよしはなんだか情けない。

 全く、誰に似たんだか……。


 とっしーが、美来の騎士ならば、父親としてどんな男か見定めなければならないな。

『俺様は、漆黒の闇より出でし闇の帝王だ!』

 見定める前に自己紹介が始まった。

 とっしーは、紫音みたいに何か特別な力を持っているということだろうか?

『好きなものはミルクで、嫌いなものはチックンだ』

 闇の帝王って、そんな自己紹介するものか?

『俺様の闇の力で、チックンを消滅させてやる!』

 いくら闇の力でも、採血をなかったことにすることは……。

「笹岡さん、としくんの検体が届いてないって検査室から連絡があったんですけど」

 ほら、やっぱり、なかったことには……。

「あ、今日は調子が良さそうなので、採血はなしで」と、通りすがりの纐纈が言うと、自分が検査室に連絡しておくと言って去って行った。

 ……マジか?

 闇の力を使いこなす騎士って、最強そうだ。


 闇の帝王のとっしーの闇のしもべとして一日の業務を終えた俺は、翠先生の病室に様子を見に行った。

 スマホを見ていた翠先生は、顔を上げると「あ、明君、良いところに!」と言った。

「何かあったんですか?」

「荘ちゃんとこの執事さんから、急だけど明日一日荘ちゃんを預かって欲しいって連絡来たんだけど、有希ちゃんの予定聞く前に、スマホが壊れちゃった……」

「雅之に聞いときますよ」

「あ、雅之君たちきっと旅行から帰ってきてると思うから、帰りにちょっと寄ってささっと聞いてきて!」

 メールした方が早いなと思っていると、翠先生が「明君、返事は?」と言ったので、俺は反射的に「はい」と言った。

「ところで、今日は、美来の担当だったの?それともきよし?」

「あ、どっちでもないです。昨日生まれたとっしー、じゃなくて、佐藤って子で……」

「あー、昨日生んだ佐藤さんかな、あそこ両親とも美形だから、たぶん将来イケメンになると思うよ」と、言った翠先生は、「美来と並んだら美男美女でお似合いなんじゃない?」と冗談っぽく言った。

 確かに美来もかわいいが、とっしーも、まあまあ整った顔をしている。

 美来の騎士としては、見た目的にはとっしーが一番ふさわしいのかもしれない。


 そのまま帰路についた俺は、翠先生に言われていたこともあって、雅之の家に一度向かった。

 だが、雅之の家に明かりはついておらず、インターホンを押しても、返事がなかった。

 仕方がないので、雅之に、明日、荘太と灯里を預かってもらえるかメールして、俺は帰宅した。

「あ、パパ、おかえり!」

「明おじさん、おかえりなさい」

 朝とは打って変わって、灯里の機嫌は直っていた。

「あのね、パパがお休みに入ったら、パパと荘ちゃんと、私で毎日美来ちゃんに会いに行こうって言ってたの!」

 灯里は嬉しそうに言うと、「あ、あと、きよしも!」と付け加えた。

 嬉しそうにしている灯里の頭をなでている荘太の瞳に、何故だか疲労の色が見える気がする。

『笹岡が出かけてからずっと、灯里は美来ちゃんとやらの話しかしていなかったぞ』

 どうやら疲労の色は気のせいではなかったようだ。

~とてつもなくいらない気がする用語解説~


・検体……検査で使う血液とか尿とか諸々のことだと思って使っています。

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