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ライバル降臨

 波乱ずくめのクリスマスイブから一夜明けて、クリスマスの日になった。

 灯里あかりの枕元には、みらいちゃんの代わりになるはずだった熊のぬいぐるみが置いてある。

 美来みらいちゃんが我が家に来ることになった以上、ぬいぐるみの役割はなくなってしまったが、せっかく買ったのだから、渡さないのは勿体ないので、枕元に置いたのだ。

 ちなみに、みらいちゃんへのプレゼントもクリスマスツリーの星にかけた靴下に入れておいた。

 熊に付けるにはちょうど良いチャームだったが、美来にはまだ早いので、灯里が確認したら一旦しまっておくつもりだ。


「パパ、おはよう!」

 翠先生のお見舞いの前に色々と家事を済ませておきたくて、早起きして家事をしていると、灯里が起きてきた。

「灯里、早いね」

「今日も、ママと美来ちゃんの面会、行くんでしょ?」

「きよしは?」

「あ、きよしも!」

「面会は行くけど、まだ面会時間にはだいぶ早いよ」と、俺が言うと「そっかぁ」と、灯里は、しょぼくれて部屋に戻っていった。

 灯里が部屋に戻ったと思った数秒後、「パパ!大変!」と、言いながら灯里が戻ってきた。

 その手には俺と翠先生で用意した熊のぬいぐるみが握られていた。

「サンタさん、みらいちやんを返してくれたのに、熊のぬいぐるみまでプレゼントしてくれたの!」

「良かったじゃないか!灯里がいつも……」

「ダメだよ!サンタさんが破産しちゃう!」

 たぶん、熊のぬいぐるみ一つではサンタさんは破産しないと思う。

「灯里、サンタさんはきっと、灯里がいつもお利口にしてるから、ご褒美に熊のぬいぐるみもくれたんだと思うよ」

「そっかぁ。じゃあ、せっかくだから使わせてもらおう!」と、意気揚々と、灯里は、部屋に戻りかけて、「このリボンももらっちゃっていいんだよね!」と、聞いてきた。

「もちろん」と、答えると、嬉しそうに再び部屋に戻ろうとした灯里が、不意にクリスマスツリーを見上げた。

「あれ?みらいちゃんの靴下も何か入ってる!」

 灯里に言われて、俺はクリスマスツリーの星にかけてあった靴下を外して灯里に渡した。

「これは、美来ちゃんにかなぁ?」

「そうだね。でも、今の美来ちゃんに渡して食べたりすると危ないから……」

「じゃあ、私が預かっとく!」

 そう言って、美来へのクリスマスプレゼントも手にした灯里は、今度こそ部屋に戻っていった。

 灯里の嬉しそうな様子に、ほっと胸をなで下ろしながら俺は朝食作りを始めた。


「灯里、朝ご飯食べにおいで」と、子供部屋の扉を開けて、俺は思わず扉を閉めた。

 何か、熊のぬいぐるみの、腕とか足とかにものすごく強めにリボンが巻き付けてあった気がするんだが。

「パパ、朝ご飯できたの?」と、灯里が扉を開いた。

 その手には熊のぬいぐるみを持っている。

 が、やはり、腕とか足とかにリボンが巻き付けてある。

「あの、灯里、これ……?」

「上手にできてるでしょう?」

「あ、うん、そうだね」

 やばい、灯里の精神状態が不安すぎる……。

 なるべく早く、翠先生の面会に行こう。


 面会時間の開始に合わせて病院にたどり着いた俺たちだったが、産科病棟に向かおうとしたとき、不意に灯里の足が止まった。

「どうした?灯里?」

「美来ちゃんに会いたい!」

「ママじゃなくて?」

「うん、ママは元気だったけど、美来ちゃんは、昨日会ったときずっと寝てたから……」

 確かに、昨日の段階で、翠先生は元気だったが、美来は色々されて疲れて寝ていたな。

 あれ?きよしも寝ていたような……。

「きよしは?」

「あ!忘れてた!」

 灯里の中でのきよしの立ち位置がだいぶ低いことを俺は察した。


 NICUにたどり着いた俺たちは、ガラス越しに面会できるスペースにやってきた。

 先に現れたのは、きよしだった。

『誰?』

 目を開けたきよしは、俺たちを見てポカンとした。

 いや、きよし、昨日俺に会っただろう?

「きよしー!」と、灯里が言うと『あ!姉ちゃんだ!じゃあ、隣にいるのはパパか?何か普通だな』と、のんきに言うと眠り始めた。

 きよし、昨日、俺に『パパ』って言ってたよな!?

「きよし寝ちゃったね」

 まだ未熟児のきよしは、面会スペースに長居することはできずに連れて行かれた。

『ちょっと!何よ、きよし、どきなさいよ!』

 何だかきよしが文句言われてるが、聞いたことがある『声』がするなと思っていると、きよしと入れ替わりで美来が現れた。

『どこに行くの?どこに行くの?ねえ、ママはどこ?』

 キョロキョロしていた美来は灯里を見ると、灯里に釘付けになった。

「あ、美来ちゃん、こっち見た!」

 そして、灯里の声を聞くと、美来は手足をバタつかせた。

『この声!知ってるわ!私を助けてくれたお姉さんでしょ?私に、頑張れって言ってくれたお姉さんよね!』

 美来の様子に反応するように、灯里は、ぴょんぴょん跳びはねて、「美来ちゃん可愛い!」と、連呼した。

 きよしの時とはずいぶんテンションが違う気がするのは、俺だけだろうか?

「美来ちゃん、可愛い!美来ちゃん、元気になったみたいで良かった」

 美来も、あまり面会スペースに長居できる体調ではなかったため、すぐに連れ戻されていった。

「可愛い美来ちゃん、また、会いに来るね!」

『お姉さん!あれ?お姉さんが遠くなってる?お姉さん!』

 やっぱり、どこかで聞いた『声』だな、と、思いながら歩いていると、「美来ちゃんに会えたし、帰ろうか?」と灯里が言い出した。

「え?ママに面会していかないのか?」

「あ、そうだった!ママのところに行こう!」

 ていうか、翠先生に会えないから精神的に不安定だったんじゃないのか?


 翠先生の病室に着くと、そこには先客がいた。

「灯里ちゃん、明おじさん、こんにちは」

 荘太だ。

「荘ちゃん!こんにちは!」

「荘太君、どうしてここに?」

「翠先生が出産したと聞いて、お祝いをもってきました」

 荘太の視線の先には豪華なフルーツ盛り合わせが置いてあった。

 あ、これ、多分剥くの俺の仕事だ。

「それとね、保育園が冬休みに入ったら、私もそれに合わせて休んで灯里と過ごすつもりだったんだけど、もう少し入院してそうだから、明君が年末年始休みに入るまで、荘ちゃんとこで預かってもらおうって話しをしてたところなのよ」

 確かに、頼みの綱の雅之夫婦が、海外旅行に行ってしまって不在なので、どうしたものかと思っていたところだった。

「灯里ちゃん!よろしくね!」

「うん!そんなことより、今日ね、美来ちゃんが目を開けて、私の方を見てくれたの!すっごく可愛いの!」

「え?灯里ちゃんの弟はきよし君じゃ……」

「ママが産んだのはきよしだけど、サンタさんが美来ちゃんに出会わせてくれたの!凄く可愛くて、大好きなの!」

「う、うん、そうなんだ……」


 この時、荘太に最大のライバルが降臨したことに、俺は全く気付いていなかった。

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