サプライズプレゼント
今回は灯里ちゃん視点です。
いつものように起きると、いつも通りパパはもう起きていました。
部屋の外から洗濯機の音や、朝ご飯を作っている音がします。
私も起きてお手伝いしようかなと思ったら布団の中から、ぬっと手が出てきて私を布団の中に引きずり込みました。
「今日は、ママがおやすみで、灯里も一緒におやすみだから、一緒にもうちょっと寝よう……」
ママに抱きしめられながら、私も一緒に眠ってしまいました。
次に起きたときは、パパが家事をしている音はもう聞こえませんでした。
起き上がって時計を見ると9時でした。
今度は、布団の中から手は出てきませんでした。
「灯里、おはよう」
ママも今度は起きるみたいです。
本当は、今日は、パパとママと三人で、クリスマスイブをお祝いするつもりだったけど、パパは今日はお仕事になってしまったみたいです。
「ママ、おはよう!きよしもおはよう!」
ママのお腹の中にはきよし君がいます。
その前にママのお腹の中にいた未来ちゃんは、お星様になってしまいました。
本当だったら今日が、未来ちゃんが生まれてくるはずの日でした。
本当だったらサンタさんは、私たちのクリスマスプレゼントに、未来ちゃんを連れてきてくれるはずだったのに、お星様にしちゃうなんて、ひどいです。
だから、サンタさんに、みらいちゃんをかえしてください、とお手紙を書きました。
サンタさんなら、未来ちゃんを返してくれることが出来るかもしれないですよね!
だって、そりで空とか飛ぶんですよ!
遅めの朝ご飯を食べた私とママは、「どうしようね?」と、顔を見合わせました。
「ちょっとお散歩して、お外でランチしちゃおっか?」
「うん!」
そして私たちは、一緒にお出かけすることにしました。
「あー!」
家を出てしばらくした頃に、ママが叫びました。
「どうしたの?ママ?」
「何かカバンの中身がかさばってると思ったら、パパのクリスマスプレゼント入れっぱなしにしてた。ま、いっか!」
そして、一人で納得して「きよしもそう思うでしょ!」と、お腹をさすりました。
「あれ?何かきよしがお腹蹴ってる」
「どれどれ?」と、ママのお腹を触ると、確かにきよしがお腹を蹴っています。
「こっちの方をずっと蹴ってるね」
面白いことに、ママが体の向きを変えると、きよしは蹴るところを変えます。
さらに面白いことに、きよしが蹴っている方向はずっと同じ方角なのです。
「ママ、きよしが蹴ってる方向ってこの道の方向だよね?」
「うん、きよしはこっちに行けって『言って』るのかも!行ってみようか?」
ママと私で、ママのお腹を触りながら、きよしが蹴っている方向に向かって歩いて行きます。
きよしはずっと同じ方向を蹴っています。
しばらく歩いていると、公園にたどり着きました。
荘ちゃんとよく遊ぶ公園です。
公園にたどり着いても、きよしはまだ蹴っています。
もっと先に行けと言うことでしょうか?
私とママは、さらにきよしが蹴っている方向に歩いて行きました。
「………ぁー………」
きよしが蹴っている方向から、何かが聞こえてきました。
そこにあるのは、ゴミ箱!?
私はゴミ箱に駆け寄りました。
私の後ろからママも早足で着いてきました。
ゴミ箱の蓋を開けると、そこには赤ちゃんがいました。
「灯里、これ持って!」
ママはそう言うと、カバンの中から綺麗にラッピングされたプレゼントを取り出し、その包装紙を破ると、中に入っていた布を私に手渡しました。
「これは?」
「パパのプレゼントのマフラーのつもりだったけど、命の方が優先!」
確かに、パパは、ボロボロのマフラーを縫い合わせながら使っています。
パパにはもう少しだけ、ボロボロのマフラーで我慢してもらいましょう。
「こうして、こうして、灯里ちょっとここに座って、腕をこういう感じで、そう、ちょっとそのままこの子抱っこしてて!」
ママは、上手に赤ちゃんをマフラーでくるむと、私に抱っこさせました。
そして、どこかに電話し始めました。
赤ちゃんは小さくて、声も弱々しくて、ほんの少しのことで壊れてしまいそうな感じがしました。
「頑張れ、頑張れ」
私は抱っこしながら赤ちゃんを応援し始めました。
生まれてきた命に、死んで欲しくないから。
未来ちゃんが産まれるはずだった日に、生まれてきた赤ちゃんに死んで欲しくない。
未来ちゃんが生まれてくるはずだった日に、生まれてきた赤ちゃん……。
もしかして、サンタさんは……。
「頑張って!ミライちゃん!」
思わず口からその名前が出ました。
ちょうど、電話を終えたママが、少し目を丸くして私を見た後、優しい顔をして頷きました。
少しして、救急車が来て、ミライちゃんと、ママと私を乗せて、病院に向かいました。
その途中で、急にママの方からバシャッと大きな音がしました。
「あ、ヤバ、破水した」
この光景はいつだったか、有希ちゃんのお姉さんの清花さんの時に見た気がします。
あの後すぐ、清花ちゃんの赤ちゃんは生まれたと聞きました。
もしかして、きよしも生まれるの?
と、私が驚いている中、「もしもしー?私、破水しちゃったんだけど、病棟空きあったよね?」と、ママは冷静に、電話をしていました。
どうやらサンタさんは、クリスマスイブの日に、ミライちゃんときよし君をプレゼントしてくれるみたいです。