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ひびっちの真実

 明日はクリスマスイブだ。

 クリスマスツリーは一ヶ月前からバッチリ飾り付けが出来ている。

 灯里あかりも、枕元に靴下を置いて、いつサンタクロースが慌ててきてしまっても大丈夫なように万全に準備が出来ている。

 肝心のプレゼントは、翠先生と相談して、妥協案で熊のぬいぐるみにした。

 みらいちゃんは、熊さんになって、我が家に帰ってきたと言うことにする作戦だ。


「パパ、おはよう」

 朝起きると、灯里が、真っ先に俺に駆け寄ってきた。

 今日も灯里は可愛いなと思いながら「どうした?」と言うと、灯里は俺に小さな靴下を見せてきた。

「灯里の枕元に、靴下用意してあるだろう?」

「あのね、この靴下を、クリスマスツリーのお星様の所に飾って欲しいの」

 俺が不思議な顔をしていると、灯里は俯きながら小さな声で言った。

「お星様になっちゃった未来ちゃんにも、サンタさんがプレゼントくれたら良いなって思って」

 俺は頷くと、灯里の頭にポンと軽く触れながら、靴下を手に取り、クリスマスツリーの星に靴下を引っかけた。

「きっと、サンタさんは未来ちゃんにもプレゼントくれるよ」と、言いながら、プレゼントをどうしたものかと内心めちゃくちゃ焦っていた。

「あ、灯里、早いね、おはよう」

 程なくして、翠先生が起きてきた。

『灯里ねーちゃん、おはよー!』

「ママおはよう!きよしも!」

「あれ?この靴下、どうしたの?」

 翠先生は目ざとくクリスマスツリーの星に付けられた靴下に気付いた。

「お星様になっちゃった未来ちゃんのプレゼント用!」

「うん、そっか、灯里が今日一日お利口にしてたら、サンタさんが未来ちゃんの分もプレゼントくれるかもね!」

「わかった!じゃあ、まずは、パパのお手伝い!」

 そう言ってキッチンに走って行く灯里を、追いかけながら翠先生の方を見て、2人でうなずき合った。

 未来ちゃんのプレゼントを、何とかしなければ……。


 灯里を保育園に送り届けてから、翠先生と駅に向かった。

「どうしましょうね、未来ちゃんのプレゼント」

「未来ちゃんは熊のぬいぐるみになるわけだから、熊用の何かよね?」

『あ、おはよー!この時間にいるの珍しくない?』

 翠先生と未来ちゃんのプレゼントについて話し合っているさなかに不意にきよしが『話し』始めた。

『ママのお仕事が長引いたんだから仕方ないでしょ!何よ、きよしのくせに!』

 例の子のママのお腹は、さすがにコートの上からでもお腹の膨らみは分かるようになっていた。

「明君、聞いてる?」

「あ、えっと、熊用の何かにしようって所まで……」

「私帰りに、熊のぬいぐるみに付けたら可愛い感じの何かを探してみるよ!」

「あ、俺も、一緒に行きますよ」

 その時、翠先生は例の子のママに気付いたらしく、「あ、ちょっと向こうの方で乗ってもいい?」と、歩き始めた。


『笹岡、おはよう』

『笹岡、おはうぇーい!』

『笹岡、おはようでござる』

 いつものメンバーが、口々に朝の挨拶をする中に、『笹岡、おはよう!』と、ひびっちの『声』がした。

 ひびっちは、日比のお腹の中の子だ。

 と、言う事実は、誰からも聞かされていないと言うことは、日比は誰にも内緒で身ごもっていると言うことだろうか?

「日比さん、おはようございます!」と、高林君が日比に挨拶した。

『あ、高ちゃんの声だ!おはよう!』

 高林君はひびっちが『パパの声がする!』と言ったときにそこで話していたうちの一人だったが、どうやら高林君は父親ではないらしい。

 怪しいのは、牧野先生だ。

 牧野先生は何かと日比がお気に入りで、やたらと食事に誘っていたりしたし、何か色んな人に手を出してるみたいだし、ものすごく怪しい。


『ママがね、お仕事辞めようかなって言ってるんだ』

 面会時間も終わった頃、急にひびっちが言い出した。

『パパがパパだから、バレたら居づらくなっちゃうって』

 確かに、牧野先生の子を妊娠したと知られたら、何となく居づらい気がするかもしれないが、悪いのは手を出した牧野先生なのだから、日比が辞めることはないと思うんだが……。

『あ、パパの足音だ!』

 ひびっちの『声』に振り返った俺は、思わず数秒固まった。

「俺の顔に何かついているか?」

 そこに居たのは、纐纈こうけつだった。


 纐纈が……。


 ひびっちの……。


 ………………父親?


 思わず俺は、日比に駆け寄った。

「日比、纐纈がお腹の子の父親だからって、辞めることはないと思うぞ!」

 驚いた拍子に思わず発した言葉は、思ったよりも声量があったらしく、その場にいた全員が俺を振り返った。

 その中から、黒川が怒りの形相で俺の所に歩み寄ると、俺の耳をつかんで歩き出した。

 歩いて行った先は、患者説明をする小部屋だが、職員が連れて行かれるときは説教部屋と恐れられる部屋だった。

「何で、必死に隠してきたのに、笹岡さんが知ってるんですか?」

 俺の胸ぐらをつかみながら、黒川がドスのきいた声で言った。

「えっと、いや、何となく?」

「ていうか、あんな公衆の面前でバラしたら、冴木さんが凛ちゃんに、どんな嫌がらせをするか……」

 その時、「キャー!!!」と言う、堀江の叫び声が聞こえた。

 黒川と俺が慌てて説教部屋から出てくると、何故かよくわからんが、纐纈が日比に跪いていた。

「纐纈先生、膝でも痛いんですか?」と、聞いた俺は、黒川に後ろから蹴られた。

「纐纈先生が、凛華先輩にプロポーズしたんですよ!!どんなものからも守ってみせるから、一生一緒に居て欲しいって!!!!」

「え?そんなクサいことい……ぐはっ!」

 俺はすべてを言い切る前に黒川から殴られて撃沈した。

「そう言う訳なので、妻を傷つけるようであれば、こちらも容赦しませんので」

 纐纈がこちらに冷ややかな視線を向けてきた。

 え?俺?と思ったがよく見るとわずかに視線の先が俺ではなかった。

 纐纈の視線を追うと、俺の隣で冴木主任も撃沈していた。

 後から聞いた話では、俺が日比の秘密を暴露してしまった直後に、冴木主任が混乱と怒りにまかせてだいぶ口汚く日比を罵ったようだった。

 まあ、日頃の嫌がらせを思い起こしてもそれ相応の制裁を受けたようなものだろう。


「纐纈先生、確か明日休み取ってたから、凛ちゃんとデートしてきたらどうですか?」

「え?でも私明日は出勤で……」

「笹岡さん、明日も明後日も休み取ってましたよね?」

「へ?」

「クリスマスイブもクリスマスも休みとか、贅沢ですよね?」

 黒川が俺に詰め寄ったが、元々休みを申請していたのは明日で、クリスマスはたまたま何かの代休が振られただけなのだが……。

「明後日なら……」

「明後日は俺が休めない」と、纐纈にダメ押しされた。

 だが、明日の休みは譲れない。

 明日は、クリスマスイブは……。

「明君、どうしたの?」

 そこへ、翠先生が現れた。

「翠先生、良いところに!実は……」

 俺が助けを求める前に、黒川が翠先生に事情を話し始めた。

「そういう事情なら、明君が譲ってあげなよ」と、翠先生はきっぱりと言うと、「その代わり、帰ってから一緒にごちそう食べよ!」と、俺に笑いかけた。

 翠先生の笑顔が、どことなく曇っているのも、俺が明日の休みだけは代わりたくなかったのにも訳があった。

 明日のクリスマスイブは、未来の出産予定日だったからだ。

 纐纈先生、なにしとんねーん!


 ちなみに、納涼会で凛華ちゃんが泥酔したときに、纐纈先生がしれっとお待ち帰りしたようです。


 ほんと、纐纈先生なにしとんねーん!


 ちなみのちなみに、同日に牧野先生がお持ち帰りしたのは、その日凛華ちゃんと服がモロかぶりだった、冴木主任です。

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