表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/46

別れの時

『さようなら、愛斗まなと、あなたのオーラは、今までで二番目くらいに素晴らしかったわ』

 突然、紫音しおんが愛斗に向けて寂しそうに言った。

『え?紫音ちゃん、何で?』

 愛斗がそれを聞いてキョトンとして紫音に尋ねた。

 紫音の『発言』に『返事』をできるほど元気な愛斗はこの前のように危篤状態になっているわけではない。

『私、退院するのよ』

『え?そうなの?』と、驚く愛斗に、紫音は続けていった。

『だって、纐纈が退院だってママに言ってたもの』

 そこ、予言とかじゃないんかい!


 それから数時間後、紫音の母親が、紫音を迎えに来た。

 今日も変わらず黒づくめだ。

「あれ?麗華さん、紫音ちゃんのお母さん?そういえば、紫音ちゃんの苗字って、西園寺だったね!」

 面会に来ていた愛斗の両親が驚いた顔をして紫音の母親に話しかけていた。

 どうやら、愛斗の両親と紫音の母親は顔見知りらしい。

 そういえば、紫音の母親はいつも朝に来ていて、愛斗の両親はだいたい昼間に来ていたから、会わなかったのか。

「愛斗君が退院したら、一緒に公園デビューしましょう」

 紫音の母親が、いつもの調子で言った。

 紫音は、それまで公園デビューさせないつもりだろうか?

「わあ!素敵!でも、うちの子……」

 愛斗の両親は、愛斗がそれまで生きていられるかわからないと思ったのか、浮かない顔になった。

「いつも、愛斗君の笑顔に癒されていたのだから、きっと、一緒に公園に行けると信じているわ」

 力強くそう言うと、紫音の母親は、紫音と旦那を率いて出口に向かって歩き始めた。

 紫音の父親もそこにいたことに、俺はその時はじめて気づいた。

 紫音の母親のインパクトが強すぎて気づかなかった……。

 不意に、紫音と目が合った。

『そうだわ、笹岡』

 紫音は俺の顔を見ると、少し微笑んだ。

『安心しなさい、あなたの今後も波乱万丈よ』

 そう言われて、どう安心しろというのだろう?


 西園寺一家が去って行った後、愛斗の両親は、顔を見合わせてから、愛斗に話しかけた。

「何だか、麗華さんが言うと、本当に、愛斗が一緒に公園デビューできる気がしてきた!」

「確かに、頑張ろうな、愛斗!」

『何か、ママもパパも嬉しいになってる気がする!』

 愛斗が笑顔で手足をパタパタさせると、愛斗の両親はさらに笑顔になった。


 紫音は波乱万丈と言ったけど、今日も俺は無事に仕事を終えて、翠先生の診察が終わりそうか様子を見に行った。

 できる先生たちが戻ってきたうえに、翠先生の妊娠が発覚したため、翠先生が早く帰れる日もあるため、俺が帰宅する前に、一度翠先生も一緒に帰れそうか見に行くことにしている。


「うーん、子宮頚管が短いから、臨月に入るまでは、あんまり無理しないでほしいなぁ」

『だって、イケメンがいたら早く会いに行かなきゃいけないんだもの!』

 翠先生の独り言に、診察されている妊婦のお腹の中から赤ちゃんが『返事』をしていた。

 イケメンに会いたいからって子宮頚管を短くできるわけではないと思うが。

『僕、まだ出てこないけど?』

 そして、何故かイケメンという言葉に、俺の息子が反応していた。

『きよしは、たぶんイケメンじゃないから大丈夫』

『そっか、なんかごめん』

 って、イケメンじゃないって言われてるのに謝ってる!

 そんな弱くて大丈夫か?俺の息子!

「笹岡さん」

 バックヤードで様子をうかがっていた俺に、誰かが話しかけてきた。

 この声は、高林君か。

「あ、高林君、どうした?」

「忘れ物ですよ」と、高林君は、おれのスマホを手渡してくれた。

「そっかぁ、ありがとう」

『なんだか、イケメンの気配を感じるわ!』

 妊婦さんのお腹の中の女の子がはしゃいだ『声』を出すと同時に、妊婦さんがおなかの違和感を訴えた。

 ま、まさか、本気で出てくる気では?

「笹岡、ちょっと聞きたいことが……」

 そして、ここへ来てさらにイケメンの纐纈がやってきた。

 いや、でも、実際の姿を見ているわけではないからわからないかもしれない。

『キャー!さらにイケメンが来たわ!』

 彼女のイケメンセンサーにわからないイケメンはいなかったようです。

『こんなところでおちおちしていられないわ!ママ!私!出るわ!』

『え?梛子なこちゃん、早くない?』

 さすが俺の息子!もっと強く止めてやってくれ!

『きよしはイケメンじゃないんだから黙ってなさいよ!私、行くわ!』

 梛子がそう言うと、母親が腹痛を訴えだし、診察室は一気に緊迫した空気になった。

「急いでオペ室に行くわよ!あ!高林君、纐纈先生、いいところに!一緒に来てください!」

 翠先生は、イケメンたちを従えて、オペ室へと駆けていった。

 先生……俺は?

「明君は、灯里あかりのお迎え!」

 はい、そうでした。

『パパ、行ってらっしゃい』

 翠先生のお腹の中からきよしが弱弱しく言った。

 そして、きよしが『発言』したそばから、『きよしは来なくてもいいのに!』と梛子が言い、きよしは、『あ、何かごめん』と謝っていた。

 帰路につきながら俺は、わが息子の将来が不安で仕方なくなった。

 そして、『声』の幼さから言ってきっとNICUに襲来するであろう強烈キャラを思って、ため息をついた。

~いときりばさみの解説風~

 子宮頚管…赤ちゃんがいるところから出ていくまでの道のり?短いと、早産になりかねないとか聞いた気がします。得意分野ではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ