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時が来た

『あら、昼寝しているうちに、何だか大変なことになっているわね』

 愛斗まなとの『悲鳴』が響くNICUで、のんきに昼寝から目覚めたのは、紫音だった。

『いやぁぁぁぁぁぁ!やだぁぁぁぁぁ!死にたくない!死にたくない!』

『そういえば、一度だけ、助けるって約束したわね』

 いやいやいやいや、この状況で、愛斗は『悲鳴』を上げているし、心肺蘇生も止まってるし、何をどう助けるというんだ?


 紫音は、一つ息を吐くと、愛斗の方に手を伸ばした。

 そして、目を見開くと『喝!』と叫んだ。

 紫音は何をしたのだろう、と、愛斗の方を見ると、さっきまでほとんど平らだった愛斗の心電図が復活していた。

「へ?」

 俺が間抜けな声を出したのを聞いた、医者が、俺の視線の先を見て、ギョッとして、心電図モニターを二度見した。

「あの、纐纈先生!」

 呼ばれた纐纈はちらりと、愛斗の方を見て、ギョッとして、体ごと振り返ってモニターを二度見して、愛斗のベッドサイドに駆け寄った。

「奇跡だ……」と、纐纈が呟いた。


 ま、まさか、あの状況の愛斗を助けるなんて……。

 俺は感動して紫音の方を見たが、今度は紫音の心臓が止まりかかっていた。

「おい!紫音!紫音!」

 紫音を軽く叩いて刺激すると、心拍が再開した。

『本気を出しすぎて、危うく心臓を止めるところだったわ』

 本気出して呼吸どころか心臓を止めそうになってた!

 だが、誰一人として紫音の危機には気付いていなかった。

 皆、目の前で息を吹き返した愛斗に夢中になっている。

 それもそのはず、息を吹き返したら吹き返したで、処置が多いのだ。


 しばらくして、俯いて涙を流す愛斗の両親の元に纐纈が歩み寄った。

 愛斗の処置に夢中で、すっかり愛斗の両親の存在は忘れ去られていた。

「坂下さん」

 纐纈が、愛斗の両親に話しかけた。

 愛斗の両親は、覚悟を決めた様子で、顔を上げた。

 愛斗の両親は、心肺蘇生の手を止めることを了承してから、愛斗がどうなったのかを知らないのだ。

 真剣な顔をして纐纈を見つめる愛斗の両親に、纐纈は言った。

「愛斗君が、息を吹き返しました」

 呆然とする両親に、纐纈はさらに続けて「NICU始まって以来の奇跡です」と言った。

 愛斗の両親は恐る恐る、愛斗のもとへと歩み寄った。

『あ!ママとパパだ!』

 愛斗の手足がパタパタ動いたのを見て、二人は再び涙した。


 紫音の力が奇跡を起こしたことは、ベビーたちと俺しか知らない。


『何かね、何かね、すごかったよ!びゅーってなって、わーってなって、何か色々なってる間に、紫音ちゃんがかつ!って言ったら、ここに戻ってきてたんだ!』

 愛斗は興奮した様子で伝えてくれているが、擬音語ばかりで半分以上伝わっていない。

『愛斗』

 紫音が愛斗を呼び、愛斗はおしゃべりをやめて『なあに?』と、紫音に聞き返した。

『本当は、愛斗の命の灯はここで消える運命だったの』

『へ?でもボク、生きてるよ?』

『ええ、だって、一度だけ助けてあげるって約束したでしょう?』

『そっかぁ、紫音ちゃんが約束守ってくれたから、ボク、生きてるんだ!』

『まあ、そんなところね。本当は今日あの時死んでいるはずの命だったから、これからの愛斗がどんな運命になるのか、私にもわからないわ』

 紫音は自分の手を見た。

 その手から発せられた力の偉大さは俺とベビーたちしか知らない。

『今日のところは助けたけど、二度目はないから。愛斗は明日死ぬかもしれないし、ずっと生きていられるかもしれない』

 紫音は、視線を自分の目から愛斗に移した。

『愛斗は、自分の人生は自分で明るくすると言ったでしょう?』

『うん!』

『今も、その想いは、変わっていない?』

『もちろんだよ!ボクは、ボクも、ママも、パパも、NICUにいる皆も、みんな、みんな、人生が明るくなって幸せになれたらいいと思ってるよ!』

『そう、じゃあ、折角助けてあげたんだから、しっかり幸せになりなさいよ』

『何だか別れの挨拶みたいだね?』

 紫音の隣のベッドのベビーが言うと、紫音は得意げに言った。

『最近、千里眼で呼吸が止まらなくなったから、そろそろ退院できるころあいだと思うのよね』


 だが、この時紫音は知らなかった。

 一人のベビーの命を助けるために、心臓が止まりそうになった紫音の入院が延長になっていたことを。

 そして……。

「紫音ちゃん、何だか、モニターの履歴を見たら、一時期すごく徐脈になってたから、念のため一度採血しようか?」

 忍び寄る、纐纈の採血の恐怖を。


『お!パパの足音が聞こえる!』

 翠先生を迎えに行くと、翠先生より前に、きよしが俺に気づいた。

「あ、明君」

 翠先生は、はしゃぐきよしと裏腹に、気分が悪そうだ。

「翠先生、どうしたんですか?」

「つわりがひどくて……」

『何だと!ママ、調子悪いのか?ボクがなんとかしてあげるよ!』

「うう……」

 どうやら、翠先生のつわりの原因はきよしが張り切りすぎているからのようだ。

「きよし、ママが大好きなのはわかるが、落ち着け!」

『落ち着くってどうするんだ?こうか?こうか?』

「うっ……」

 やめろ!きよし!翠先生が吐きそうになってる!

「動かないでいるのがいいかな」

『えー?』

「私からもお願い、きよし」

『わかった!じゃあ、寝る!』

 きよしが動きを止めると、翠先生が、吐き気が収まったようで、ふうっと息を吐いた。


 翠先生は、この空気の読めないきよしと、あと何か月か付き合っていかなければならないのだ。

 何だか先が思いやられた。

※久しぶりの用語解説もどき※

・徐脈……脈が遅いこと。まあ、詳しい数字についてはぐぐったりうぃきったりしてください。


 何となく、早いとこ解決編まで行った方がいかなと慌てて書いたので、誤字脱字5割り増しくらいかもしれません。

 誤字報告お待ちしております。(他力本願)

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