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鈴村君の初恋

 こんにちは、鈴村竜二郎すずむらりゅうじろうです。

 お父さんの名前が竜太で、バカ兄……じゃなくて、お兄ちゃんの名前が竜一郎です。

 すごく安易なネーミングをされたな、と、我ながら思います。

「竜ちゃんたち!手伝って!」

 お母さんが呼んだのに、お父さんは、テレビに夢中で、バカ兄貴は、夢を見ながら妄想しているみたいです。

 こうやって呼ばれたときは、僕が手伝うほかありません。

「お母さん、何を手伝おうか?」

「もう、今日はお客さんが来るから張り切って準備しているのに、あと二人の竜ちゃんたちは使い物にならないわね!」

 まあ、いつも通りの光景なのですが、今日は本当は僕はとても張り切っています。

 なぜならば、僕の家に、灯里ちゃんが来るのです。


 灯里ちゃんに出会ったのは、一か月前の遠足のことだった。

 人見知りの僕は、隣の保育園の子たちと馴染めるか心配だったけれど、お母さんが、バスに乗るなり、知り合いを見つけて歩き出していった。

 その、ままの知り合いの人の子供が灯里ちゃんだったのだ。

 僕は、この時ほど、お母さんの子供でよかったと思ったことはなかった。

 灯里ちゃんは、可愛くて、知的で、とてもやさしい素敵な子だった。

 きっと、毎日頑張って、バカ兄貴とバカ親父のやりたい放題に耐えているご褒美を神様がくれたんだと思った。

 そして、さらに神様は僕にご褒美をくれた。

 お母さんと灯里ちゃんのお母さんの間で、お弁当のおかずの話から盛り上がって、近いうちにホームパーティーをしようと言う話になったのだ。

 神様、ありがとう!僕、ちゃんとお母さんのお手伝いするよ!

 そう、今日は、灯里ちゃんが僕の家に来るのだ。

 僕の今日の一番の任務は、灯里ちゃんを、バカ兄貴の魔の手から守ることだ!


 ピンポーン!

 インターホンの音がして、僕は、玄関へと急いだ。

「こんにちは!竜ちゃん!」

「こんにちは!」

 えっと、誰だっけ?

「もしかして、沙綾が一番乗り?」

 あ、そうだ、沙綾ちゃんだ。

 確か、灯里ちゃんの親友だっけ。

 さすがに灯里ちゃんの親友をバカ兄貴の毒牙にかけるわけにはいかないから、今日は、灯里ちゃんのほかに、沙綾ちゃんも守らなければいけないのか。

「ねえねえ、カノジョ、オレの彼女にならない?」

「え?イヤ!」

 げし!

 最近は、一撃でバカ兄貴を撃退できるようになった。

 そんな僕をキラキラした目で見つめる沙綾ちゃん。

 イヤ、うん、僕は、灯里ちゃんの親友だから君を守っただけなんだけど……。

 沙綾ちゃんのママは、深々と腰を折って、菓子折りを差し出していた。

「いやぁ、どうもどうも……」

 バカ親父が、菓子折りに手を出そうとしたところを僕がチョップで遮ると、お母さんが、「まあ、ご丁寧に、申し訳ありません」と、慌てて出てきて、丁寧に菓子折りを受け取っていた。


 次にやってきたのは、さやかお姉ちゃんこと平山さやかさんと、紗代お姉ちゃんこと山口紗代さんだ。

 この二人は、バカ兄貴のお気に入りと言うだけでなく、僕が手を出さなくても、自衛ができるので、とても助かる。

 何故なら、今日の僕は、灯里ちゃん(と、ついでに親友の子)を守るという重大な使命があるのだから。

 さらにしばらくして、双子の翔悟君と悠悟君が来た。

 この双子はイケメンだけど、二人とも、さやかちゃん一筋なので、きっと、灯里ちゃんに浮気することはないだろう。

「あれ?君、さーやちゃんじゃない?彼氏、みつかった?」

 どうやら二人は、灯里ちゃんの親友の知り合いみたいだ。

 何やら三人で盛り上がっている。

 この調子なら、沙綾ちゃんも僕が守らなくてもいいかもしれない。

「オレも混ぜて!」

 げしげし!

 だが、考えるよりも早く、足が出る癖は、どうしても抜けないらしい。

 僕の蹴りを食らって、伸びたバカ兄貴をリビングに放って、僕はお手伝いを再開した。

 沙綾ちゃんが、またしてもキラキラした目で見ているし、双子が面白そうににやにやしているけれど、僕が好きなのは、灯里ちゃんなんだ!


 またしても、インターホンの音がした。

 今度こそ灯里ちゃんかと思ったら、最初に知らない女の人が現れた。

「あれ?竜ちゃん、にしては何か顔がシュッとしてない?」と言ったのは、妊婦さんらしいふわっとした感じの女の人だった。

 我が家の男性は全員竜ちゃんなのだが、どの竜ちゃんの話をしているんだろう?

「もしかして、竜二郎君?」と、聞いてきたのは、黒髪がきれいなきりっとした感じのお姉さんだった。

「はい、そうです」と、僕が答えると、「そっかぁ、大きくなったねえ」と、二人のお姉さんが僕の頭をなでた。

 どうやら、僕が赤ちゃんの頃に会ったきりらしい。

「お姉さんたち、オレのカノジョにならない?」

 おはようのあいさつのように軽くナンパするバカ兄貴に反射で蹴りを入れると、「わあ、頼もしい弟君だねえ」と、妊婦さんが感心していた。

 二人のお姉さんの旦那さんらしき人たちも、僕の赤ちゃんの頃を知っているみたいで、「赤ちゃんだったあの子が、こんなに頼もしく育つなんて……」と、口々に言っていた。

 二組のお客さんを通すと、「おじゃましまーす!」と元気な声がした。

 灯里ちゃんのママの声だ!

「ねえねえ、オレのカノジョに……」

 しまった!この距離じゃ、間に合わない!!

 僕はダッシュでバカ兄貴から灯里ちゃんを守りに走った。

 が……。

「ごめんね、僕の大切な子だから」

 な、なな、何か、イケメンが灯里ちゃんを守ってる!

「フラれた!」

 バカ兄貴が、早くも失恋した。

 だが、それは、僕も同じだった。

 イケメンが「灯里ちゃん、大丈夫だった?」と、尋ねると、灯里ちゃんも、「ありがとう、荘ちゃん」と、ほほを染めた。

 何だかもう、入り込む隙がない……。

 僕の初恋は、ホームパーティーが始まる前に幕を下ろしてしまった。


 神様のバカヤロー!

 果たして、竜二郎君が報われる日は来るのでしょうか?

 それは作者にもわかりません。

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