沙綾ちゃんの遠足
今日はいつもより沙綾は15分も早く起きたの!
何でって、簡単なことよ!
今日は待ちに待った遠足の日!
ママも一緒に行くんだから絶対に楽しいわ!
「ママ、お弁当できた?」
「できたわよ!ほら!」
ママが沙綾にお弁当を見せてくれた。
「やったー!ミッフィーマウスだわ!」
それは、今を時めくアニメキャラクターのキャラ弁だった。
今日も沙綾が一番目立っちゃうわね!
今日はパパが車で保育園まで送ってくれたから、ママと沙綾が一番乗りだわ!
と思っていたのに、また、灯里が一番乗りに来たのね!
「沙綾ちゃん、おはよう!」
灯里は、沙綾に笑顔で余裕を見せているけど、沙綾は知ってるんだから!
今日の遠足は、付き添いは一人しか来られないんだから、どうせ、灯里の付き添いは、あの、冴えないパパなんでしょう?
「灯里!パパも行きたい!パパは、保育園の予定が出た時からずっとこの日を休みにしてたんだよ!」
ほら、灯里の冴えないパパが来たわ!
「ちゃんと、パパの代わりにパパのお弁当持っていくから、パパも、お昼におそろいのお弁当食べよう!」
あれ?灯里の冴えないパパが帰っていくわ。
まさか、灯里、いくら、パパがさえないからって、一人で遠足に行く気?
「明君、遠足は私に任せておいて!」
灯里の後ろで手を振る美人なお姉さんがそう言った。
何、あの美人なお姉さん?
まさか、灯里の付き添いはあの美人のお姉さんなの?
沙綾のママは、あんなに美人じゃない!
「沙綾も美人なお姉さんほしい!」
「沙綾ちゃん、さすがに美人なお姉さんはどうしようもできないわ……」
沙綾のつぶやきに、ママが慌てていた。
でも、沙綾は知っているのよ!
今日の付き添いは、パパかママじゃなきゃダメだってことを!
だから、美人なお姉さんと行くのはダメなんだから!
「灯里!今日は、パパかママとしか一緒に行けないのよ!」
「うん!」
「だから……」
「だって、私のママだもん」
う、うそ?あの美人なお姉さんが……ママ?
あんなにパパはさえないのに?
「今日はお隣の南部保育園さんと合同で遠足に行くので、このあと、南部保育園のお友達もきまーす!みんな、仲良くしましょうね」
バスに乗るとゆう先生が言った。
沙綾に続いて皆が「はーい!」と元気に言った。
バスが少し動いた後、お隣の南部保育園に到着した。
まあ、南部保育園の面々も大したことなさそうね、と、思いながら見ていると、見たことのある顔が沙綾の隣を通り過ぎた。
あ、あの顔は、沙綾の運命の彼氏!
名前も知らないけれど!
沙綾の運命の彼氏は、彼ママについていって、後ろのほうに歩いて行ってしまった。
「あれ?翠先生じゃないですか!隣の保育園だったんですね!」
彼ママは、後ろのほうに座っていた灯里のママに声をかけた。
灯里め!あんたにはイケメン彼氏がいるんだから沙綾にその席を譲りなさい!
と、思っていたけれど、今度は別のお母さんが割って入ってきた。
「やっぱり、翠先生ですよね!苗字も一緒だし、すごく似てるけど、翠先生のお子さんなら、名門の幼稚園に行くかなと思って、話しかけるのためらってたんです!」
「やっぱり翠先生ですか!今日は、病院は大丈夫なんですか?」
皆のママたちが、灯里のママをちやほやする中、ママがそこに割って入った。
「あら、産婦人科の笹岡翠先生って、先日事件の責任を取ってクビになったんじゃなくて?」
ママ!ナイス切込みだわ!何言ってるかよくわからないけど、きっとナイスな切込みを……。
「はぁ?あなた、何言ってるんですか?」
真っ先に、彼ママが沙綾のママを怒った。
あれ?
「小早川さん、そんなデマ、いまだに信じていたんですか?」
「あれ、絶対おかしいと思ったから、私すぐに放送局にクレームの電話入れちゃったわ!」
「私も電話したけど、つながらなかったのよ!腹立っちゃうわ!」
ママ、めっちゃ怒られてるじゃない!全然ナイスじゃないわ!
「あの一件は、無事に解決して、幸いなことに今も産婦人科医を続けております」と、灯里のママが言った。
「それでも、病院長の陰謀で、辞めさせられそうになったのに、どうやって巻き返したんですか?」と、沙綾の運命の彼のママが灯里のママに聞いた。
「病院にものすごく高額寄付をしてくれている人がたまたま知り合いで、状況をひっくり返してくれたのよ。志乃さんがいなかったら、私クビだったわ」
けらけらと笑う灯里のママとは対照的に、沙綾のママは、みるみる真っ青になった。
「せ、先生様は、中山志乃様のお、おおおお知り合いなのですか?」
か細い声で、ママが言うと、「あ、今、言っちゃったか!そうなんですけど、今の発言は内緒に……」と、灯里のママが言いかけたところで、ママは綺麗に土下座した。
「ママ?」
「沙綾ちゃんも土下座なさい!」
なんで私も?
「大変、失礼いたしました。どうかこのことは、穏便に……」
「あの、朝一のニュースで私の名前が流れていたことは主人から聞いていたので、誤解を招くことになっていたのはごもっともだと思いますし、お気になさらないでください」
灯里のママがそう言うと、ママは、灯里のママの足に縋りついた。
「なんと!なんと慈悲深い!」
ママはちらりと沙綾を見たけれど、沙綾は、そこまではやらないわよ!
結局、沙綾の運命の彼氏は、灯里のママの集団とその子供たちの集団に飲み込まれてしまった。
ママが灯里のママと知り合いだったら、沙綾は沙綾の運命の彼氏のお隣に座れたかもしれないのに!
ママったらあれから全然灯里のママたちの集団に近寄らないから、全然近づけないじゃない!
沙綾の運命の彼氏とは全くお話しできないうちに、バスは目的地の公園に着いた。
そうだわ!ここからが遠足本番よ!ママが行かないなら沙綾が行けばいいのよ!
バスから降りると、沙綾は沙綾の運命の彼氏のもとへと走った。
「こんにちは!」と、沙綾が可愛らしく挨拶すると、「あ、初めまして!」と運命の彼氏は言った。
こんなに可愛い沙綾のことを忘れるってどういうこと?
「私は、小早川さあ……」と、沙綾が名乗ろうとしたときに、「竜ちゃん!こっちおいで!」と、彼ママが沙綾の運命の彼氏を呼んだ。
彼は、竜ちゃんって言うのね!
「沙綾ちゃん、一人で走って行っちゃうから、追いつくの大変だったわ!」
ママが、走りながら沙綾に言った。
「ママ、沙綾、あっちでお弁当食べたい!」
沙綾が竜ちゃんのほうを指さすと、ママは最初イヤそうな顔をしたけれど、はっと思いついたように、「そうだわ!沙綾ちゃん、灯里ちゃんとお友達になりなさい!あの子なら沙綾ちゃんと釣り合うわ!」と言った。
「ママ、何言ってるの?」沙綾はどや顔をすると、ママに言った。
「沙綾、もともと灯里と親友だし!」
沙綾は灯里の一番のお友達なんだから、それは、親友ってことでしょう?
「そ、そうなの?じゃあ、仲良くね」
ママがそう言うと、沙綾は、灯里と竜ちゃんの間に入り込んだ。
後から来たママが、レジャーシートを広げてくれた。
ふっふっふ……。
とうとうこの時が来たわね。
沙綾の可愛いキャラ弁の出番よ!
「みんな!見て!」
沙綾がお弁当箱のふたを開けると、中からミッフィーマウスが出てきた。
「うわぁ!ミッフィーマウスちゃんだ!」と、目を輝かせる灯里。
「でも、今日って、キャラ弁禁止じゃない?」と、冷静に言ったのは、沙綾の愛しの竜ちゃん。
竜ちゃん、何で、キャラ弁をほめてくれないの?
ママも、何とか言ってよ!と、ママを見たけれど、ママは青ざめて固まっていた。
「ていうかこれ、ご飯と海苔しかないじゃない!」と、竜ちゃんのママが言った。
「それじゃあ、可愛そうだから、おかず分けてあげるよ!」と、今度は灯里のママが言った。
「うちのも、分けてあげるよ」と、竜ちゃんのママも言った。
今日は、このキャラ弁で、沙綾が主役になるはずだったのに、何なのこの扱い!
でも、灯里のお弁当も、竜ちゃんのお弁当も、すごくおいしそう……。
「はい!じゃあ、代わりに、ミッフィーマウスのお隣のお米もらうよ!」と、竜ちゃんのママが、自分のお弁当の中身と少し交換してくれた。
「じゃあ、これもどうぞ!じゃあ、こっち側のミッフィーマウスのお隣のお米もらうね」と、灯里のママが言った。
「うちのおかずと、鈴村さんのおかずも交換しませんか?」灯里のママが、よだれをたらしそうになりながら言った。
「いいですよ!翠先生のところもおいしそうですね!お医者さんで忙しいのに料理も上手なんて、尊敬します!」
「うちのは、主人が作っているんですよ……」
そのまま、灯里の家か、竜ちゃんの家でホームパーティーでもするかと言う話で盛り上がり始めた。
このままじゃ、沙綾だけ仲間外れだわ!
「あ、あの!」
沙綾は立ち上がった。
驚いた顔をして沙綾を見た竜ちゃんのママと灯里のママに、沙綾は言った。
「うちのママにも、料理教えてあげてください!」
本当は、鈴村兄が迎えに来て、先生母親女児無差別に告白しまくって振られるオチにしたかったのですが、長くなってきたので、途中で終わらせました。
そうしたら、何故か、鈴村家参入フラグが立ってしまいました。
さて、どうしたものか……。
人知れずこっそりこの旗折っておくか……。