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聖女無双  作者: 水無月 黒
序章
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聖女の憂鬱3

 「話を戻すぞ。」

 優太は、エリザベス嬢とマリエラ王女の乱入でグタグタになった話を無理やり戻した。

 「えーと、『聖女の衣』の話だったな。」

 「見てもらった方が早いだろう。」

 優太は先ほどやりかけたことを改めて行う。

 まず、『聖女の衣』の上、小袖の部分を脱ぐ。

 次に、用意されていた着替えに手を伸ばす。

 だが、着替えを手にした時点で優太の体は『聖女の衣』に包まれていた。そう、先ほど脱いだはずの小袖をいつの間にか着てしまっていたのだ。

 「ええっ? 」

 「服を着ようと思った時にはもう『聖女の衣』を着た状態になってるんだ。別の服を着る隙がない。」

 だが、実はこのおかけで先ほどは助かっていたのだ。上半身裸の優太とアルベルト王子が二人でいるところをエリザベス嬢に見られたら、そしてマリエラ王女に見られたら、どれほどカオスな状況になったことか。

 「『聖女の衣』の上から羽織ってみたり、無理矢理内側に着て見たりしてもいつの間にか脱げてしまうし、『聖女の衣』以外の衣服が着れなくなったようだ。」

 優太も、既にいろいろと試していたようだ。

 「聖女様関連は神殿の方が詳しいだろうが……、神殿に戻られたライオール卿には後で聞くとして、まだ城内に残っている神官もいるし、王家で管理して入り資料に何かあるかもしれない。少し調べて来るから、ユウタはここで待っていてくれ。」

 そう言って、アルベルト王子は出て行った。


 小一時間ほどして、アルベルト王子が戻ってきたが、何故か魔導士長エドウィン=ウィリアムズが一緒だった。

 「『聖女の衣』は神代に作られ、現代に至るまで再現できないアーティファクト。過去多くの魔導士がその仕組みを知ろうと調べてきた。その記録が残されている。」

 つまり、マジックアイテムの第一人者としてエドウィン魔導士長がやって来たわけだ。

 「結論から言うと、ユウタ殿の『聖女の衣』に対する適性が高すぎることが原因だ。」

 ズバリと言い放つエドウィン魔導士長。だがこれだけでは何も分からない。エドウィン魔導士長の話は続く。

 「知っての通り、『聖女の衣』は聖女様であれば着用することができる。しかし、同じ聖女様でも適正というものがあって、適性の高い人ほど『聖女の衣』の能力を簡単に引き出すことができる。ユウタ殿の適性は、歴代聖女様の中でもトップクラスだ。」

 『聖女の間』での一件、『聖女の衣』に触れるだけで着てしまうというのはなかなかあることではないらしい。

 「適性の高かった過去の聖女様の中には、何時でも何処でも念じるだけで『聖女の衣』に着替えることができたという記録がある。ユウタ殿の場合は、これのさらに強化された現象だろう。」

 「……つまり、俺の場合、『聖女の衣』に限らず何か服を着たいと考えるだけで『聖女の衣』に着替えさせられるのか?」

 「おそらくそういうことだろう。実に興味深い。」

 エドウィン魔導士長、すっかり研究者の顔になって言う。

 「何とかならんのか?」

 「過去に例のない現象だから、こればかりはどうにも。念じるだけで『聖女の衣』に着替えた例ならば、密閉した部屋に『聖女の衣』を封印しても、国外へ出るほど距離を空けても、一瞬で着替えたそうだ。」

 よくそこまで実験したものだ。

 「参考になるかどうかわからないが、逆に、生涯『聖女の衣』だけで過ごしたという例ならばある。」

 「可能なのか? そんなこと。」

 着たきり雀の聖女様、というのも想像し難い。

 「ああ、可能だ。まず、『聖女の衣』は耐寒耐熱に加えて各種環境耐性を備えている。どのような場所へ行こうと着替える必要はない。」

 春夏秋冬、極寒の極地から灼熱の砂漠までこれ一つでOK。実に便利な服である。

 「それに、浄化機能があるから、汚れも臭いも一瞬で落ちるし、皴もできない。」

 「確かに! 昨夜着たまま寝たのに皴になっていない。」

 洗濯不要だから、替えの衣服もいらない。確かにこれ一着で事足りる。

 「しかし、物理的に問題なくても、TPO的に着替える必要が出て来るんじゃないのか?」

 優太が別の角度から疑問を投げかけるが、それにはアルベルト王子が答えた。

 「いや、問題ない。『聖女の衣』は全世界が認める聖女様の正装だ。冠婚葬祭だろうと王の前だろうと何処へ出ても問題ない。」

 全くもって隙が無かった。そして何の解決にもならなかった。いくら優秀な服でも『聖女の衣』は女物だ。優太に女装趣味はないのだ。

 エドウィン魔導士長は、『聖女の衣』の能力一覧を記した紙束を渡し、「ここに書かれていない能力を見つけたら教えてくれ。」と言い残して去って行った。

 がっかりする優太。

 しかし、エドウィン魔導士長から渡された紙束を調べていたアルベルト王子が気付いた。

 「ユウタ、『聖女の衣』の能力に、デザインを変更するというものがあるようだが。」

 「え?……うん、できそうだ。」

 優太が『聖女の衣』に意識を集中すると、突然『聖女の衣』が巫女服から神官服のようなデザインに変化した。

 「おお、すごい数の衣装が登録されている……」

 次々に衣装を切り替えていく優太。同じような衣装でも、細部のデザインや色違いでさまざまなバリエーションがある。総数で数百ものデザインがあるだろう。

 考えてみれば、いくら優秀な衣服であっても、若い女性に同じ服ばかり着ろというのも酷だ。だがこれならば、一着でも数百種類の衣装を楽しむことができるのだ。

 しばし、一人ファッションショーを堪能した優太は、『聖女の衣』を最初の巫女服に戻すと叫んだ。

 「チクショウ―! 俺の着られる衣装が無い!」

 当然のことながら、登録されているデザインは全て女物であった。

 優太の苦悩はまだまだ続く。


 「ところで、アル。今更だが、俺って元の世界へ帰れるのか?」

 本当に今更だが、仕方がない。召喚されてからドタバタ騒ぎの連続で、優太自身にもそのことを気にする余裕がなかったのだ。

 「そのことなんだが、ユウタ……、これまで聖女様として召喚されて、元の世界へ帰った者はいない。」

 真剣な眼差しで語るアルベルト王子。沈痛な面持ちで聞く優太。

 「皆この世界が気に入ってくれたようで、元の世界には帰らないことを選択したそうだ。ああ、元の世界に帰りたくなったら言ってくれ。世界の危機が去った後なら何時でも帰れるから。」

 この人もたいがいお茶目だった。さすがはマリエラ王女の兄である。

 優太はずっこけた。

 「世界の危機が終わる前に帰ろうとしたら、全力で引き留めるけどね。」

 王様が土下座して引き留める場面(シーン)が見られるレアイベントである。優太も見たいとは思わないだろうが。


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