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聖女無双  作者: 水無月 黒
序章
2/96

聖女召喚(表)

アルベルト王子視点の話は最初の一話だけです。

ここから先は三人称、と言うより作者視点の話になります。

 彼の名前は、渡瀬 優太。現在二十歳の大学生。

 そして、不幸にもこの物語の主人公である。

 優太は、どこにでもいる、ごく普通の大学生だと言ってよいだろう。特別優秀というわけではないが落ちこぼれない程度に勉強し、趣味やサークル活動に青春を懸けるわけでもないがそこそこ遊んだ。将来の不安とか就職活動とかはまた来年にでも考えることにして、それなりに楽しく生きていた。

 そんなある日の夜、夜食でも買おうと夜道を歩いていた時に、彼は突然光に包まれた。

 「うわ、なんだ?」

 地面を見ると、優太を中心として円と複雑な幾何学模様、それと不思議な文字のようなものが光で描かれていた。なんだかとても神秘的で魔法っぽい。

 やがて光が薄れると、そこは見慣れぬ部屋の中で、周囲には大勢の人が自分に向かって頭を下げていたのである。

 (これはひょっとして、異世界召喚? 俺は勇者か?)

 彼も現代を生きる若者である。ゲームとかマンガとか小説とかでファンタジーな異世界ものにも多少の馴染みはある。すぐに異世界召喚だと直感した、あるいは期待した。

 チートとかハーレムとかいう言葉が頭をよぎる。でも底辺スタートのハードモードは勘弁な、などと期待と不安に胸を膨らませつつ成り行きを見ていると、正面の年輩の男が顔を上げた。

 「ようこそおいで下さいました、聖女さ……ま……?」

 おっさんが小首をかしげても可愛くない。いや、おっさんが可愛くても嬉しくないが。

 次々と顔を上げては沈黙する人を見ながら、優太の頭の中では一つの単語が気になっていた。

 (聖……女……?)

 言葉の意味は、まあ分かる。勇者とセットで聖女が出てくる話もよくある。優太はあまり読まないが、女性向けには聖女として異世界召喚される物語があることも知っている。ならば、優太ではなく聖女となる女性が召喚されたのか?

 優太は思わず右を見る。誰もいない。左も見る。やっぱり誰もいない。ぐるっと一周して真後ろまで見るが、それでも誰もいない。遠巻きに無言で見つめる者達ばかりで、優太の近くには誰もいなかった。

 召喚されたのは優太一人だけで間違いなかった。別人の召喚に巻き込まれたと言う可能性も消えた。

 無言の圧力に耐えかねた優太は、とりあえず思ったことを言った。

 「あの~、俺、男なんですけど。」

 パニックになった。

 優太は途方にくれた。周りが先に混乱してしまったため、自分がパニクるタイミングを逸したのだった。

 (飲み会で、皆が泥酔する中、一人だけ素面でいる気分だ。どうしよう。)

 どうしようもなかった。


 いち早く正気に戻ったのは最初に話しかけてきた男、この国の宰相であった。彼は手際よく周囲に声をかけて混乱を収拾し、優太と主要な数名を連れて別室へと移動した。

 そして今、優太はソファーに座りながら説明を受けていた。

 「つまり、神託に従って聖女の召喚を行ったら、俺が出てきたと?」

 「はい、簡単に言えばそういうことです。ただ、このような事態は初めてで、我々としても何故なのかはさっぱりでして……」

 弁の立つ宰相もさすがに歯切れが悪い。

 今この部屋には優太の他に、五名の人物がいる。

 司会進行、宰相ラルフ=ウォルトン。

 この国の王子、アルベルト=エスト=エルソルディア。

 王子の護衛役、王宮騎士団団長、ユージン=マクレーン。

 宮廷魔導士を束ねる魔導士長、エドウィン=ウィリアムズ。

 神殿から派遣されてきた神官たちの長、神殿長アラン=ライオール。

 このうち、魔導士長と神殿長が儀式に関する責任者だが、彼らにしても正しく儀式を行って召喚の儀式そのものは成功した、としかわからないのである。

 「やっぱり何かの間違いじゃないのか? 別の誰かと間違えて召喚されたか、聖女じゃなくて勇者を召還しちゃったとか。」

 「召喚される人物の選定は女神イシスによって行われるので、間違えてというのは考えにくいです。勇者様の召喚も予定されていますが、一月先のことですので……」

 「勇者様も聖女様も、召喚の儀式自体は大差ないが、それは女神によって送り込まれた者がこの場所に現れるための出口を作るようなもの。神託に合わせなければ、勇者召喚の儀式を行っても勇者が現れることはない。」

 ラルフ宰相の言葉をエドウィン魔導士長が補足する。

 「あ、勇者も召喚するんだ。なら、神様の都合で勇者を先に召喚したとか?」

 勇者召喚に一縷の望みをかける優太。別に勇者にこだわっているわけではなく、ちゃんとした理由が欲しいだけだった。

 「その場合、予め神託が下る筈です。何かの問題で神託が間に合わなかった場合は追って神託が下る筈です。今は待つしかないでしょう。」

 アラン神殿長の答えは、要するに神様のことは神様に聞くしかないということである。たが、神様に直接聞く方法は存在しない。だから今は神託を待つしかない、ということらしい。

 しかし、その時アルベルト王子がふと気が付いた。

 「いや、勇者様かどうか判定する方法ならばある。」


前回の話が聖女召喚の舞台裏と言うことで(裏)、今回が主人公側の話として(表)としました。

次回、優太の正体に迫ります。

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