表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女無双  作者: 水無月 黒
序章
1/96

聖女召喚(裏)

 その世界はとても不安定で、度々『世界の危機』に見舞われました。

 世界を管理する女神は、『世界の危機』を防ぎ、あるいは発生した『世界の危機』に対処するために神託を下し、必要に応じて素質のある者に力を与えて『勇者』や『聖女』を遣わしました。

 素質のある者がいない場合には、別の世界から『勇者』や『聖女』となる者を召喚して力を与えました。


 そして今、聖女の召喚が行われようとしていました。


*


 エルソルディア王国の王城の地下には特別な場所がある。そこは『召喚の間』と呼ばれている。

 神代から続くと言われるエルソルディア王国は、国の発展に伴い幾度か遷都も行われ、王城も立て直されているが、この『召喚の間』は必ず作られてきた。

 むしろ、『召喚の間』が機能する場所を条件に王都が選ばれ、『召喚の間』を作ることを前提に王城が設計される。

 世界を守る『勇者』や『聖女』の召還を行うこの場所は、エルソルディア王国でも最重要の施設の一つである。

 普段は閉鎖され、誰も立ち入ることのできない『召喚の間』では、半月ほど前から大勢の人が働いていた。神託により、聖女様の召喚が決まったのである。

 『勇者』や『聖女』の召還は、非常に大規模な儀式魔法である。『召喚の間』を魔法装置として地脈の力を利用し、神代から伝わる神具やアーティファクトも多数活用してようやく実現する難易度の高い魔法なのだ。

 女神の力を借りて行われるこの儀式魔法は、神官と魔導士が共同で行い、下準備から後片付けまで一ヶ月ほどかかる。

 作業してる者のうち、白い神官服を着ているのが神官、黒いローブを身に着けているのが魔導士である。彼らに交じって帯剣しているのは警備と雑用を任された騎士団員だ。

 さて、聖女召喚の儀式は今山場を迎えようとしている。『召喚の間』のほぼ中央にある召喚陣に魔力が集まり、うっすらと光を放っている。召喚陣が魔力の光に満ちる時、魔法は発動し、聖女様が現れるのである。

 私の名前はアルベルト=エスト=エルソルディア。エルソルディア王国の第三王子である。今回、エルソルディア王家を代表して聖女様を出迎えるためにここへ来た。

 王家を代表するのがなぜ第三王子なのか、疑問に思うものもいるだろうが、これには理由がある。慣例として、エルソルディア王国の王族から一人、聖女様の随員を出すことになっている。聖女様の活動を公私に渡って支援し、聖女様を利用したり取り込もうとする諸々の勢力に睨みを効かせる重要な役目であるが、長期にわたって聖女様と行動を共にする必要上、国王としての公務のある父上には務まらない。兄上達も同様で、皇太子としての立場のある第一王子や公務以外にもいろいろと忙しい第二王子に代わり、比較的自由に動ける第三王子の私がこの任に就くことになった。

 今回のお出迎えはその顔合わせも兼ねている。別に、代々絶世の美女であると言い伝えられている聖女様に興味があったとか、そういうことではない。

 私の右隣に立つのはこの国の宰相である。彼は国政に関して国王に次ぐナンバーツーであるとともに、かつては外交官として世界中の要人を相手に渉り合ってきた交渉の達人でもある。

 別の世界から召喚された勇者様や聖女様は、残念ながら召喚された時点ではこちらの事情を全く知らない。そのため、聖女様にこちらの状況を説明し、迅速かつ友好的に協力関係を築くための交渉を行うことが彼の使命である。

 召喚陣のすぐ側で見守っていた神殿長と魔導士長が一言、二言、言葉を交わすと、周囲で作業する者達に合図を送る。神殿から派遣された神官を束ねる神殿長と、宮廷魔導士のトップである魔導士長。この二人が召喚儀式の責任者である。

 召喚陣から溢れる光が急速に強くなり、その中に人影が見える。成功だ。我々はすぐに頭を垂れる。作業で手の離せないもの以外は、全員同じようにしているはずだ。勇者様や聖女様は神の使いであり、その立場は国王よりも上。たとえ王族であっても頭を下げて出迎える必要がある。

 本来ならば平伏して出迎えなければならないほどの存在なのだが、過去の勇者様や聖女様にそれをやってドン引きされたという経緯があり、今では略式でお出迎えすることになっていた。

 やがて、光が薄れた頃合いを見計らって、宰相が頭を上げて口上を述べる。

 「ようこそおいで下さいました、聖女さ…ま…?」

 珍しい、『弁舌の騎士』の異名を持つ宰相が言葉を途切れさせるとは。言葉を失うほどの美女が現れたのか、それとも逆に……。いや、それはあるまい。王家に連なる者として聖女様が必ずしも絶世の美女でないことは私も知っている。しかし、あの宰相が女性の美醜ごときで我を失うとは思えない。

 私も顔を上げ、そして……。

 「………………」

 「………………」

 「………………」

 いつの間にか、召喚の間は静まり返っていた。

 その沈黙に耐えかねたのか、召喚陣の中央に現れた人物は口を開いた。

 「あの~、俺、男なんですけど。」

 容姿以前の問題だった。

 『召喚の間』はパニックに陥った。


アホな話ですみません。思いついてしまったもので。

タイトルやあらすじを見て、美女or美少女が召喚されてくると思った方、いらっしゃいますか?

それ、アルベルト王子の絶望です。仲良くしてやってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ