表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
三章 潜伏勇者編
99/365

16 続・エリノアと門番たちの攻防

 



 ブレアの住まいにエリノアが戻ると、一瞬なぜか生温かい空気が漂う。

 先輩たちの微妙そうな顔、やれやれという表情とため息。


「? ただ今、戻りました……?」


 明らかに様子のおかしい先輩たちを不思議に思ったエリノアだったが……



「え!?」


 それを聞いて、目を見開いた。


「……ブレア様……私がいない間にお戻りだったんですか!?」


 表情豊かな娘の顔が、がーんと分かりやすくショックを受けている。……が、娘はすぐに先輩侍女たちのぬる~い視線に気がついて。ハッとして、赤い顔で取り繕うように視線を斜め上の天井にサッと向ける。


「そ、そうなんですかぁ……ど、どうせなら私めもご挨拶したかったですのにー……」


 あ、あはは、と空回りそうな笑いを漏らしながらも……エリノアは、心の中ではとてもがっかりしていた。



「はー……」


 ため息をつきながら、パタンと木戸を閉じる。

 侍女たちの居所で着替えをすませたエリノアは、一瞬、その場で重く沈黙してから――家路に向かって足を踏み出した。


 ――結局。あのあとブレアがもう一度住まいに戻ってくることはなかった。

 薔薇色とだいだい色の夕焼け空が次第に群青色に変わリゆく中を、エリノアは裏門を目指し、とぼとぼと歩いた。


「まあ……お忙しいんだから仕方ないわよね……だいたい、それも私のせいだし……」


 ブレアが突然忙しくなったのは、もちろん聖剣が大木の下から消えたせいで。

 だとしたら、それはやっぱりエリノアのせいということである。


「……」


 周囲を見れば、普段とは違いどこか緊張した同僚たちの顔。

 言葉少なに身を潜めるような、ハラハラと成り行きを見守るような彼らの姿には罪悪感しかない。

 皆、聖剣が消えたことを不安に思い、王国の未来にも懸念を抱いている。

 エリノアはため息混じりに斜めに傾く。

 

 こんな時に、その当事者が、王子に会えなかったからどうだとかのんきに考えている場合だろうか。


 そう思うと、なんだか悲しくなって。エリノアは鼻をすする。――すすりながら――……でも後悔はすまいとエリノアは黄昏時の空を見た。

 主人であるブレアのことも大切だが、家族のことも大切なのだ。その為に姉として下した決断を、いまさら悔いたりはしたくない。世間から見ればエリノアは“悪”かもしれないが、他には道を選びようがなかった。

 どう足掻こうとも、今現在自宅で聖剣がエリノアの帰りを待っている事実は変わらない。

 もう後戻りはできないのだ。決めたからには、やるしかない。


 そう決意するものの――哀愁を漂わせる空の色のせいか、侘しくて、心細くて。


 ――ああ、会いたいなぁと、しみじみと心の中にその姿が思い浮かんだ。


 つい肩を落としてとぼとぼ歩いていると……そこに、ひらりと何かが舞い降りた。


「――おい」


 ふわりと耳に当たった柔らかいものに気がついて目をやると、そこに白くてふわふわもこもこしたものが、一羽。


「――とり……?」

「何肩を落としている」


 つっけんどんな言葉に、ああ、と察する。……もちろん小鳥が言葉を喋っているだけですでに異常だが、もうエリノアはその程度のことには驚かなくなっていた。


「ヴォルフガングか……」


 さすがにもう分かった。獣人→うさぎ→犬→人間……ときて……


「今度は小鳥ですか……」


 やっぱりこの人どこかメルヘンの国の人だなぁ……と思っていると、小鳥はむすっと膨らむ。


「仕方あるまい。王宮侵入に相応しい姿を検討した結果だ」


 生真面目な小鳥の顔に、エリノアが思わず笑う。

 まあ、確かに犬やウサギでは野良としてつまみ出されるだろうし、人というわけにもいかない。

 今にもピヨピヨ言いそうな顔で、渋い声を出す小鳥がなんだかおもしろ可愛くて……

 少しだけ心細さが紛れたような気がした。……と、小鳥ガングはイガイガした顔をこちらに向ける。


「おい……ニヤニヤしてこっちを見るな! ……暗くなる前に帰るぞ」

「うん……よーし……じゃあ元気に帰りますか……!」


 少しだけ前向きな気持ちになったエリノアは、肩にヴォルフガングを乗せたまま気合を入れ直した。そしてそのままの気合の全速力(遅い)で、一気に裏門めがけて駆け出した。

 そして一瞬、いいんだ、きっと明日には会える! これからの働きで償うんだ! ……と、ぐっと目を閉じた瞬間に――


「! お、おい馬鹿止ま――」


 少々慌てたようなヴォルフガングの声が聞こえて……


 次の瞬間、


 エリノアは、ビヨンと首根っこを掴まれていた。※本日二度目。


「ぐっ……!?」

「……おいこら待てエリノア」

「!? あれ……?」


 いつも通り駆け抜けようとした裏門。気がつくとエリノアは、今朝と同じく、再び首の後ろをつかまれ、門番たちに取り囲まれていた。大柄な門番たち四人にジト目で見下ろされてうろたえる。


「お、ぉおおお!? お疲れ様です……?」


 どうやら――目をつむった瞬間に、彼らが手荷物検査をしているところに突っ込んでいたらしい。エリノアは、空とか下ばかり見ていたし、今は他に検査を受けている者もいないしで、裏門で検問が強化されていたことをうっかりすっぱり忘れていた……


 門番はジロリとエリノアを見る。


「お前……何、検問を強行突破しようとしてやがる……手荷物検査を受けない気か!?」

「ち、違いますよ、あの、元気よく家に帰ろうと思ってですね……」

「さては……また何か壊して荷物に隠しているな……?」

「…………え、あぇ!?」


 はなから聖剣については疑われてはいないが、別の件で再び疑いをかけられている模様。

 エリノアはそのまま門の端に置かれた簡素なテーブルの前に降ろされて、さあ荷物の中を見せろと言われて、おずおずとカバンを差し出した。

 どうして自分はこう、門番に毎回捕まるんだろう。そう思いつつ見ていると……

「どうせ今日も皿とかだろー」「いっちょ今日のまぬけの証拠でも拝ませてもらうかー」……と、何やら盛り上がり出した門番たち。お前はどんだけそそっかしいと思われているんだ、というヴォルフガングの視線が痛い……


「おい……どうする、取り戻すか? つつくか?」


 肩の上の目つきの悪い小鳥が低く囁いてくるが……エリノアはその柔らかい頭をふわふわと撫でた。


「いや……まあ別に怪しいものなんて何も入ってないし……」


 せいぜい、例の猫じゃらしでも見つけられて(まだ持ってた)小馬鹿にされるくらいだろう。

 ここを通る使用人全てが手荷物を改められるのだから仕方がない。

 苦笑しながら眺めていると、門番の一人が面白くなさそうに、おい、壊れ物が何も入ってないぞ!? どうしてだと、エリノアのカバンを持ち上げて詰め寄ってくる。門番からしてみれば、荷物検査をダッシュでスルーしようとしたエリノアは激怪しかったのだろうが……なんで入ってる前提なんだと、エリノアが呆れたようにその顔を見上げて……


 ……――その時。


「あ」

「え?」


 エリノアと睨み合っていた若い門番が突然息を吞み込んだ。

 青年が固まったのに気がついたエリノアがきょとんと瞬く。

 門番の青年は、エリノアの背後を見ていて……

 いったい何を見ているんだと振り返ろうとした瞬間――


「……近い」

「!」


 ごく短い一言に次いで、突然腰の後ろから引っ張られた。

 数歩を後退させられ、何かに受け止められて。

 門番から引き離されたことに驚いていると、こちらもまた驚いた顔をしている門番の手からエリノアのカバンが取り上げられるのが見えた。

 そしてその――エリノアお手製の布のカバンの行方を目で追って――それを持っている人物を見て、エリノアも、あっと叫んだ。


「っ――ブレア様!?」


 エリノアの目が木の実のように丸くなる。

 目にした金の髪の青年は、相変わらずの無表情で。灰褐色の瞳は鋭く門番たちを見据えていたが……

 エリノアが呼ぶと、その目は嬉しそうに微笑んだ。





お読みいただきありがとうございます。

都合により、チェックは後ほど。


門番達とは仲良しですよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ