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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
二章 上級侍女編
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42 恐ろしい出会い


 「赤子」「何故今更……」と面倒くさそうなヴォルフガングには、「私という赤子は今から恥じらいって言う大切なものを覚えるんです!」と……いう、やややけっぱちな説得を試みて。何とか渋々後ろを向かせることに成功したエリノア。

 くそ真面目に「そうか、成長か」ならば仕方なし、「育てよ」と、言う変な納得の仕方をしたらしいヴォルフガングの、大きな影に隠れながら……エリノアは脱いだドレスを水桶にそっと浸した。

 しかし……高価な布地が痛まぬようにハラハラしながら──と、いう絶妙なタイミングを見計らうようにして、背後から──トン、と肩に重みを感じた。


「あ・ね・う・え♪」

「っひぃっ!」


 同時に耳に生暖かい息を吹きかけられたエリノアが、ビクッと悲鳴を上げる。

 水場の縁に置いていた桶をドレスごと落としそうになって──どうにかそれを支えたエリノアは……ギロリと己の耳に息を吹きかけて来た不届き者を睨んだ。


「グレン!! 落としたらどうしてくれるのよ!!」

「あははは、姉上ったらぁ、随分可愛らしい姿をしておいでですねぇ」

「うるさいわねぇ……どうせあんたも、家では下着姿で徘徊してるクセに恥じらうなとか言うんでしょ!」


 エリノアはうっすら赤い頬をしながら、ふんッと桶の中のドレスに視線を戻した。グレンは笑う。


「いや~それはあれですよ、女性が自ら脱いだ時に見るのも楽しいですが、脱ぎたくない時に脱いだのを見るのも良いっていいますか……」

「あんた、殴るわよ」


 なんだかフェチっぽいことを言い出した黒猫を、エリノアはマジでキレる三秒前という顔で睨んだ。

 そんな黒猫は、エリノアの言葉(と顔)にケラケラ笑いながら、ぴょん、と肩の上から下りる。

 そして、猫の前足でにこにこと上を指差した。


「姉上、キレそうなところ申し訳ありませんが、とりあえずお知らせしておきますと、現在姉上のその格好を見た陛下もマジでキレる一秒前ですからね」

「う……!?」

「ですので、とりあえずこれを着て下さい」

「え」


 エリノアが短く声を漏らした時、目の前で、グレンの猫顔が歪む。ギョッとすると、その次の瞬間には、そこに、スラリとした黒髪の少年が立っていた。


「……」

「はいどうぞ」


 桶に手を突っ込んだままぽかんとするエリノアに、己の上着を脱いで差し出す少年は、歳の頃はブラッドリーと同じくらい。

 肩の上で切り揃えられた美しい黒髪は羨ましいくらいに歪みがない。飄々とした青い瞳には涼しげな睫毛が縁取られていて、その表情には言いようのない色香が漂う。……悔しいが(エリノアが)、美少年、と言って差し支えのない姿だった。


「……」

「ま、ブレアの姿も飽きましたしね」


 顔を強張らせ動かないエリノアの肩に、群青色の上着をかけてやりながら、少年──明らかグレン、は、微笑む。

 エリノアは……思わず聞いた。


「………………それ…………上着だけ出せないの……?」

「ええ、出せないんですよ」


 にっこり返された。




 ひとまずグレンの上着に袖を通したエリノアは、少年姿の彼と二人でドレスの染みと格闘した。猫の手じゃ、手伝えませんしねぇ、破いてもいいならやりますけど、というのがグレンの言い分だ。

 お陰で下着姿でいなくても良くなったのは嬉しいが、グレンがいちいち「姉上が私の服着てる! うふふ、かーわいい」「上着の下の太ももがなかなか」……と、からかって来るのがどうにも頂けない。


「…………」

「グレン、馬鹿な軽口ばかり叩いていると陛下に刺されるぞ。手を動かせ手を」


 渋い顔のヴォルフガングは、既にエリノアの髪を器用に清め終えてくれていて、いつの間にかその髪はふっかりと乾ききっていた。どうやら何らかの魔法のようなものを使ったらしい。エリノアにはちんぷんかんぷんだが。

 ヴォルフガングは二人の背後に腕組み仁王立ちし、周囲に警戒するような視線を走らせている。

 と、不意にヴォルフガングがぴくりと横に振り向いた。


「ぬ」

「え?」


 短い声にエリノアが顔を上げると同時に、傍にある王宮内へ繋がる木戸が勢いよく開かれる。


「エリノアー!!!!」

「ぎゃっっっ!?」


 鬼顔で扉を弾き開けて来たのは──ルーシーだった。


「お、お嬢様……」

「お黙り! お姉様とお呼び!! ……あんたったら! こんなところで何やってるのよ!」


 乱入して来たルーシーは、あわあわしている娘を上から睨む。


「も、申し訳ありません、あの、ドレスが……」


 弁償します、と項垂れる娘に、ルーシーは馬鹿なの!? と、言葉を叩きつける。


「あんたはもうタガートの人間になったのよ!? それくらいパパから搾取しなさい!」

「さ、搾取……」

「とにかく戻るわよ、私忙しいんだから! この後、オフィリア・サロモンセンたちも見つけ出して全員シメないといけないじゃない!?」

「や、本気でやめて下さいお姉様」


 エリノアは、キッパリと手を上げてお断りした。(本日二度目)


 ルーシーはエリノアの恰好を見て、ちっと舌打ちする。


「あんたったらこんな所でドレスを脱いで──……て、あら? なあにこの上着……」


 そこでようやくエリノアが男物の上着を着ていることに気がついたらしいルーシーは、ついでに傍に立つ白黒の男たちにも気がついた。

 呆れたような顔で憮然としている大男と、黒髪の美しい少年に、ルーシーは怪訝そうに眉を持ち上げる。不審そう(威嚇しそう)な義姉の様子に気がついたエリノアは、慌てて手を振る。


「あ、えっと彼らはその……そう、昔、トワイン家に縁があった人たちで……」

「……あら、そうなの? トワイン家の元家臣? に、しては若いけど……」


 二人をジロジロ見るルーシーに、グレンがにっこりと人当たりの良い(調子の良い)笑みを浮かべて進み出る。


「お初にお目に掛かりますルーシー様。私は昔のトワイン家の勤め人の息子でグレンと申します。この度はトワイン家のご親類様の手配でエリノア様のご様子を伺いに参りました」

「はあ? エリノアの親類? 確かあの薄情者のクソ共とはもう付き合いがなかったんじゃないの? ……え、ということは、まさか、あいつらも今日の会に招かれてるの!?」


 ルーシーは嫌そうに会場の方を尖った目で見た。

 

「あ、あ、多分、私が騒ぎを起こしたから……」


 慌ててごまかすエリノアに、ルーシーはそう、と鼻を鳴らし、グレンたちを睨む。


「ま、いいわ。あんたたち、クソ共に何を言われたか知らないけど、トワイン家に縁があるんだったら、しっかりエリノアを守りなさい!」


 じゃないとシメるわよ、と、猛々しい赤い巻き毛のお嬢様に……ヴォルフガングは憮然とし、グレンは楽しそうに手を上げる。


「はぁ~い♪ ……うふふ、この人サドッけありそうで面白そうですよね」

「……」


 こっそり耳打ちしてくるグレンに、エリノアは。

 なんだかこの出会いは非常に不安だ……、と思った。

 


お読み頂き有難うございます。


…舞踏会編がなかなかに長い…もういっそ章分けしたいくらい…(^_^;)

ルーシーとグレンたちが出会ってしまいましたね…

そしてやっぱりシメるつもりだった令嬢。

この三人をひきつれてホールに戻って大丈夫かエリノア!(;∀;)


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