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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
二章 上級侍女編
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36 王妃と側室、そして素敵な王女様

 クラウスの言葉には、王妃たちよりも過剰に反応した者があった。

 今までブレアの話題に、面白くなさそうな反応を見せていた側室は、途端眉を吊り上げた。


「まあ呆れた! ブレアと来たら、相手がいないからといって使用人を連れて来たの?」

「ビクトリア……」


 故意にホール内に響き渡らせようとするかのような声に、王妃が困った顔をする。

 ビクトリアはタガートに白い目を向けていた。


「いくらタガート家の養子だからって使用人が王子のパートナー? 王室が国民たちに笑われてしまうではないの、将軍、一体何を考えているの?」

「……」

「ビクトリアやめなさい。元は伯爵の子だと言っていたではないか、貴族の娘や、長男以外が王宮に侍女や近侍として入るのは何も珍しいことではない」


 国王が窘めるも、側室は口を閉じない。

 ビクトリアはタガートから国王と王妃の方へ向き直り、口の端を持ち上げたクラウスもそれに倣った。


「そうは言っても陛下。ブレアは第二王子という立場です。クラウスや第四王子の相手は公爵家の娘ですし、王太子のお相手は同盟国の王女です。それが……第二王子の相手が使用人? あまりにも格が違いすぎるんじゃありませんこと?」


 口ではそうは言うものの……扇子の影では、ビクトリアの口元は「実にいい気味だ」と言いたげな弓なりをしている。


「でも、タガート家に養子に入ったなら……」


 王妃は不安そうに国王の顔を見上げた。

 だが……国王の表情は渋い。


 タガートは将軍という身分を持つ傍ら、ルクスオアーゼ侯爵としての顔も持つ。しかし──それでも、エリノアがブレアの妃になれるかは、微妙だと言わざるを得ない。

 王位継承権を持つ者の結婚は、国にとって大きな問題であり、その為にはまず、クライノートの議会で可否が問われることとなる。

 大まかに言えば、それは王族と釣り合いがとれるのかという話ではあるが……問題は、“王位継承権所持者が貴賎結婚をする場合、その権利が失われる”という決まりがあることにあった。

 “貴賎結婚”とは、ようするに、階級的や経済的に釣り合いが取れていない者同士の結婚という意味である。

 これまで、歴々のクライノートの王家では、対等結婚が重要視されてきた。

 近年貴族の中でもじわじわと恋愛結婚をよしとする風潮も出てきてはいるのだが、王族や大貴族ともなると、まだまだそれは難しい。

 もし、議会でこれは身分が釣り合わないと判断された場合、それでもその婚姻を望む場合は法を変えでもしない限り、ブレアは現在第二位である王位継承権を失い、クラウスがその椅子に座ることになる。

 王妃が言うように、タガート家の養子ということでよしとする者もいるだろうが、議会員がエリノアの“使用人”“侍女”という点に難色を示す可能性は大いにあった。

 王位継承権に関わる問題だけに、特にブレアに期待を持つ者や、王室の安定を望む者になればなるだけ、首を縦には振らないだろう。何せ、クラウス王子の継承権が上がれば、皇太子派とクラウス派の争いは、より激化することが目に見えている。


 ──勿論これは、側室やクラウスにとっては大いに歓迎すべきことである。

 二人共、心の中では大いに喜んでいるに違いない。

 だが、元より攻撃的なこの親子は、これを機に王妃やブレアを嘲笑ってやろうという気が満々なのである。

 おまけに彼等にとって心強いのは、本日は舞踏会ということもあり、賓客たちの中にビクトリアの親族や、出身国の貴族も多く招かれているということだ。味方が多いことを心得ている二人は国王を前にしても強気な発言を繰り返す。

 

「年頃の娘は他にもいるでしょうに。いかに不出来な息子であったとしても、仮にも王子ですよ? これでは王妃の手腕も疑われますわね」

「……そんな……いいじゃないのビクトリア、ねえ陛下? だって、ブレアがせっかくあんなに……」

「うむ……」


 王妃は夫に同意を求めるが、難しい立場の国王もまた困っているようだった。息子の為を思うと、頷いてやればいいのか、否とすべきなのかが分からなかった。

 国王の戸惑いを自らの優勢と見たか、ビクトリアは勝利を確信したような高慢な顔で鼻を鳴らす。


「まったく、ブレアには困ったものですわね王妃。王室のことを考えていないにも程があるんじゃありませんこと?」


 その言葉に、王妃の柔和な顔がややムッとする。


「……ブレアはブレアでよく王太子を支えてくれているわ。あの子はちょっと不器用なだけよ」

「あらそうですか。でもそれは王子としてはどうでしょう。王国の安定を図るのが王族としての役目でしょう? 力をつけていくべきところを、自ら力を削ぐような真似をする者が王子として相応しいのかしら。ブレアにも私のクラウスを見習ってほしいわ。隣国の強い後ろ盾があり、良縁にも恵まれて。こういう王子こそが王室の柱となるべきだとわたくしは思いますわよ」

「それは……どういう意味!?」

「王妃……ビクトリア……やめなさい……」


 ブレアばかりか、王太子の地位を脅かすような発言を匂わす側室妃の言葉には、王妃が怒りを滲ませた。睨み合う二人に国王がほとほと困り果てている。



 ──そんな家族たちの不穏な空気を察知して。

 壇上から少し離れた場所で踊っていたブレアは、ため息をついて足を止めた。

 ──もう少し、騒がしい壇上からエリノアを遠ざけておきたいと思った。


「…………エリノア、少し休むか」

「あ、はい、はい……そうさせて頂いてもよろしいですか……?」


 二曲目を踊りきって。そうブレアに言葉をかけられたエリノアは、ホッとして彼を見上げた。

 自分のことでいっぱいいっぱいだったエリノアには、幸いなことに妃たちの騒ぎは耳に届いていなかった。

 エリノア的には、緊張していたわりに、足はよく動いたほうだと思ったが……正直、必死過ぎて出来栄えについては良く分からない。ただ、一先ずブレアの足を踏むことだけは何とか回避した。それだけでも、自分を褒めてやりたくて。思わずほろりと行きそうなエリノアだった。


 そうして二人は、王太子らと共に踊りの輪を外れ、休憩を取ることにした。

 その二組はとても人目を引いたが……有難いことに、オリバーに頼まれた彼の仲間たちが、彼等の為に周囲でせっせと人払いをしてくれた。

 ……そうでもしなければ、ブレアと、そしてエリノアが、好奇心につき動かされた賓客たちの質問責めにあい疲弊してしまう……と、いう熊騎士なりの配慮であった。

 因みにその熊騎士はというと。彼は本来共に舞踏会に来るはずだったパートナーのところへ行っており、現在彼女に謝り倒していると思われる。

 そして彼と共に、つい先ほどまでエリノアたちの傍で鷹のような瞳で周りを威圧していたルーシーは、来賓の中に愛しの“ジヴ様”を発見し……

 子猫のような顔をして一目散に走って行った。


 ……さて。

 王太子は壁際の長椅子まで辿り着くと、にこやかに、自分のパートナーとエリノアに腰掛けるよう促した。

 王太子の婚約者、同盟国の王女ハリエットは笑顔のままにそこにふわりと腰を下ろしたが、エリノアは戸惑ってブレアの顔を見る。と、王太子は母親譲りの優しい空色の瞳でエリノアに微笑みかけた。


「いいからどうか楽になさい。私たちは王族でもありますが、その前に男ですからね。レディを立たせて自分たちが座るなんて許されません」


 その完璧な紳士然とした物腰の柔らかさには……エリノアが若干引き気味で仰け反っている。レディなんて、面と向かって言われたことなんてなかった。しかも相手は王太子である。


「レ、レぇ……っ!? し、しかしですね殿下……王女様の隣に腰掛けるなんて、わたくしのような者にはとても……恐れ多過ぎて天地が引っくり返ります!!」


 エリノアがびくびくしながらそう言うと、ハリエット王女がころころと笑った。


「是非隣に来て下さいなエリノアさん。私、貴女のことがとっても気になってますの」

「う、」


 王女の品と清らかさ漂う微笑みに、エリノアが眩そうに仰け反っている。

 エリノアは思った。なんという気品溢れる紳士淑女カップルだろうか……

 二人が輝きすぎていて、よけい身の置き場に困ってしまったエリノアは、困惑のあまり顔を覆って呻いている。

 ブレアはそんな娘を笑って、優しく背を押した。


「エリノア……仰せの通りにさせて頂きなさい」


 大丈夫だから……と王子にそう言われてしまえば、エリノアとしてはどうしようもない。


「う、で、では、失礼いたします……」


 エリノアは決死の覚悟という形相で、恐る恐る椅子の端に座った。

 ──本当は。足にだいぶん負担が来ていた。普段はかかとの低い靴で働いているエリノアである。ヒールのある靴で踊った足は、緊張から解放されるといつの間にかとても重くなっていた。

 そのことに気がついていたブレアは、一瞬気がかりそうな瞳をして、それから兄を見た。


「兄上、私は何か飲み物でも用意させて参ります」

「そうだね、彼女たちに何か……誰かに頼んでも良いけど……私たちで行って来ようか。ハリエット、彼女を頼める?」


 王太子がそう言うと、王女は、淑やかな声で「はい」と頷いた。その事にエリノアは目を剥く。


「いけません! 殿下! 給仕ならわたくしめが!!」


 勢いよく立ち上がったエリノアは、そのままドレスの両端を握りしめ駆け出そうとするが──……

 ブレアがそれを止める前に、その首根っこを……

 ハリエットがガシリと捕まえる。


「うふふ。あら駄目よ、貴女は今日ブレア様のパートナーとしてここにいるのよ? そう言うことは他にお任せなさい」

「ひぇ!? し、しかし……」


 エリノアは顔汗をかきながら目を白黒させたが、王女はたおやかに笑いながら、王太子たちに微笑みかける。


「殿下、お願いできますか?」


 ハリエットがそう言うと、王太子は格別甘く優しい表情となり、ええ、と頷いた。

 

「ええ勿論。貴女の為なら喜んで」


 美貌の二人の甘い雰囲気に。エリノアが思わず一人で照れて固まっている。(※ブレア真顔)

 王太子はハリエットに微笑みかけて、エリノアにもにこりと笑みを向けて。そして、彼はブレアを連れてその場から離れて行った。

 ──その一瞬……ブレアが「大丈夫だ」と言うようにエリノアを見て。エリノアは、戸惑いながらもそれを見送るのだった……


 王子たちが行ってしまうと、ハリエットがもう一度エリノアを椅子に促す。


「さ、お座りなさいな、エリノアさん」

「し、しかし……」


 困惑顔のエリノアに、彼女はおかしそうに笑う。


「いいのよ。王太子殿下はわたくしたちには内緒で、何かブレア様とお話になりたくて弟君を連れて行かれたの。だから、せいぜいわたくしたちは楽をさせてもらいましょ」

「そ、そうなんですか……?」


 茶目っ気たっぷりに微笑む王女の顔に、なるほどとエリノア。

 こんな風にして弟王子が見知らぬ女を連れてきたのだ、兄としても王太子はブレアから早く詳しい話が聞きたいのかもしれない。

 すると、今度はハリエットが瞳を輝かせる。


「さあ座って。わたくしも貴女のことが気になっていると言ったでしょう?」

「う、ほ、本当にご一緒してよろしいんですか……?」


 ハリエットは同盟国の第一王女である。

 気を楽にと言われたものの、顔に汗しながらエリノアが伺うと……

 美貌の王女は、柔らかな知性を感じるヘーゼルの瞳を細めて、言った。


「あら……? エリノアさん、未来の王妃に逆らうの?」


 その、どこか油断ならぬ輝きにエリノアは……


「………………はい、すみません」


 大人しく素直に長椅子に腰掛けた…… 

 ……どうやら未来の王妃様は……うだうだ往生際の悪い者がお嫌いなようである……





お読み頂き有難うございます。

明日から帰省で恐らく、次まで少し期間を頂くと思います。

合間を見て頑張りたいと思います!


評価やブクマをして頂けると大変活力にもやる気にもなります!

是非是非よろしくお願い致します(*・ω・)*_ _)

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