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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
二章 上級侍女編
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33 出動、魔王軍。


 夜風の吹き付ける王宮の屋根に三つの影があった。


「……よろしかったのですか、陛下……」

「……」


 低い声に問われた少年は、冷たい顔で眼下を眺めている。

 彼の視線の先の明るい建物の中には、窓ガラス越しに、着飾って男の腕に手を回す姉の姿があった。

 頬を紅潮させて、ぎこちない様子の姉を静かに見つめながら、ブラッドリーは呟くように答えた。


「……仕方ない。あんなふうに姉さんに頼まれたら……」


 ──昨日。帰宅したエリノアはずっと様子がおかしかった。

 そわそわと家中を徘徊したかと思うと、自分の寝室で転げ回ってみたり。家事をしていたかと思うと、いきなり床に沈んで呻き出したり……

 ブラッドリーやコーネリアグレースが、どうしたのと聞いてみても、エリノアは何も話してくれなくて。

 心配で、不安で、ブラッドリーはその夜は一睡もできなかった。

 そして今日の朝、もう一度彼が、姉に理由を問うと、こちらもまた眠れなかったらしいエリノアが、やっと口を開いたのである。


『ブラッド……私、タガートのおじ様の養子になるわ!』、──と……。


 ──決意に満ちた、顔だった。


 ブラッドリーは勿論驚いて。

 でも、『父さんのためにも』と懸命な姉の姿には、何も言えなくなってしまった。

 “トワイン家”としての父は、今、下に見えている男、第三王子クラウスの派閥に失脚させられた。

 その派閥争いが今なお続いているとしたら、それを知った姉が、クラウスから現在の主人、ブレアを守りたいと思うのは、仕方のないことかもしれなかった。

 姉弟は当時──自分たちが子供であることを──非力すぎる自分たちが、父の為に何も出来ないことをとてもとても悔やみ、苦しんだ。

 その死を見送った時の胸を裂く様な遣る瀬無さを、ブラッドリーは今でも忘れてはいない。……きっと、姉もそうなのだ。


「……」


 ブラッドリーは、暗い双眸から殺気と侮蔑を込めてクラウスを睨む。


「……今すぐ殺せる力は僕の手の中にあるんだけどな……」


 ブラッドリーが、つと、腕を上げると……手の中に黒煙が現れて、それは剣をかたどった。

 鋭い切っ先をクラウスの方へ向けながら、ブラッドリーの瞳はどんどん暗く冷たくなって行く。


「今……これをあいつの心臓に突き立てれば……少しは父さんも浮かばれるのかな……」


 ──勿論、ブラッドリーの剣はガラス越しであろうと、壁越しであろうとも正確にその心臓を射抜くだろう。

 それは、とても簡単なことだった。


 ……けれども。


「…………」


 ブラッドリーは肩から力を抜くと、手の内から剣を霧散させる。

 黒い煙は夜空の中に立ち昇って、溶けるように消えて行った。


「……おや、おやめになるんですか?」


 グレンの問いかけにブラッドリーはため息をつく。


「……せっかく姉さんが頑張ったんだし……相手は気に入らないけど……」


 面白くなさそうにブラッドリーは呟く。


「姉さんずるいよ。……綺麗なんだもん、あんなの邪魔できないじゃない」


 本当に久々に着飾った姉は、とても綺麗で。とても嬉しそうだった。

 多分……嬉しそうなのは、着飾れたから、……ではないが、ブラッドリーはそれを認めたくなかった。

 しかしその代わり、ブラッドリーはきっぱりと言う。


「……あいつがちょっとでも姉さんに不埒な真似をしたら、存在ごとこの世から消そう」


 いっそ清々しい言い切りように、グレンが、「陛下素敵!」と、きゃっきゃ、言っている……

 そんな物騒な決意表明をした魔王の視線の先の建物内では……緊張した面持ちでホールの中へ入場していく姉とブレアの姿が。ブラッドリーは、姉を見るブレアの目が優しい事に気がついて。やや不機嫌そうにそれを見送った。


(…………)


 その主人をヴォルフガングが心配そうに見ている。


「しかし、陛下……ここは少々聖剣に近すぎやしませんか……? あまりお近づきになるのはよろしくないかと……」

「そうそう。姉上の所有物になったから、肉親の中和でだいぶん陛下のお身体にも障らなくなってますけどぉ……わー、ほらほら、ここからも見えますよ! 女神の大木!」


 屋根の上から身を乗り出したグレンは、王宮の敷地内に見える大木を見て笑う。

 それを忌々しそうに睨みながら、ブラッドリーは頑固な顔を見せる。


「……仕方ないだろ、姉さんがブレアに襲われたらどうするんだ……僕は絶対姉さんから目を離さない。」

「……クラウス(親の仇)の方じゃないんですね……」


 再び言い切った主人に、ははーん、といかにも愉快そうな顔のグレン。ブラッドリーは当然だと暗黒顔で返す。


「勿論そっちもだけど……今まさに姉さんに触れているやつのほうが僕は許せない……」


 あんなに可愛い姉さんになら誰がよろめいてもおかしくないじゃないか、と本気で断言するブラッドリーの瞳は、「何かあったらあいつマジ殺す」という目をしていた。

 それを見たグレンは「盲目が過ぎるー!」と笑い転げた。が……

 ブラッドリーに睨まれると、黒猫は赤い舌を出して「えへ」っと身を正した。


「ですよね~、あはは、じゃ、私、下に行ってウルトラ可愛い姉上の監視をして来ま~す♪」

「……真面目にやれグレン……では、私も行って参ります陛下。しかしくれぐれもっ……! くれぐれも陛下はこれ以上聖剣に近づいてはいけませんからね!?」

 

 せいぜいダンスホールの上までですよ! あまり魔力も使わないで……と、必死に言い募るヴォルフガングに、グレンが「オカンなの!?」とゲラゲラ笑っている。


「……分かってるよ……その代わり、ブレアが姉さんに変なことしないように……」

「大丈夫です! きちんとお守りして参りますから!」

「……」


 ね!? と、必死な犬顔の武人に……ブラッドリーは不承不承頷くのであった。






お読み頂き有難うございます。


…王宮は再び魔物に侵入されました。

その辺の警備はどうなってるんですかね…?(´∀`;)うーん………

…めげずに頑張ります!

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