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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
二章 上級侍女編
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22.5 オリバー、侍女たちに連れ去られる



 居所内の廊下をブレアがほのぼの、ほのぼの(※ブレア体感。表向きはやはり無表情。かろうじて、目元がやや柔らかい)と、死にかけのような顔をしているエリノアを抱いて歩いていると──


 ふと、彼は、居所内の雰囲気がおかしいことに気がついた。


 ──本当は……一番様子がおかしいのは彼自身なのだが……

 ひとまずそれに気がつかないブレアは、違和感に立ち止まる。

 自分がこうして侍女を抱えて歩いていれば、誰かが慌て駆け寄ってきても良さそうなものだが……周囲は不思議なほどに静まり返っている。

 それもあって、ブレアはついぐるぐると居所内を周回してしまったのだが……(廊下を経て、中庭周りの回廊を通り、そしてまた中庭を一周し、また回廊へ戻り──というループを三回ほど繰り返してやっとそのことに気が付く。)


 よくよく見ると、周囲にまったく誰もいないという訳でもない。

 居所内にいる侍女たちは、それぞれの仕事をこなしながら──じっと息を潜め、時折、横目でさりげなく、観察するような視線でブレアたちを見ているようだった。

 ブレアがそれぞれの目線に目を合わせようとすると、それはことごとく、さっと逸らされる。


「……?」


 ブレアはエリノアを抱えたまま怪訝そうに眉を動かした。

 ──もちろん彼は、先ほど作業部屋から消えたエリノアの先輩侍女が、既に同僚たちに手回しし二人の様子を見守るように指示していることなどは──……知る由もない。


「……」


 侍女たちの不審な挙動の意味が分からず、ブレアは今度は背後を振り返ってみた。

 すると。全ての廊下の角から、サッと何かが引っ込んで行く。


「……なぜ隠れる…………ん?」


 不審さが一層高まった時……


 ──そんな長い廊下の角の一つに──唯一残ったものが、彼の目に止まる。

 それは──

 なぜか、顔半分でじっとりとした目をブレアに向けている……

 

 猫。

 

「……?」


 黒猫は、しらっと、もの言いたげな視線でブレアを下から睨んで来る。

 ブレアが注視しても一向に逃げる様子もなく……猫は不愉快そうにブレアを見ていた。

 

「……なぜ私の居所に猫が……」


 もしや、とブレアの眉間に皺が寄る。

 エリノア・トワインの足を噛んだ獣はあの猫だろうか。


「……不届きな……」


 むっとして見返すと、やっと猫がその場から立ち去った。……去り際に、まるで人間がするように、べっと舌を出されたような気がしたのは気のせいだろうか。ブレアは首を捻った。

 王宮にいるという事は誰かの飼い猫だろう。母である王妃も自分の居所で猫や鳥などを飼っている。そこから逃げ出したのなら後で誰かに捕まえさせなければならない。


「……まったく……」


 と、呟いた時。そこへ驚いたような声がかかる。


「ブレア様!?」


 ……オリバーだった。

 居所の表からやって来たらしい騎士は、王子の腕の中にエリノアの姿があることに目を丸くしている。

 と、遠巻きにしていた侍女たちの中から盛大に幾つもの舌打ちが聞こえた。

 

「(……なんだ?)ブレア様、どうなさったのですか? なぜその者を……」

「……具合が悪いらしい」


 ブレアはもうとうに娘が具合が悪いのではないことは知っていたが、しれっとした顔でそう言った。


「具合が……? 確かに……見るからに顔色が悪いですが……だからと言って……」


 オリバーは赤い顔で何かに耐えるような表情をしている娘を見て、ならば、と両腕を差し出す。


「こちらに。私が運びましょう」

「……」


 と……オリバーがエリノアに手を伸ばした瞬間、ブレアが真顔のまま──すっと身を引いた。


「? ブレア様……?」

「構わん。私が運ぶ。……お前は触れるな」


 どこかムッとしたようなブレアの表情に、オリバーが手を出したままポカンとしている。

 周囲からは控えめな黄色い悲鳴が幾つも沸き起こった。

 そしてブレアはそれだけを言うと、そのままエリノアを抱えてさっさと行ってしまう。(また周回しに行った。)


 残されたオリバーはポカンとしたまま──……

 ──その背に、いつの間にか傍に来ていた侍女頭(報せを受けて駆けつけた)が、そ……と、手を添える。


「……ま、見守りましょうね、オリバー様」

「! 侍女頭殿!? なぜここに……いや……っ、し、しか……し…………し?」


 オリバーが気がつくと、彼の周囲には、ブレア付き侍女のほぼ全員が集まって来ていた。

 ある者はハタキを振り、もう片方の手の平でそれをぺしぺしと受け。

 ある者は箒をまるで槍のように持つ。

 ……なぜだか……皆、どこかそこはかとない戦闘態勢でオリバーを見据えている。全員、口元だけが笑っているところが……何とも怖い。


「ご、ご婦人方……?」


 オリバーが引きつる。

 そんな戦闘──先頭に悠然と立ち。侍女頭は、唖然としている騎士ににじり寄った。彼女が視線で合図を送ると、傍に控えていた背高めの年配侍女が彼の首根っこをがしりと掴む。


「っ!?」

「さーて……オリバー坊ちゃんには私どもと一緒に来てもらいましょうかね~」

「ちょ、待ってくれブレア様が……」


 オリバーは慌てて侍女たちから逃げ出そうとするが……侍女頭がその前に、ざっと仁王立つ。


「オリバー様……? お分かりではないのですか? ブレア様の周囲に若い娘が寄ってこないのは貴方がたのせいでもあるんですよ!」

「な、何……?」


 クラウス様たちの片棒を担ぐおつもりか!? と、詰め寄られたオリバーは目を白黒させる。


「あなた方、武道と筋肉とブレア様にしか興味がなさそうな取り巻き騎士兵士どもが、ブレア様をいっっっつも取り囲んでるから、お若い女性方が近寄れず、そのぞろぞろ筋肉男引き連れた厳つい絵面に怖がられるばかりで、ブレア様の女性耐性が上がらないのでしょう!? あんた達はなんですか? 超、過保護ですか!?」

「う……」


 侍女頭は言われて仰け反ったオリバーに、見て御覧なさいよ、と、ブレアが立ち去って行った方を指差す。


「ブレア様と来たら……上手いやり方も分からないから居所内をぐるぐる、ぐるぐる……耐性がなさすぎもいいとこです!」

「いや……だ、だがな……」


 オリバーが反論しようとすると、「お黙んなさい!」と、雷のような叱咤が飛ぶ。……熊はうっと手を引っ込めた。


「…………」

「今回ばかりは、私共(ブレア付き侍女一派)に従ってもらいますからね……セレナ、他の騎士たちが邪魔しに来ないように居所前で見張って来て頂戴」


 侍女頭がそう言うと……年かさのベテラン侍女が嬉々として居所の出入り口の方へ駆けて行く。その背には……長い箒がまるで大剣さながらに装備されている……


「…………(怖……)」(※オリバー)


 侍女頭は声高に言う。


「さ、皆、今日はブレア様配下の騎士兵士どもは敵よ。王室の未来の為にも、居所に奴らを入れてはなりません!」


 侍女頭の言葉に、おー、と、異様な一致団結を見せる侍女たち。が、一斉にオリバーの方を見た。


「!? こ、今度はなんだよ……」

「さーて。ではオリバー様には何をやってもらいましょうかねぇ……出来るだけ面倒~なことがいいわよねぇ~」

「は!?」


 再び侍女たちに詰め寄ってこられたオリバーがびくっとする。


「そうだわ、エリノアがやってた繕い物の続きをやって頂いたらどうでしょう。たまには針仕事がどれだけ大変か体験して頂いたらいいわ!」

「そうね、仕上がりが悪かったら何度でもやり直してもらいましょう。多分、オリバー様物凄く不器用そうだから時間も稼げるわ」

「お、俺がか!?」


 勘弁してくれと、侍女たちの人垣を抜け出そうとするオリバーに、侍女たちはニンマリした顔で立ち塞がった。その年齢を重ねた厚みのあるド迫力に、オリバーが、うっと足を止める。

 彼女たちはオリバーに凄んでみせる。


「オリバー様? あんまりわたくし供を敵に回さないほうがよろしいかと存じますわよ?」

「………………」


 なんてったって、私達、“ブレア様付き”ですから、と年配侍女たち。

 同じブレア様支持派として仲良くしましょうねぇ~……と、侍女たちは。

 おほほ、おほほ、と、笑いながら巨体の騎士を巧みな誘導で連れ去って行く……


 ……もちろん。ブレアとエリノアとは反対方向へ。



 ……こうして。

 推進派ばかりになった居所内で、ブレアはエリノアが目を回すまで居所内をうろうろする事になったのであった。



お読みいただき有難うございます。

短めと思ったら、割りに文字数ありました。書き手が愉快になって書きすぎた感…でもこういうノリが好きです。

面白いと思っていただけましたら評価、ブクマ等で応援していただけると嬉しいですm(__)mよろしくお願いします♪


ご感想もとっても嬉しかったです!有難うございました♪更新後お返事させて頂きます!

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