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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
終章
314/365

令嬢と魔将 ①

 



 聖剣の勇者が魔王を討ち破ったという話は、その魔王に蹂躙された王都で呆然としていた人々の間にも瞬く間に伝わることとなった。

 人々は当然のように、これまで待ちわびてきた勇者の話題に夢中になり、勇者の正体に強い関心を寄せたが……行方不明になっていた王太子の帰還が重なったこと。偽の聖剣騒動が第三王子派による計略であったと明かされたこと。その第三王子が、女神によって簒奪者の烙印を押されたという重大事件が重なったこともあり、王室は公式な発表を先延ばしにするより他なかった。


 しかしそうは言っても。これまで千年も待たされて、終いには偽の聖剣騒動も起こった直後とあってか、人々の聖剣の勇者に向けられる関心は凄まじかった。そのような事情もあって、当時の様子を目撃した者も多かったことから、誕生した勇者の正体はすぐに全国民に知れ渡るような事態となった。


 目撃者らから打ち明けられたその話は、人々を熱狂させるに十分な話だった。

 勇者は元は第三王子派に没落させられた家の令嬢で、現在は“王国の獅子”と称される将軍タガートの養女であり。しかも、王宮で働く侍女という身分ながら、あの堅物で有名な鉄仮面王子ブレアに見染められたというのだから……人々が仰天してしまったのは無理もない。

 侍女という身分でありながら、王子を射止め、更には女神にも選ばれたという華々しい栄光を手にした娘が、いったいどんな娘なのか──国民たちは皆それを知りたがり、熱心に噂しあった。そのほとんどが好意的なもので、身分差を持ち出して『王子と侍女なんて不釣り合いなのでは』などとやっかみを言うような輩はほとんどいなかった。

 何せ相手は女神に選ばれた“聖剣の勇者”である。誰も文句などつけられようはずがなかった……。


 そうして人々は、王国からの正式な発表を今か今かと待ちながら噂話に花を咲かせた。そう遠くない日取りで王子と彼女との幸せな報せがあるはずだし、きっとその時には自分たちも勇者の姿を拝めるに違いないと、そう心待ちにして──中には魔王討伐の目撃者から話を聞き出してきて、勇者の姿はとても勇敢で、美しく、傍には神々しい白き聖獣が寄り添っていたと広める者も──……


 と……いう話の途中で。“彼”は鋭い声で「ちょっと待てっっっ‼︎」と叫んだ。


「──あ? なんなのよ……急に大きな声出さないでちょうだい」


 怒鳴りつけられたような形になったヤンキー顔の令嬢が、片方の眉を持ち上げてその声の主をジロリと睨んだ。


「せっかく外の話を伝えにきてやってんのに……何よ、喧嘩売ってんの?」

「だ、黙れ! いや、ちょ、おい、ま……まさか……」


 町から仕入れてきたという話を淡々と語っていた赤毛の令嬢ルーシーに、声の主こと魔将ヴォルフガングは、犬の顔面を強張らせて、唖然として尋ねた。


「ま、まさか……その聖獣とやらは……お、俺様のこと──ではないだろうな……⁉︎」

「は──? 思い切りあんたよ」

「っ⁉︎」


 ルーシーの容赦ない返しに、ヴォルフガングがギョッとしている。魔将は、ガーンと思い切りアゴを下に落とした。そこへルーシーがスン……っとした顔で追い討ち。


「城下の噂では、女神が勇者に聖剣と共に与えた。──てことになってるわ」

「ば……馬鹿な……っ‼︎」


 ワナワナと毛並みを震わせ愕然とするヴォルフガング。──に、しかしやはりルーシーは無情。


「……わめかないでくれる?」


 ……将軍家の娘は魔将に激冷たかった……。



 さて、ここは王宮の敷地内。勇者となったエリノアに王が与えた小さな離宮の居間である。

 広い室内の中央にあるテーブルに陣取ったエリノアの義理の姉は、皿の上の菓子を横柄な態度でつまみながら、そこでガーンガーンとショックを受けている魔物に言い放つ。


「仕方ないじゃない。だぁって今更勇者の傍にいるのは魔物ですって言う? やめときなさいよ、なーんの得にもならないわ」


 ルーシーは平然ともしゃもしゃチョコレートを口を放り込んでいる。

 ──現在。この、エリノアの傍にいる白犬が、実は魔物であるということを知っているのは、エリノアと聖剣を除けば、ルーシーとブレアだけである。令嬢は言う。


「聖獣だって言い張っておけば、王城でもエリノアの傍にフリーパスだし、便利じゃない。まああんたたちは姿を変えることもできるみたいだけど……人間の男姿でいると、ブレア様の妃になる身としてはあんまりねぇ……」


 妃となることが内定し、いずれ王宮へ居を移す予定のエリノアの傍には、男の護衛はつけられない。もちろん部屋の外などではそれでもいいのだが、私的な場所、たとえば私室や寝室では無理なのだ、と、ルーシーはいい、もちろんと続ける。


「あんたが女に化けるっていうんだったら──」

「っ、ぜっっったいに! 嫌だぁあああ‼︎」


 ヴォルフガング、食い気味の全力拒否。

 ……それを聞いた赤毛の娘は、でしょうねぇと鼻を鳴らす。──まあ、この気位の高い魔将に女体化は無理であろう……。(※小鳥とかウサギのほうがいいメルヘンな魔将がゆえに。)







お読みいただきありがとうございます。

ついにエピローグ…ですが、プロローグもなかったのでひとまず終章とさせていただき、結びの章とさせていただこうと思います。(数字はふるか悩み中…)

ということで、もうしばらくエリノアたちにお付き合いいただけると嬉しいです!(o^^o)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖獣ヴォルフガング [気になる点] 魔将のプライド [一言] いよいよ終章との事で寂しす(´・ω・`)
[良い点] 魔将なのに‥聖獣‥( ´艸`)まぁ‥色が悪かったねぇ‥ホラッ白だから‥イメージが聖獣っぽいし‥実はずっと自分も思ってた勘違いされるんじゃないかと‥ウンだからしょうがない! 何処までいっても…
[良い点] ルーシー姉さんカッコイイ [一言] ウサギや小鳥 かわいいモノが好きななんちゃって成獣 ヴォルフガング
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