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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
四章 聖剣の勇者編
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95 王妃の即断と、ブレアの懇願

 



 その後の、場がひっくり返されたようなお祭り騒ぎはすごかった……。


 女神が去っても人々の熱狂は冷めやらず。

 場にはソルから報せを聞いたエリノアの義理の父タガートが、彼の最重要任務たるはずの王や王妃らの警護を放り出して駆けつけてくるわ……というか。一緒に王や王妃も駆けつけてきてしまい。(※鬼神たる形相で先陣を切っていたのは王妃)エリノアは無事(?)国民たちの証言を元に、聖剣の勇者として国王らに認識されてしまうこととなった……。


 彼女が、真の聖剣の勇者だと知った時の──……王妃の、あらん限りに見開かれた瞳と愕然とした顔は壮絶で。

 崩れ落ち、感涙に咽び泣き出した彼女の姿に、エリノアはとても焦ったが……うつむいて、嗚咽し始めた王妃にエリノアが駆け寄ると──そんな娘の手を、王妃が即座にガシリと鷲掴んだ。そして、ギョッとする娘の手を握りしめたまま、すっくと立ち上がった王妃は……そのままエリノアの手を天に向かって掲げさせ──。


『勇者エリノアはブレアと婚約します。いえ、結婚します。確定です』

「っっっ⁉︎」※エリノア


 ──途端……──きゃーっっっ‼︎ と、黄色い悲鳴をあげたのは──……

 戻ってきた小さな髭の筋肉騎士トマスだ。


 人々の国母たる王妃は、皆の前でそう堂々宣言し。自身の二番目の息子ブレアによく似た鋭い眼差しで──……絶対に、誰にも反論などさせぬというな覇気を放つ。

 ……間近でそれを目撃したオリバー曰く。その様子は、言葉に抑揚がなかった分逆に怖かったらしい。確かに……王妃の真顔は『反対したら死刑♡』とでも冷たく言いそうな気迫に満ち満ちていた……。


 しかし──それを聞いたエリノアとブレアの驚きたるや……


「え⁉︎」


 ギョッとして叫んだエリノアの傍で、ブレアが身を硬直させて固まっている。(※国王も)


 しかし……

 彼女らが王妃に待ったをかける前に、周囲からは国民たちの賛同の大歓声が上がってしまう。元々そこにいた人々に加え、女神の降臨と勇者誕生を聞きつけ王城中から集まってきた人々の数は、すでに倍以上に膨れ上がっていて……彼らは王妃の言葉に手を叩いて大喜び。エリノアの傍にいた侍女頭以下エリノアの同僚たちは、ハッとして王宮に向かって駆け戻っていくし……。※色々準備がある。


 ……とてもではないが……


『ちょ、ちょ、ちょっと待って!』……などと、エリノアが訴え出られるような空気ではなかった……。



「………………」

「………………」


 場に響き渡る、これまで以上の人々の大歓声を聞きながら……エリノアとブレアは瓦礫の山の真っ只中で……。


 狂喜乱舞するトマスやザックらにやんややんやと紙吹雪をばら撒かれ、しまいにはそこに聖剣もニコニコ加わり(「おや、それはなんですか? 私にもやらせて下さい〜♪」※テオティル、トマスらに馴染む)。ソルには真顔で「なんとめでたい!」と、めそめそ泣かれ。オリバーやヴォルフガングに呆れられながら……。

 ……更にはいつの間にやらちゃっかり戻って来たルーシーに、満足げに……というか尊大に勝ち誇った顔で見つめられながら……。


 ──ただただ二人、呆然と目をまるくして見つめあってしまった。


「……、……、……ぇ、えぇと……」


 王とタガートが王妃の傍に慌ててやってきて。彼女がエリノアの手を解放すると、エリノアが、掠れた声でやっとそれだけ言った。するとそれを合図にしたかのように、目の前のブレアの精悍な顔が、見る見る真っ赤になって。その様を目の当たりにしたエリノアも、釣られて耳までを真っ赤に染める。


「す……すまん、エリノア……母が……」

「ぁ、え……あ……あの……」


 エリノアも、何をどう言ったらいいのか分からない。


(結婚……⁉︎ え⁉︎ ぃ、いやいやいや……何故⁉︎)


 王妃は前々からエリノアを『私のお嫁さん(ブレアの配偶者)』として狙っていたが……それをあまり理解していなかったエリノアは。よりにもよって何故今ここで、そんな話が出て来たのかが分からない。自分には、これからしなければならない後始末や、無事を確認したい人々がいたはずが……降って湧いたような衝撃的な話に……それも、想い人との縁談に、エリノアも頭が真っ白になる。

 エリノアは赤いやら青いやらの必死な顔で、慌てて周囲を見回した。


「ちょ……だ、誰か、私の頬を殴ってくれない⁉︎ しょ、正気に戻らなくては……え? け、け……っ⁉︎」(※どうやら結婚と言いたい様子)


 ちょ、グレン⁉︎ 戻ってきて⁉︎ ──と……エリノアは。確かにこの場では一番それを喜んでやってくれそうな黒猫の名を叫んで助けを求めたが──……。


 ……その名を呼ばれた魔物が、彼女の言葉に応じて戻ってくることは……なかった……。


 ──その代わり。

(ヴォルフガングにもスサッと目を逸らされて)なす術なく、オロオロと困惑しているエリノアの手を、不意に──ブレアが静かに取った。


「っ⁉︎」


 驚いたように身を強張らせて自分を見上げたエリノアに。ブレアは、己に冷静さを取り戻さんとするように深呼吸をして息を整え直した。

 周りは騒ぎ立て、彼ら二人に興味津々という視線を目一杯に注いでいたが──……もとより彼はあまり他人の視線や言葉を気にしない。彼が今顔を赤らめてしまったのは、エリノアに対して。人前で母に勝手に結婚を宣言されたことに対してではなく──彼女に対し、母に先に己の気持ちを代弁されてしまったことに対するものだった。だから、ブレアには大観衆の前でも、彼女にそれを伝えることに躊躇いはなかった。


「……エリノア、すまない、もっと時と場所を選びたかったが……」

「ブ、ブレア様?」


 一瞬の苦悩を見せたブレアは、片手で握っていたエリノアの手に、もう片方の手をそっと乗せた。包みこんだ掌は緊張していて硬かった。ブレアは大丈夫だというように、それを優しく撫でて。

 その愛しげな仕草に、こちらは大いに人目も気にしてしまうエリノアの顔がうつむき、カッカと蒸気を挙げそうに茹っている。ブレアのほうでも彼女が他の者たちの目を気にしていることは分かっていたが……しかし申し訳なく思いつつも、場を改めてしまうことは、彼が重要視する“ある点”について、彼女にも、そして周囲の者たちにも誤解を与えてしまいかねないと思った。


「……こうなってしまった以上は、先延ばしにしても要らぬ憶測を生む気がするのだエリノア。だから言わせてほしい──もちろん、断ってくれても構わない。母らやその他の者たちがなんと言おうと、無理強いだけはさせない。絶対に」


 強い意志の感じられる言葉に。必ず守ってみせると断言する言葉に。エリノアは、気恥ずかしくてたまらなかったが、困惑した顔をなんとか上げて、真摯な声で語りかけてくるブレアを見た。すると、そこにある青年の顔は、まだ真っ赤なままだったが──しかし。その灰褐色の瞳は、真っ直ぐにエリノアを見ている。──他の誰でもない、エリノアを、一心に。


 正直なところを言えば……この状況にはブレアだって混乱している。

 特に、自分のように多弁でもなく、異性の喜ぶような言葉にも明るくない男には、もっと事前の準備や心構えが必要だったと思っている。──が……ここで、己が何も行動せず、母親の言葉だけでそれが既成の事実とされるのだけは我慢がならなかった。彼女に受け入れてもらうならば、自分の言葉と行動で、それを決めて欲しかった。

 ……きっと後には、事実をよく知らぬような輩が、彼女が勇者だから王妃が己の息子に娶らせたのだとか、馬鹿な戯言を吐くこともあるに違いない。──だとしても、彼女にはそうでないことを、はっきりと自分の言葉で伝えておきたかった。

 ブレアはその想いで、なんとか騒ぐ心臓を宥め落ち着きを取り戻し、エリノアに言った。


「──エリノア、お前を愛しているのは私だから。私自身の言葉を聞き、返事をしてほしい」

「……あ……」


 静かな口調は優しく、それでいてはっきりとしていて。大きな歓声の中でも、確かにエリノアの耳にもしっかりと届けられた。

『愛している』という言葉にエリノアの胸が熱くなる。とても緊張したが、同じように、ブレアの顔も緊張しているようだった。そんな彼から注がれる曇りのない眼差しを受けて、エリノアは、彼の言葉を一言たりとも聞き漏らすものかという気持ちで彼の瞳を懸命に見返した。

 ……そんな二人の様子に──周囲では、騒ぎまくっていた者たちも流石に口をつぐみ、いつしか場はしんと静まり返っていた。ブレアの声が、穏やかに響く。


「……エリノア、私は君の愛情を求めている。私の、唯一の妃になってはくれないだろうか。──間違いなく、それは君にしかできぬ。もうこれより以降、君より他に、私を驚かせ、心から笑わせて、癒す者はいないだろう。それをもし与えてくれるのならば……こんな私だが……いい夫になるよう努める。君が与えてくれた喜び以上のものを、君に返すことができるように」

「…………」


 ブレアの求愛を聞いて、エリノアは、思わず沈黙した。──言葉を失くし、震えるようなため息をこぼした。

 ……その言葉は、慈しみと敬いに満ちていた。

 互いの立場や身分、それに……エリノアが女神に勇者として取り立てられたことすらも、彼は問題にしていないようにエリノアには感じられた。その上で、エリノア自身を、彼にとっての至高の宝だと言ってくれているような、そんな気持ちが深く感じられて。──エリノアは、大粒の涙をぽろりと頬にこぼれ落した。

 多くのことを経験し、苦さや悔しさ、大きな悲しさだって胸にはあったけれど。それでもブレアのその言葉は、それらごとエリノアを包みこんで、前に前進させてくれるだけの力があった。


 だからエリノアは泣きながら笑って、彼に言った。


「──はい!」


 ……周りの人の目もあって、あんなにも恥ずかしかったのに……

 その返事は、晴れやかに、とても元気よく彼女の口から出ていったのだった。












お読みいただきありがとうございます。

…ああ、ここまできてしまった……( ´ ▽ ` )ここまでくると、まだまだ書かなければならない説明などもありますが、なんだかちょっと終わりが見えて寂しいですねぇ


【お知らせ】


エリノアたちが電子書籍という新しい姿になって、9月1日に天海社様より発売される予定です。

予約販売は8月26日より。

エリノアとブラッドが可愛いです!ブレアがまたイケメンです!そして必見なのが、ヴォルフガングとコーネリアグレースのモフみ……!!!

挿絵などもとてもとてもキュートで素敵なので、是非是非お買い上げ&応援していただければ嬉しいです!今度は最後まで出していただけるように( ´ ▽ ` ;)あはは…


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― 新着の感想 ―
[良い点] エリノア&ブレア王子、おめでとう!!! [気になる点] リード君、ドンマイ(´▽σ`)σ♪ 君ならいつかきっと、良い人が見つかるよ♪ [一言] そしてエリノアさんちの魔物ーズが揃って王宮…
[良い点] ようやっと言いたかった事が言えたブレア [気になる点] 勇者の願いを叶えるのは誰なのか [一言] こちらも書籍化おめでとうございますヽ(゜∀゜ )/ というか私がこの物語を知ったのはツイッ…
[気になる点] 絶対王妃様がエリノアさんの手をガシリと掴んだ瞬間に「ツカマエタ……ニガサナイ……」って念が出てそう [一言] リード達の安否が心配……多分大丈夫だろうけど。 きっとリードの方はブラッド…
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