78 謎の結託
「お、大きい……」
突然、目の前に立ち塞がってきた巨人に、さすがにエリノアもギョッと足を止める。
その大きいこと……
エリノアが三人分縦に並んだよりも更に上背がありそうだ。鎧に包まれた脚は丸太のように太く、その片方ででも蹴り上げられれば、エリノアの身体など容易く弾き飛ばされてしまうだろう。
「っ!」
だがエリノアは恐怖よりも先に、去って行った弟の後ろ姿を思い出して喘ぐ。苦しかった。何がなんでも、掴みかかってでも弟を止めたいのに──この巨体に阻まれれば、前へ進むことすら難しい。
おまけに傍には負傷したヴォルフガング達。ヴォルフガングには意識があるようだが、コーネリアグレースとグレンは力尽きたようにピクリとも動かない。あんな状態の魔物達を、ここに置き去りにしていくことなど、エリノアにはとてもできなかった。彼らの満身創痍な姿を見れば、エリノアがブレアの安否を確かめる間、彼らがどれだけ奮闘してくれたのかが一目瞭然で。
その中に、グレンの姿があったことにはエリノアはとても驚いたが──あの皮肉屋が、魔王は魔王らしくあるべきと言い、散々エリノアを困らせた魔物が、それでもここにきて自分たちを見捨てずにいてくれたことが心底有難かった。
そんな彼らを置いて、自分がどこへ行けるだろうか。
「っ!」
エリノアは、弟を追って駆け出したい足を踏ん張って止め、自分をまるで地上のアリでも見るかのように身をかがめ、ジロジロと眺めている鎧将を睨み上げた。
「あ、あなた……は、……ま、魔物……? ヴォルフガング達の仲間ですか……⁉︎」
警戒する猫のような顔で尋ねると、鎧の将がこちらを見ながら屈んでいた身を起こす。不愉快そうな気配を感じた。
「仲間? ワシがあやつらの?」
鎧将は、少し離れた場所に倒れているヴォルフガング達を一瞥して、兜の奥で鼻を鳴らす。
「ふん。誰が。陛下の命に逆らうような者は仲間などではない」
冷たく吐き捨てられて、エリノアの強ばっていた顔がさらに強ばる。と、その時、ふっと横に寄り添う気配を感じた。エリノアがハッとして横を見ると、屋根の上に置いてきたテオティルが隣に立っていた。目が合うと、彼は一瞬無茶をしたエリノアを咎めるような悲しそうな表情を見せて……だが、すぐに主人の前に進み出てエゴンを見上げる。毅然とした眼差しを受けると、鎧将が唖然としたような間延びした声を出す。
「……ん……? な、んだこやつは……まさか聖剣か……? なんと……剣に手足を与えて一人歩きさせているのか……? 随分酔狂な事をする勇者だな……!」
「!」
途端、鎧将は腹の底から唸るような大声を出して笑い始める。ガハハと、さもおかしそうに天を仰いで。鎧に隠れて見えはしないが、巨人の大きな口から発せられているだろう大笑いは、ビリビリとエリノアの身の芯にまで響くようだった。
しかし、エリノアは気力を振り絞った。こんなところで呑気に笑われている場合ではない。この巨人がヴォルフガング達と同じ魔物なら、仲間なら。ヴォルフガング達を助けてくれないだろうかと希望を持ったが……先程の様子では、難しそうだ。咄嗟に目の前のテオティルの腕を引く。
「……テオ、お願い、すぐにヴォルフガング達を手当して。ううん、どこか安全な場所に連れていって!」
様子を伺うと鎧将はまだ笑い続けている。この隙にと、エリノアは小声でテオティルに訴える。
負傷したままの彼らがここにいれば、鎧将に何をされるか分からない。しかも、ここは王宮。彼らが人間達に見つかってしまえば、異形のものとして捕らえられかねない。この状況では、城を襲った魔物と決めつけられてもおかしくない。
だがテオティルは不安そうな顔をする。
「しかし、エリノア様……」
テオティルは目の前の鎧将を見て困惑している。敵を目前にして、エリノアの唯一の武器たる自分が、主人の傍を離れるわけにはいかないという目だ。が、エリノアは必死に懇願する。
「テオ、一刻を争うのよ! みんなが安全じゃなきゃ私もブラッドを追えないわ!」
ヴォルフガング達も放っておけないが、ビクトリア達を追っていった弟も放っておけない。お願いだからと訴えると、それに反じる声が後方から上がる。
「要らぬ!」
「!」
驚いて振り返ろうとすると、その瞬間、目の前に隻腕のヴォルフガングが現れた。元々倒れていた場所から転送魔法を駆使してきたらしい魔将は、しかし現れた途端よろりと身を傾かせる。が、それでも彼は、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しながらもエリノアに怒鳴るのだ。
「馬鹿者が! 魔物を前にお前が聖剣を手放してどうする!」
怒号を受けたエリノアは、青ざめた顔で短く叫び、魔将を支えた。
「や、やめっ……ヴォルフ動かないで!」
魔将の腕を失った肩からは血が滴り落ちて、毛並みが赤く染まっている。しかし、魔将はエゴンに向かって牙を剥き、唸る。と、エゴンも同胞に気がつき笑いを収める。
「おう、ヴォルフガング、貴様か……」
「エゴン! この者は陛下の姉だぞ! 手出しは許さぬ!」
「ヴォ、ヴォルフ、いいから、」
エリノアは、魔将の痛々しい半身を見て泣きそうな顔で言った。
「傷の手当てをしなくちゃ……コーネリアさんもグレンも」
エリノアは離れた場所に倒れている二人に目をやる。だが、魔将は再び要らぬと断じる。
「我らはいい、お前はすぐに陛下を追え! それがお前の使命だろうが!」
「でも……」
ヴォルフガングは叱咤してエリノアを行かせようとする。が、そこへ鎧将の声が割って入った。
「ワシがそれを許すと思うか?」
見ればエゴンが腕を組み、少し顎を上げた仁王立ちで彼らを見下ろしている。
「エゴン……!」
「ヴォルフガングよ、なんと無様。陛下に逆らって腕を失うなど……馬鹿者めが……」
どうやら巨人はヴォルフガングの怪我を惜しんでいるようだ。が、苦々しく吐き捨てる。
「何故陛下のご意向に沿わなかった。それが我ら魔物、臣下の使命であるはず。ご命令に従わぬ者など、もはや不要だ。ワシがここで引導を渡してやろう」
軽蔑するように吐き捨てて、鎧将は背中の特大剣に手をかける。ずっしりと岩のように重そうな剣がゆっくりと自分たちにかざされる様を、唖然と見上げていたエリノアは──……グッと奥歯を噛み締めた。
「──っ違う!」
気がつくと、大きな声で怒鳴っていた。
「……ん?」
唐突な反論に、ヴォルフガングを冷たく見据えていたエゴンが手を止めてエリノアへ視線を移す。
──正直なところ。
強さこそが全てという信条を掲げる彼の目には、エリノアは、聖剣の勇者は、取るに足らないものとしか映らなかった。身体は細々と弱々しく、武芸の技量も持ち合わせていないことは一目で分かる。しかしなるほど、聖なる力は人並み以上に備えているらしい。……が、それもこの体格差。エゴンが指で弾きでもすれば、この娘はきっと軽く転がっていくだろう。細い腕も、彼の大きな指でつまめば軽く骨が砕け散るはずだ。その辺に転がる小石と同じ。非常にちっぽけなものに思えた。
けれどもそのちっぽけな娘は、果敢にも、いや、というより無謀なのか。ヴォルフガングの傍らで勝気な瞳で彼を睨みつけていた。眼光だけは強くエゴンを威嚇する。悔しそうな眼差しで、娘は怒りを吐き出した。
「余計なことをしているのはあなた達の方でしょう⁉︎ ヴォルフガング達は、ブラッドリーの本当の願いを守るために戦ったの!」
「陛下の、本当の願い、だと……?」
それを聞いたエゴンは何を馬鹿なと兜の奥で笑う。彼の耳には、魔王の絶え間ない命令がずっと響いている。標的を狩れと、呪わしくも切望する声は、間違いなく主君の願いであるはずだ。それを邪魔しようなどという不届き者が、王の本当の願いを守っただのとは笑止千万。戯言にしか聞こえなかった。
「何を言っているのか分からんな。我らは陛下の大いなる怒りあってこそこちらに渡ることができた。呼び寄せられた者として、その怒りの根源を消すことをお望みの陛下に従って、何が悪い?」
しかし人間の娘はそれは違うと言うように大きく頭を横に振った。
「本当のあの子は、そんなこと望まない」
キッパリ言うと、嘲笑われる。
「“本当のあの子”とは? お前が王に見ているものは、魔王というあの方の、今世というわずかな時間、片鱗にしかすぎない。お前が知らぬ膨大な時間を生きたあの方の、どんな真実をお前が理解しているというのだ?」
「⁉︎」
──その言葉には、カチンと来た。
「何を理解してるかって⁉︎ 少なくともブラッドリーが、これほど怒るくらいにリードを大切にしていたってことは分かるわよ!」
エリノアは、一瞬相手が巨体の戦士であることも忘れ、目を三角にしてブチ切れた。──こと、弟のことに関することは、概ねこの娘の逆鱗である。小さな娘の激昂に、エゴンは急騰したヤカンにびっくりしたようなささやかな驚きを見せ、ちょっとだけ身を逸らす。
「ぬ……」
「魔王の中に、復讐心はずっとあった。でも、大きな力を手にしても、破壊の衝動があっても、それでも弟がずっと我慢してきたのは、彼がそんなふうに大事にしているリードと過ごす日常を大切に思ってたからだわ!」
ブラッドリーには、病に伏して普通には生きられない不遇の時代があった。普通に生きることを切望し、やっと手に入れたこの日々──当たり前に朝起きて寝床を離れ、昼は働き、また寝床に戻るという日々が、どんなに大切なものか、きっと他の誰よりも身に染みて分かっているはずだ。
「だからあの子はこれまで親の仇を憎いと思っても、それを実行しなかった。魔王は絶対に、その日常を壊すことを望んでなんかいない! 例え一時の感情に呑まれていても、必ず後悔する! 止めてあげなければ、あの子が後でどんなに苦しむか……アンタたちは分かってない!」
言いながらも……エリノアは、沸々とした怒りが胸に湧き上がってくるのを感じた。ヴォルフガング達を侮辱されたことにも、弟の本質をはき違えていることも。エリノアは真っ直ぐにエゴンを睨む。
「あなたたちはブラッドリーの配下なのかもしれないけど、表面的なことしか見ていない。あの子の本当の願いがなんなのか理解してくれて……身体を張ってまで弟を止めようとしてくれた彼らを無様と罵るなんて……絶対に、私が許さない!」
「!」
──その時、エゴンは見た。
目の前のちっぽけな娘の身体に沸る、大きな闘志を。それは、娘の怒りが、その身のうちに宿る聖なる力を押し上げてくるようにして湧き出でて。娘が許さぬと言い放つと同時に振るった腕から生まれた力の波動は、叩きつけられるように彼に打ち寄せた。その突発的な威力は嵐のような強烈さで、鎧に包まれたエゴンの重い身体を後ろに押し戻す。
「ぅ、お……っ⁉︎」
思わぬ力に煽られたエゴンの身体がよろめく。と、エリノアが叫んだ。
「テオ!」
その瞬間、テオティルが姿を消したかと思うと、エリノアの手のうちに聖剣が現れる。己の柄に、主人の確かな意思と力とを感じたテオティルは、主人の意のままに彼女の身体を転送する。
唐突に目の前から姿を消したエリノアに、エゴンが唖然と憤る。
「⁉︎ おのれ勇者め、逃げたのか⁉︎」
さては王を追って飛んだかと、自分の背後を振り返った鎧将。──と……
その頭上で、一瞬黄金の輝きが弾け散った。
「!」
上空の気配にエゴンが顔を上げた。──そこにエリノアの姿があった。
輝く転送陣の輪の中から、聖剣を掲げた娘が落ちてくる。強い眼差しは己にしっかと狙いをつけて。両手に握りしめた剣からは光が帯のように漏れいでて、美しい軌跡を描いていた。
その光景に、エゴンは一瞬目を奪われる。振りかざされた聖剣が天空高く、眩い光を宿した。
エリノアは、その一瞬に憤りが恐怖や迷いを追い越していた。
巨人の頭より高い場所に転移して、自分の身体がその仰々しい鎧へ真っ直ぐに落ちていく。しかし、空に投げ出された恐怖も感じなかった。
──落下なんか、さっきもっと高いところから落ちてみせた。それに強そうな魔物なら、もう、毎日見せられる強面ヴォルフガングの顰めっ面で見慣れているし、コーネリアグレースのド迫力に比べたら、こんな身体が大きいだけの鎧巨人なんか。王宮の廊下に飾ってある飾り甲冑となんら変わらないわよと、エリノアは。エゴンをきつく睨み据える。
絶対に、一矢報いるのだと。彼女の大切なものを軽んじ、脅かし、行く手を阻むもうというのなら。意地でも、どんなに力の差があろうとも、家族らを守り、弟の元へたどり着く為に。──その想いにエリノアは歯を食いしばった。
聖剣に、どんどん自分の力が吸い上げられていくのが分かった。その激流が身につらい。けれども。
エリノアは、頭の上に振り上げていた重い刃を、落下する勢いも借りて振り下ろす。
「っう、わぁああああっ!」
──なんとも必死で、締まらぬ叫び声だと、どこかで我ながらに思う。でも、これがエリノアの精一杯だった。
絶叫と共に聖剣を思い切り振り切ると、刃が描いた弧が白雷となりエゴンの身を撃った。
「っ!」
激しい音と共に衝撃に襲われたエゴンは、巨体をよろめかせた。鋭い斬撃が肩口から胴にかけてを駆け抜けていった。頑丈なはずの鎧には亀裂が走り、そこから聖なる力に蝕まれた鎧将は、その痛みにたまらず地面に巨躯を沈ませる。轟音が辺りに響き渡り、その振動に驚いたのは、地上を這って成り行きを見守っていた蛇達だった。蛇達はエゴンが倒れたのを見ると、慌てたように寄り集まって。次の瞬間そこには一匹の大蛇の姿が現れた。
「エゴン! オイ、バカ! 何やってんダ!」
分裂を解いた大蛇はエゴンの傍へ這っていき、子供のような高い声で、横たわる巨人に怒った。だがエゴンが目を回しているのを見ると、その鎌首が後ろを振り向いた。睨みつけるその先にいたのは、エゴンに斬りつけた後、再び転送で地上に戻されたエリノア。剣を振り下ろした格好のまま。しかし、強い力を一気に放出し立ちくらみがしたらしい。娘もふらつき地面に膝を落とす。
「エリノア!」
「エリノア様!」
土の上に倒れこんだエリノアに、柄を握られていたテオティルは姿を人型に戻し、ヴォルフガングが慌てて駆け寄った。
しかしその隙を、敵は見逃さなかった。
「……女神の勇者……!」
殺気を放った大蛇は、一瞬身を縮めて空へ跳ね上がり。瞬間、その身を包む数多の鱗が滝のように剥がれ落ちたように見えた。それは空中で一枚一枚が小さな蛇へと変化して、そのままエリノアたちめがけて襲いかかる。
「っ⁉︎ エリノアさ──!」
それを見たテオティルは、咄嗟に降り注いでくる蛇達から主人を守ろうとエリノアに覆い被さり、ヴォルフガングが残った片腕で蛇達を迎え撃とうと身構えた。──が…………
「っ舐めた真似してんじゃないわよ‼︎」
その一瞬、気合の入りまくった巻き舌のどす声が、矢のように場を裂いた。エリノアらに飛び掛かろうとしていた蛇たちは何か細長い物を打ちつけられて、雷のような音と共に薙ぎ払われていた。
ヴォルフガングがギョッとして。テオティルはエリノアを抱きしめたままポカンとしていた。と、どこか……そこはかとないヤンキー感を振りまきながら……その声の主がエリノア達の前に仁王立った。
「ぁあん? どこのクソ野郎が私の妹に手を出そうとしているのかと思えば……蛇ぃ?」
「お、お前は……」
ヴォルフガングが唖然として(引き気味で)思わず漏らした言葉など華麗に無視し、その声の主は、はん! と、鷹のような目で嘲笑う。
「ちょうどいいわ……こっちはそろそろ人間相手は飽きてきてたところよ! ぶちのめしてやるわ!」
声の主は顎を上げ、己の赤毛を手で颯爽と払い蛇達を睨みつけている。その手には……何やらとても尋常のものとは思えぬ禍々しき形をした鞭が……
「え?」と、テオティルが言った。
「……え? あれは……人ですか? 魔物?」
様々な魔物、異形が顔を揃える中で……その人物は、圧倒的に、魔界の女王的威圧感を放っていた。
と、その時。唖然とするテオティルの腕の中で、やっと立ちくらみから解放されたらしいエリノアが、そこでビッシビシに蛇を鞭打っている者を見て──目を剥いた。
「! ル……っ⁉︎ ルーシー姉さん⁉︎」
エリノアが、「ひっ」と、真っ青な顔で悲鳴を上げる……。
と、ルーシーがドスッと蛇を踏みつけながらエリノアを振り返った。
「あらエリノア。ふふふ、無事でよかったわ。聞いたわよ、あんた勇者なんですって? ふふふ、でかしたわ」
「え⁉︎ ⁉︎」
平然と拳を握って微笑むルーシーに、エリノアが愕然とする。
「ぇ──……ちょ、な、なんで……っ⁉︎」
何故それをと言いたいが、色々衝撃的すぎて、動悸が凄いやら、声が裏返るやら掠れるやらで……。だが、やはりルーシーは平然としている。というか面倒くさそうである。
「あー説明なんかあとよあと! あんた先を急がなきゃ。ここは私に任せて大丈夫だから。ほら見て、面白いものをもらったのよ」
ニンマリした令嬢は手の内の漆黒の鞭をエリノアに見せる。その明らかなる魔界感にエリノアは慄いた。ルーシーのニッタリ顔に、あまりにも似合いすぎていて、それが……吐血しそうなほどに怖かった。
「ね、姉さん……! それどこで拾ったのっ⁉︎」
嫌な予感がしたエリノアが青い顔で義理姉にビタンッと縋り付くが、ルーシーは動じない。
「うるさいわねぇ……だから、あんたのとこの猫達にもらったのよ」
「は、はぁ⁉︎」
どういうことだと慌てる義理の妹に、ルーシーはヤンキー顔で眉間に皺を寄せる。
「もーどうでもいいからさっさと、あのクソシスコン坊主を追いかけなさいよ……。私、パパとジヴ様を放ってここにいるのよ? 面倒ごとは早く片付けてちょうだいよエリノア。こっちは私たちが請け負うから。あちらはあの方が足止めしてくださっているけど、早く行ったほうがいいわ。……さ、お前達! やるわよ!」
「⁉︎」
言って身を翻したルーシーが、鋭く号令をかけたかと思うと──どこから駆けてきた黒い毛玉の塊がぽんぽんぽん……っと、周囲の蛇達に跳びかかっていった。
それにまたエリノアがギョッとする。
「え⁉︎ マリーちゃん達⁉︎」
ルーシーの呼びかけに応じたのは、マリーら、黒猫娘達だった。
「おっまえらよくも!」
「かーさまと、にーさまを!」
「ゆるさない!」
子猫たちは、ううう……と、唸りながら蛇たちに喰らい付いていった。
──が、何故かその数がいつもより多い。エリノアが動揺に狼狽える。
「な、なんなの⁉︎ なんでルーシー姉さんが……マリーちゃんたちと結託して……⁉︎ マリーちゃんたち数が多くない⁉︎ ──ど、どうなってるの⁉︎」
義理の姉と子猫軍団の謎の結託。ことの経緯をまったく知らないエリノアには……この展開がまったくもって理解不能だった……。
お読みいただきありがとうございます。
都合により時間がありませんので、チェックは後ほど…




