49 取扱説明書をください。byエリノア
先に弁解しておくと。
エリノアだって──これは本当に上手くいくのだろうか……と、少しは疑問に思ったのである。
しかし、他に方法が思いつかなくて。そもそも下の戦場を思うと他の方法をじっくり考えている時間も、心の余裕もなかった。そんな慌てふためくエリノアの足元に──そのデンジャラスな木箱があったのが、運の尽きだった。
不幸なことに、その時エリノアの傍には止めてくれるような者は不在。ヴォルフガングやグレンがいてくれればまだ何かしらの方法はあったかもしれない。……まあ、勇者が魔物に行動の如何を尋ねるようなことも滑稽と言えば滑稽だが……おそらくヴォルフガングならば止めてくれたはずだ。
……やめとけ、もっと他にいい方法があるはずだ……! お前いくらなんでも勇者としての体面を考えろ!?
──と……勇者の敵としてもきっと忠告してくれたはずだ。が──……運悪く、その時そこにいたのは、エリノアのやることならばなんでも正しいと思いこんでいる、例の聖剣のみ。エリノアがヤケクソでかぶった木箱を見て、彼は希望に満ち満ちた本気のまなこで言ったのだ。『おお! 主人様、かっこいい!!』と……。
そんな彼の純粋に輝く瞳を見ていると、エリノアのほうでもなんだかんだやる気が出てしまうから、この主従はある意味恐ろしい。
まあその後押しがなくとも、状況が状況で。エリノアも、多少の犠牲は仕方ないと覚悟したわけである。
──すなわち……『勇者の身バレをするくらいなら、恥かいたほうがマシ』の精神である。特にオリバーというところが嫌だったらしい。
さて。こうして箱の勇者は爆誕した。
ある意味、隠れ勇者としてはふさわしき姿であったかもしれない……。
(あれ!? ちょ、なんで!?)
勢いよく天に剣を突き出したエリノアは、戸惑った。
雷に乗じて戦場に転移したものの、一瞬不思議な幻に気を取られて。ぼうっとしている間に騎士オリバーに姿を見られてしまった。
慌てたエリノアは、作戦通り急いで彼らを眠らせるべく、正体を伏せるために布でぐるぐるまきにしてきた聖剣を、空高く掲げた。
(っ眠って!)
エリノアは、祈るような気持ちで願った。が──……
一瞬掲げた聖剣の刃は、穏やかな虹色に輝いた、が。そんな箱かぶり娘を、周囲でポカンと見ていた戦士たちは、誰も、……寝落ちしなかったのである。いやいっそ、もたもたしている間にギャラリーが増えてしまったくらいで。
(はぇえ!? あ、あれ!?)
エリノアは何故だと慌てまくった。思わず声が出そうになって、それを堪える。声を出してしまえば、そこにいるオリバーに自分がエリノアだと気が付かれてしまうかもしれない。
なんとか動揺を押し殺し、エリノアは剣を下げて、もう一度、今度は目一杯力をこめて、天に向かって剣を思い切り掲げた──……が、駄目だった。
なんで! と、エリノアは木箱の中で愕然とする。
だって、聖剣は異常なほどに自分の手に馴染んでいる。絶対に、うまく操れる自信があったのに……と。
するとそこへ、エリノアにだけ聞こえる聖剣の声が響く。
『ふふふ、エリノア様、その力の使い方では癒し効果しかありませんよ』
(……へ!?)
テオティルは場違いなほどに朗らかに、ほらご覧なさいとエリノアに周りを見るよう促した。言われた通りに彼女が周囲を見渡すと……そこにはこちらを見て唖然としている戦士たちの姿。敵味方関係なく、皆、戦う手を止めて、エリノアを凝視している。それを見てエリノアは、うっと思ったが──テオティルは嬉しそうに続けるのだ。
『エリノア様のお力で、周囲の者たちの戦意がごっそり削がれました。ふふ、皆興奮が解け、幼児のような顔でこちらを見ていますねぇ』
(え……幼……?)
どこが? とエリノア。戦士たちの興奮が解けたのは本当かもしれないが……あれはどちらかというと、エリノアを怪訝に思い、不気味がっているようにしか見えない……。
エリノアはまずいと思った。このままここでのんびりしていては、いずれ彼らに捕まって、『お前、どこの不審者だ』と、職務質問されるのではないだろうか。
(ちょ、待ってテオ! うまく力が調節できないんだけど!?)
慌てて尋ねるも、テオティルはのんびりしている。
『大丈夫ですエリノア様。慈しみを持ってください。女神に祈るような気持ちで、こう……ふわぁぁーと……』
(………………漠然がすぎるっ!)
──エリノアが地団駄を踏んだのは、この時である。
お読みいただきありがとうございます。
先日、ガンガンONLINEのアプリでコミカライズ版が「動物と仲良しランキング」的なもので、二位をいただきました( ´ ▽ ` )ワーイ
しかし世間一般ではやっぱりヴォルフたちは動物なんだなぁとおもしろく思いました。
そもそも魔物=ワンコ・ニャンコの姿に、なんでしたのかは、書き出し当時の自分にちょっと問いたいですね……何故だったんだろう…もう思い出せません。単なる書き手の嗜好の問題でしょうかね……?
ご感想、評価、ブックマークいただきありがとうございます。
時々このお話面白いんだろうか…?と、迷子になるので、少しでも面白いと思っていただいた方の反応は大変励みになります!ありがとうございましたm(_ _)m




