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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
四章 聖剣の勇者編
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閑話 酔っ払いたちの女子会⑤

 

 ……とりあえず。今回の冤罪を、皆さんには見逃して頂きたいのです……

 そもそも、彼はこれまでも散々エリノアを顎で使ってきたし、尻を撫でようとしたりと、散々無礼だった。だからまあ、今回のことは、きっと回り回ってその時のツケでもやってきたのだと思って、見逃してほしい。……まあ、心配せずとも真犯人もきっと、母に雷でも落とされるだろうから。


 ──早朝。オリバーがブレアの朝稽古に付き合うために普段通り彼の私室を訪れると……

 寝室の扉前に、ブレアが鎮座していた。


「!?」


 居間の扉を開けた時点でそれが見えたオリバーは、第二王子のただならぬ様子にギョッとして立ち止まった。

 ブレアは──どこからか木製の椅子を引っ張ってきたらしく、寝室の二枚扉の前にそれを置いて。背後の扉は絶対に開けさせないと言うようにそこに座している。まるで──番人だ。

 どこか寝不足のような顔をした疲労感を滲ませる彼の双眸は険しく、鬼のような暗い形相で訪問してきたオリバーを睨んでいる。

 そして彼は重い口調で言った。


「…………オリバー……貴様ちょっと稽古場に出ろ……」

「……なんすか、鬼しごきですか……」


 開口一番、地から鳴り響くような低い声で因縁をつけられたオリバーは何かを察した。ブレアの表情は怒りに満ちている。


 ──とりあえずオリバーはめっちゃ怒られた。冤罪だが、濡れ衣だが。ハラハラドキドキ。慣れない方面のいろんな心労で、結局一睡もできていない王子を許してやってほしい。



 さて。そしてブレアが鬼のような顔で守った扉の向こうには──彼の寝台の上でエリノアがすよすよと眠っていた。

 王子の寝室のカーテンはとにかく品質が良く、白んできた外の明るさも届かず、エリノアの安眠は妨げられなかった。

 ブレアがオリバーを引っ張って稽古場に行ったあとも、使用人たちはブレアに『今は誰も中には入るな』と言いつけられ、誰もその中には入ってこなかったもので──

 エリノアは、幸せなぬくぬく気分でフカフカの布団を堪能していた。自分が今どこにいるのかも知らず──……


「……まあそれを教えてあげるのも面白そうなんだけどなぁ…………」


 そうすれば、反応豊かなエリノアのこと。きっと飛び上がって悲鳴をあげるに違いない。そういうのって私にとっては最高の娯楽なんだけどなぁと、口を尖らせながら。口惜しそうな顔でエリノアが寝ている寝台の向こうから顔半分で彼女を覗いているのは、獣人態のグレンである。グレンの黒い三角耳は不満げにパタパタ動いている。


「あーあ……なんだよぉ、せっかくもっとイチャイチャさせようと思ってたのにぃ」


 そうしていいところで現場にブラッドリーを踏み込ませれば完璧だと思っていたのだが──


「相変わらず姉上の勘違いはちゃんと発動したし、寝室に入ったまではよかったのになぁ……あの男、すんごく我慢強いんだもん、あーあ」


 ブレアがエリノアを寝室に運び入れ、それをもちろん影からニンマリ見ていたグレン。ではいざと、彼は散々魔法を駆使したわけだ。例えばベッドに慎重にエリノアをおろしているブレアの背中を魔法で小突いてエリノアの上に覆い被させるとか、魔法でブレアの手がエリノアの身体から離れなくしてやるとか──

 慌てまくるブレアは面白かった。……が、男はなかなかに理性が強靭であるようだった。ならば我慢比べだと、ぺろりと唇を舐めたグレンはうすら笑った。


(お、そぉんなに頑張っちゃうんならこっちも張り切っちゃうもんね♪)


 なんと性悪グレンは、悪ノリして次はエリノアの服を消してやろうと──……


 指を振り上げたところで。魔物はハッと気がつく。いつの間にか──背後に怖気の立つような強烈な圧……。


『グレン……この馬鹿息子……』

『ひっ、母上…………』


 と、いうことで。グレンも無事、『青春は、他者の手出し無用。各自に任せる派』の母に叱咤されて。その朝まで説教コースを受けているうちにすっかり夜は明けてしまった。その間にブレアも無事エリノアを布団に寝かせ、番人役についた──という訳だった。

 グレンがため息をつく。


「あーあ……せっかくのチャンスだったのになぁ、ちぇっ」


 グレンは渋々といった風に空中で指を振る。と──ブレアの寝台の上ですやすや眠ったままのエリノアが、スッとそこから姿を消した。

 そうして一緒にグレンの姿も消えて。




「──ぅ?」


 己の寝台の上で目を覚ましたエリノア。横にはルーシー。


「あれ……? あ、そうか……昨日、ルーシー姉さんとお酒を飲んだんだった……」


 どうやら自分の狭いベッドを半分こにして寝たらしいなとエリノア。その状況に、何も疑問を持たなかった。

 エリノアは、あいたた……と、頭を押さえながら身を起こし、身をよじって隣で眠っているルーシーの身体を揺り動かした。


「ルーシー姉さん……起きて……顔洗お……ん? あれ?」


 ボサボサの頭を傾かせてエリノアが一瞬難しい顔をする。


「昨日……何かまたグレンにイタズラされたような………………」


 考えはじめると、頭の中に薄ぼんやりと金色の何かが思い浮かんだが……


「……ぅ、あ、あったま痛い……っ」

「あ、おはよう姉さん……」


 呻きながら目を覚ましたルーシーに気がついて、エリノアは思い出すのをやめてしまう。

 そうして結局──この日エリノアは、二日酔いになったルーシーの介抱をすることになり、それ以上のことは思い出さなかった。どうやら、少しは記憶もあったようだが、それはグレンのイタズラということで片付けられた。


 ──後日。休日明けで出勤したエリノアがブレアに挨拶をすると、彼の反応が明らかにおかしかったのは言うまでもない。










9月ギリギリなんとか閑話が終わりました( ´ ▽ ` ;)

10月は少しゆっくりになるかもしれませんががんばります!


誤字報告いただいた方ありがとうございました。ブクマ、評価もとても励みになります、感謝ですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 知らない方が幸せなこと( ˘ω˘ )
[一言] なんと!  ブラッドリーに踏み込ませようとしていた?! 怒りの矛先が自分に向うとは考えて無かったのだろうか? 良かったね、グレン、消し炭にならなくて………… でもあたふたしてるブレア様は見…
[一言] よっ、ブレア王子、紳士。
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