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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
四章 聖剣の勇者編
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30 その頃のモンターク商店


 

 ──トワイン家のブラッドリーといえば。

 昔はとにかく純真の塊のような少年で。身体が弱かったこともあって、その姉が至高の宝のように大切に大切にしていたものだ。

 姉を一心に慕う少年はいたいけで、また、そんな弟のために世間の荒波に向かっていく姉も、大人たちが感心するほどの不屈さを内に秘めていた。

 モンターク商店の店主は、そんな姉弟を微笑ましく思いつつも、とても哀れに思っていた。

 寝台に寝ついたままの少年の細い腕や首筋を見ては、この少年が、できるだけ長く慕う姉のもとに生きていられるようにと祈り、手助けも惜しまなかった。


 それが──ある時から少年は、まるで人が違ってしまったかのように様子を変えた。

 健康になったのは喜ばしかった。しかし純真の化身のようだった彼は、今ではどこか超然とした表情を見せる。

 接客中、客らに微笑んでいても、決してそこには混ざらないのだと拒絶する何かが確かに彼の瞳の中にはあった。

 それは思春期特有のものと片付けてしまうには、些か違和感があったが……モンターク家の父は思った。


 ──でも──……今の違和感に比べたら……普通だったかも──……



「いらっしゃいませ〜♪」

「…………………」


 軽い調子の声を聞いて、作業中の店主がまた頭を上げた。表情はなんとも呑みこめないと言いたげな気遣わしげな顔。戸惑いすぎて、ちっとも自分の作業が進まないらしく──それが店主を更にオロオロさせる。

 そんな落ち着かない店主の視線の先で。チョロチョロと身軽に働いているのは──黒髪の少年。と、少年が自分を食い入るように見ている店主に気がついた。


「あれ? おじさんどうしたの? そんなお茶目な顔しちゃってぇ♪」

「う、ぃや……」


 ニンマリ笑った顔で指差された店主がギョッとする。

 少年はいちいちポージングがあざとくそれが店主を怯ませる要素の一つだが、本人はどうやらわざとである。相手が戸惑っている理由が分かった上であえて愉快そうに尋ねているふうの少年に、それでも店主は聞かずにはいられなかった。


「……ど、どうしたのブラッド坊ちゃん? なんだか最近ずいぶん──はつらつと……しているねぇ……」

「えー? うふ、そう? だめかなぁ? だったらもーちょっと色気を出したほうがいい?」

「い、いや……色気って……」


 どこに向かってだ。客になのか。店主は、心の中で「ブ、ブラッド坊ちゃんどうしちまったんだろう」と首を捻っている。と、そこへ客が来た。気がついた少年は猫のような素早さで客のほうへ駆け寄って行く。


「うふふ、あ、いらっしゃぁい♡ また僕に会いに来てくれたの? ありがとう♡ で、今日は何を買ってくれるのぉ?」

「………………」※店主。


 急にあざと系男子に激変した少年こと、ブラッドリー(グレン)は、来店した婦人にニコニコと愛想よく絡んでいる。

 あらあらと満更でもなさそうなご婦人と少年とのやりとりを──口をあんぐりと開けありえないものを見るような目で凝視している店主を──窓の外からメイナードが見ていた。


「…………やりすぎじゃあ……」


 しかも今日のグレンは普段本物のブラッドリーならあまり好んではかない丈の短いズボンをはいていて。それも絶対にわざとである。※足見せたい。

 あれはおそらく本物(ブラッドリー)に知られたら特大の雷が落ちるやつだが、しかし。はたから見ると可愛い少年が店先で愛想と色気を振りまいているとあって──客からの評判はすこぶるいい。そのことに、目敏く感づいたメイナードは、無言で素早く計算する。ブラッドリーなグレンの本日の朝からの売り上げを。──老将の目が鷹のように光った。


(…………………儲かる)


 モンターク商店が。


 そこで老将は考えた。普段から、商店の親子、特にリード青年には、魔王ブラッドリーの精神安定剤として彼らはとても世話になっている。

 現在、グレンのキャピキャピした声に引き寄せられて、モンターク商店には次々客が入って来る。

 だが、実はここ最近、王都は王太子の一件のせいで沈みこみ、人々も購買意欲が湧かぬのか、モンターク商店の売り上げにも影が落ちていた。


(………………)


 メイナードは思った。ここは──この商機を逃す手はない。

 グレンに客寄せパンダをさせて一儲けして、リードたちに日頃の恩を返してもいいかもしれない。……まあ、後でグレンは怒られるかもしれないが──それは自業自得である。メイナードも、世話になっているモンターク家のためにならば、多少の叱責は耐える覚悟である。


「…………」


 と、いうわけで。意外に商売気のあった老将が沈黙することを決めこんで。モンターク商店にはブラッドリーなグレンの黄色い声が響き続けることとなってしまった。


「いらっしゃいませぇ♡ あ、おじさん今日も来てくれたのぉ? もー僕のこと好きすぎでしょ、あは☆ え? 今日はこれケースごと買ってくれるの? 嬉しいな♡」

「……ちょ、ブ、ブラッドぼっちゃ……」※店主。止めたほうがいいのかオロオロしている。

「……」※メイナード。戸惑いのあまり手が止まっている店主に変わり、密かに魔法で品物の補充を試みる。


 意外な商才を発揮する魔物のコンビであった。








…でも案外リードのためならブラッドリーも許すかもしれませんね。売り上げ次第で。

ちなみにグレンはあまり男女を分けて考えていないようです。


お読みいただきありがとうございます。楽しんでくださった方は是非是非ブクマや評価等していただけると書き手のやる気が出ます・:*+.\(( °ω° ))/.:+

よろしくお願いいたします!


誤字報告していただいた方、助かります、ありがとうございました。m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美化したエリノアになるブラッドリー…… かわいい愛想のいいブラッドリーになるグレン……… そしておかしくなったと心配する優しい周りの人達。 グレンくん、後できっちり怒られてください。 …
[一言] 流石はグレン!
[一言] これはグレン君頑張り過ぎととるべきかな。 役にたっているようでなにより。
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