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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
一章 見習い侍女編
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22 リードとヴォルフガング



 同じ頃のモンターク家の商店ではリードがそわそわしてた。

 それを見て、店内の掃除をしていた父が再び息子に呆れている。


「おいリード、落ち着け。嬢ちゃんがいいって言ったんだろう? 大丈夫だって」

「いやだけど……今まで病気で会えない時以外は俺たち毎日ブラッドの顔見て来ただろ? 本当にいいのか?」


エリノアに止められたものの、リードはブラッドリーが気になって仕方なかった。


「今日は他に看病してくれる知り合いがいるって言ってたんだろう?」

「いや、だけど……昨日も様子がおかしかったし……」


 欠かさずブラッドリーの安否を確かめて来たリードは、どうにも落ち着かない様子だ。棚の商品を整えながらも……時折エリノアの家の方角に視線を送っては、度々ため息をついている。そんな息子の様子をモンターク家の主人はやれやれと笑い混じりに見ている。

 そこへ、常連客がやって来た。

 帽子を被った初老の客は、主人とリードに気安い挨拶をかける。


「おはよう二人とも」

「ああ、おはようございます」

「いらっしゃいサイラーさん、いつものですか?」


 客が来た途端不安げだったリードの顔は、ぱっと笑顔に変わった。客が問いに頷くと、彼は身軽にその常連客が普段買っていく商品たちを集めに行った。テキパキした様子はいかにも商売人と言うふうである。

 戻って来たリードが笑顔で紙の袋に入れた商品を手渡すと、客は礼を言いながら、代わりに彼の手に代金を乗せた。


「ああそうだ。そこの家のブラッドリーの病気はもう治ったんだったかな?」

「え? いや……まあ今は特別悪いわけじゃないみたいですけど、元々身体自体が弱いですからね……どうかしましたか?」


 突然ブラッドリーの話題が出て、朗らかだったリードの顔色がさっと引き締まる。

 常連客は首を傾げていた。


「いや、以前あの子のお姉さんに、彼は喘息を持っていたと言うような話を聞いたような気がしたんだが。今、彼らの家の前を通った時、犬がね」

「犬?」


 客の言葉にリードの眉が動く。


「そう、白い大きな犬が家の窓を開けていてね。なかなか見ない大きな犬だったし、あまりにも器用だったものだから、思わず足を止めて見入っていたら、ジロリと睨まれてしまったんだよ」

「へえ、犬に? 嬢ちゃん番犬でも飼うことにしたのかな」

「なかなか賢そうな犬だったよ」

「ほぉ、そうでしたか」


 客とリードの父は、一緒になって感心したように笑っている。

 しかし、リードは笑う気にはなれなかった。

 彼もブラッドリーが幼い頃に喘息だったことを知っている。その後治ったのかは分からない、とエリノアも言っていたはずだった。


「大変だ……俺、ちょっと行ってくる!」

「おいリード!?」


 リードはエリノアたちの家へ急いだ。




「ブラッド! 大丈夫か!?」


 血相を変えたリードがバンッと扉を開くと──緑の瞳がきょとんと彼を見た。

 ちょうど居間のテーブルに着いていたブラッドリーは突然幼馴染が飛び込んできたことに目を丸くしている。


「リード?」

「うわっ!? でかっ!」


 リードはその現場を見てぎょっとしている。

 居間のテーブルで食事を取ろうとしていたらしいブラッドリーの傍には、もふっと巨大な犬の姿が。

 白い犬はきっちり前足を揃えてブラッドリーを見守っていたが、突然の来訪者にギロリと鋭い視線を送ってくる。

 と、ブラッドリーがリードに微笑みかける。


「おはようリード。これ有難う。昨日は食べれなかったから今頂いてるよ」

「あ、ああ、いや、ブラッド、大丈夫なのか? エリノアが前、お前は喘息だったって……」

「それで来てくれたの? 有難うリード。でも大丈夫、もうなんともないよ」


 心配そうなリードにブラッドリーは笑う。

 確かにその顔つきは、昨日の昼に見た時よりも格段に健康的だった。呼吸も特におかしくはない。それを見たリードは、良かったと思いつつ、その急激な変化に心の中で少し首を傾げる。

 と、ブラッドリーが傍の犬を指差す。


「この子はヴォルフガング。僕の犬」

「え? 犬を飼うのか?」


 この家の苦しい経済状況を知っているリードはまたもや首を傾げた。

 が、そうか、とリードは頷いた。


「なら、今度こいつにも何か持ってくる。ブラッド良かったな、大きな友達が出来て」

「うん、有難うリード」


 微笑むブラッドリーにリードは「ああ」と満足げに笑って返す。エリノア同様、リードもまた病に伏せがちのこのブラッドリーには基本甘い。それがブラッドリーの慰めになるならと、リードは己がこの巨大犬の食事代を稼ごう、と心に決めるのだった。まるで父性の塊である。


「……」


 そのほのぼのした青年たちのやり取りを、もふんと白いヴォルフガングは無言で見ていた。

 突然乱入して来た時にはどうしてやろうかと思ったが、その青年に危険はなさそうだった。

 ヴォルフガングには、人から発せられる気が見える。それによれば青年は爽やかさと優しさを兼ね備えたような空色の気をまとっている。先ほど主人が食べようとしていた食事も、微かに彼と同じ気配が漂っていて、それがこの青年によって作られた料理なのだと言うことが分かった。


(ふむ、陛下の肉体の維持に貢献している人間か……ならば、まあ、出入りを許すか……)


 しかし……どうにもこうにもお人好しそうな雰囲気がダダ漏れの男だな、とヴォルフガングは思った。

 ──と、その目がふと和らぐ。

 ヴォルフガングは感慨深そうにブラッドリーを見た。

 昨日も思ったが、姉や、この青年に向かい合う主人は、朗らかで、とても幸せそうだった。

 魔界で生きていた頃の王は、殺伐とした顔ばかりしていた。


「(……陛下、よろしゅうございましたね……)」


 ヴォルフガングは思わずほろりとした──時。


「よっと」

「!?」


 いきなりガッと抱きかかえられて、ヴォルフガングが目を白黒させる。

──リードだった。


「よしよし、大人しくしてくれよ……ブラッド、じゃあ俺、念のためにこいつ外で綺麗にしてくるわ」

「(な、何!?)」

「僕大丈夫だよリード、大変じゃない?」

「平気、平気。ああ、ブラッドはゆっくり飯食っとけ。ちょっと行ってくる」


 リードはヴォルフガングの巨体を持ち上げて、「やっぱ重いなー」と、意外に楽しそうである。

 ヴォルフガングは一瞬その腕から逃れようともがいた。が……それをブラッドリーに見咎められる。 


「(へ、陛下……!?)」


 ブラッドリーの視線は、微笑んでいるはずなのに、どこか鋭く刺すようにヴォルフガングを威圧している。


「……いい子だねヴォルフガング。リードに逆らっちゃ、駄目だよ……?」


 その視線は、逆らうなというよりは、間違いなく、「リードに何かしたら殺す」と言外に言っていた……

 

「…………」

「いやー、もっふもふだなぁ。まずはブラッシングか、犬用ブラシどっかにあった筈だけど、どこだったかな?」


 そんな一人と一匹の間に漂うピリリとした雰囲気には一向に気がつかず、リードは大人しくなったヴォルフガングを抱いたまま「お利口だなー」とか言っている。


「行ってらっしゃいリード」

「おー」

「……」


 ヴォルフガングは、にこにこしたブラッドリーに見送られ、リードに抱かれて連れて行かれた。



お読み頂き有難うございます。


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