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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
一章 見習い侍女編
18/365

18 動物のお腹はふかふか ※情報提供リード

 寝台から転がり落ちたエリノアに、その男──ブレアはにっこりと微笑む。

 その顔を青い顔色で見上げながら……エリノアの頭の中には様々な考えが巡る。


 身元が割れてしまったのか? こんなに早く? さすが王子仕事早い……いやいや、早すぎやしないか?

 いや、それよりも何故私の部屋に……今の奇行はなんだ?

 

 全身にいやな汗を感じながら、疑問の答えを得ようとエリノアはブレアの顔を食い入るように見つめた。

 その視線の先でブレアは──

 寝台の端に腰掛け直し、エリノアの驚くさまをさも愉快そうに眺めている。

 その表情はまるで、子供がイタズラが上手く行ったことを喜んでいるかのような……

 ひとまずエリノアの知る第二王子ブレアらしからぬものであることは間違いない。

 ブレアといえば、年中真顔か仏頂面で過ごしているような王子で……エリノアは笑っている顔など見たこともなかった。

 噂によると、国王や兄弟王子たちとの酒宴の席でも、その姿勢は崩れることはほとんどないそうだから……彼の無表情っぷりは筋金入りだ。

 エリノアは動揺しながらも思った。──こんなブレア様の様子を王宮の人達が見たら、皆驚いて引っくり返るのではないか──


「……あれ?」


 と、エリノアは不審に思って眉間にシワを作る。

 その愉悦に満ちた、にまにま顔を……ごく最近どこかで見たような気がして──


 ──と、そこへ──


「何事だ!?」

「ぎゃ!?」


 どばーん! と扉をはじき飛ばして──白い犬……ヴォルフガングが部屋に飛びこんで来た。

 四足で駆けて来た獣は、扉の前で腰を抜かしていたエリノアにぶつかって……止まる。


「!? 娘!? 今の叫び声は……」

「……重い……」


 大型犬ヴォルフガングを背に背負った形でエリノアが呻く。

 そんな一人と一匹を見て、ブレアは尚のこと寝台の上でけらけら笑って──……それでエリノアも確信する。


「……よいしょっと……」

「!? 何故背負う!?」


 エリノアはヴォルフガングを背に乗せたまま立ち上がった。

 そのまま憮然とした表情を、寝台のブレアに向ける。


「ちょっと……お宅の猫に言ってくれません? 変なイタズラするなって……」

「あれ? バレてた」


 睨まれた男は、途端噴出して笑い出す。

 その悪びれる様子のないブレア──グレンが、寝台に引っくり返って笑う姿を見ながら、エリノアはやっぱりと思った。

 昨日姿を変化させて見せた彼らのこと。他人の姿を借りることもできる訳だ。

 しかし、とエリノアは微妙そうな顔でブレア化したグレンを見やる。

 軽い調子で笑い、寝台の上でごろごろしている青年のさまはあまりにも、真面目な王子の姿とはそぐわない。


「……ちょっと、それイメージ問題ですよ……王子側から苦情が来ても知りませんからね……」

「あははははは」

「グレン! 笑ってないでさっさと元に戻れ!」

「えー、せっかく変化したのに。ねぇ姉君、」

「!?」


 次の瞬間、グレンはエリノアの傍に立っていた。

 瞬きした間に彼は彼女の隣に一瞬で移動していて……その人間らしからぬ動きにエリノアが驚いている。

 そんなエリノアにグレンは猫のようにすりよってくる。


「もっとイチャイチャしようよぉ、ね?」


 ぐりぐりと頬をよせられたエリノアは(ヴォルフガングを背負ったまま)思った。


「(……やっぱり、猫だな……)……いえ結構です。どうせなら猫でよろしくお願いします」

「やだ」


 ブレアなグレンは、きゃははと弾けるように笑い、その奇妙さにエリノアが押し黙る。


「……」


 エリノアは真顔になり、ふー……と長いため息をついた。

 先程は、いるはずのない人の登場と、異性に組み敷かれるという緊急事態に動揺したが……

 中身があれだと分かってしまえばこっちのものだ。


「ん? 姉君?」


 エリノアは(ヴォルフガングを背負ったまま)ぬっと両手を突き出して。笑いっぱなしのグレンを押した。──寝台のほうへ。


「へ? あれ?」


 そしてブレアなグレンをシーツの上に押し倒す。

 その行動には……グレンも、エリノアの背に乗ったままのヴォルフガングもキョトンとしている。

 エリノアは、真顔で金の髪の青年を見下ろすと……言った。


「……私、今まではブラッドの喘息があったから触れなかったけど……実は、猫が好きです」

「え、何」


 真顔で淡々と言われたグレンが、キモいと漏らし──た、途端。エリノアはグレンに襲い掛かった。


「よーしよしよしよし! こうか? こうですか!?」

「ひ!?」


 わしわしわしっと、青年の金髪を撫ではじめるエリノア。きゃー! とグレンが悲鳴を上げる。


「な、何を……」


 背中で見ていたヴォルフガングがおろおろしている。エリノアは冷静に答えた。


「聞いた所によりますと、猫は顎の下やお腹を撫でられるのがいいとか……ここですか!? ここですか!? さぁ、さぁ、さぁ!」

「ひゃははははは! やめてぇっ! くすぐったいって! 今っ、私猫の身体じゃな……! あははは!」

「ならば早く戻ったらいいでしょう!? ほらほらほら! そして存分に猫の毛並みを堪能させて下さいな! 喉がゴロゴロ鳴るって本当ですか!? 憧れなんですけど!?」

「…………」


 イチャイチャしましょう! と……叫ぶエリノア、くすぐられて悶え笑い転げる仲間に……

 ヴォルフガングは犬の顔ながら、真顔で引いていた。

「これが聖剣の勇者か……」と……思ったとか、思わなかったとか。





もふもふとのコメディパートばっかりですね、すみません(^_^;)





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