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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
三章 潜伏勇者編
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94 眠れる老将と弄ばれた白犬



 うっかり口はすべらせたくせに、エリノアは頑として口を割らなかった。


「こ、これ以上の失態は犯せない……姉さんには約束を守る義務が……!」

「…………」


 倉庫のすみに逃げこんで。追い詰められたネズミのような顔をしているエリノアを見て、ブラッドリーは「ちょっといじめすぎたかな」と思った。

 最初でこそ本気で聞き出そうとしていたブラッドリーだが、姉の反応がいちいち過剰なのが面白くて。それがあまりに可愛かったもので。途中からすっかり目的が変わってしまっていた。そして……ついついからかいすぎた。

 エリノアからすれば、邪悪な微笑みを浮かべて弟に問い詰められては、さぞ堪らなかったことだろう。

 だがともあれだ。この姉の半ギレ状態の頑なさを見る限り……彼女はまた何か変なことをやらかしたには違いないが、おそらく誰かを庇っているのだ。伊達に姉を偏愛し続けてきていないブラッドリーにはそれが手に取るように分かった。

 ふーんとブラッドリー。冴え冴えとした緑色の瞳は何もかもを見通すような色をして、姉の顔を見下ろしている。


「誰かな……僕の姉さんに庇われている小憎らしいやつは……チビたちかな……? それともコーネリアか……」


 目を細めてそうつぶやくと、後者の名を聞いた細い肩がビクッとこわばった。なんともまあ……分かりやすいことである。

 ブラッドリーは、本当に……頼もしいんだか間がぬけているのか……我が姉ながらよく分からないなと思った。

 だがまあしかし、その迂闊なところが姉の可愛げである。そして姉がこうなってしまうと、結局自分が折れてやらねばならないことをブラッドリーはよく分かっていた。

 ……で? と、ブラッドリー。


「僕に内緒で何をしたいの? メイナードが何? 彼の魔法を頼りたいの?」

「そ、その……」


 倉庫のすみで縮こまったエリノアは、だらだらと汗をかき……戸惑いがちにうんと頷いた。

 それを見たブラッドリーは、やはり呆れたように目を細めていたが……

 分かったとあっさり了承の意を見せる。少年はズボンのポケットからハンカチを出し、姉の額の汗をぬぐいとる。


「メイナードなら店の裏で寝てるよ。勝手に連れていって」

「え……いいの?」


 意外そうに見つめられて、ブラッドリーはため息をつく。


「……姉さんの様子を見る限りでは、絶対にろくでもないことなんだろうとは思うけど」

「う゛……」

「……まあいいよ。今回は目をつぶる。その代わり、無茶はしないって約束して」

「え……う、うん! わ、わかった」


 ブラッドリーの少し拗ねたような目に、エリノアは慌ててうんうんと頭を何度も縦に振った。

 その子供のような顔を見たブラッドリーは、本当に大丈夫なのかとかなり疑わしく思ったが……はぁと諦めたようなため息をもう一つ。彼は、此度は姉を詮索しないことにした。

 ──姉も、己の過去を深く詮索せずに自分を受け入れた。ならば自分も姉の隠したいと思うことを暴く訳にはいかない。


(…………だけど、今回だけだ)


 ブラッドリーは、慌てて倉庫を出て行こうとしているエリノアの後ろ姿を面白くなさそうに見送った。見過ごそうとは思うものの、心配でイライラはしているらしい。少年の影から不穏な煙が漏れいでている。


(……あーもう……男関係じゃないだろうな……)


 ……バッチリ男関係ではある。ただし、相手はソルだが。




 そんな弟に見送られたエリノアは、不思議そうな顔で首を傾げた。


「? ブラッド……なんで急に許してくれたんだろ……」


 弟は途中までかなり威圧的な顔をしていて。これは絶対口を割らないと離してくれないのではと、かなりの長期戦を覚悟したのだが。


「うーん……まあ、いいか……」


 弟とはあとで家でも話をすることが出来る。エリノアはとりあえず、今はとっとと面倒臭い男ソルの件を片付けようと思い直した。それに、リードに変化を目撃されたというグレンの一件のことも気になった。

 倉庫を出たエリノアは、今日はまだまだ忙しいぞと、足早に店内へ戻り、そこから店の裏側へ出る扉を開けて──


「メイナードさ──! ……うっわ!」


 そこにいるはずの老将の名を呼びかけたエリノアは、その光景を見て目をまるくする。


 ……扉脇の程よい日向。ゆり椅子に乗せられて眠っているメイナード。が……

 近所の子供たちに囲まれていた。

 子供たちはキャッキャッと楽しそうにメイナードの髭や長い眉毛を三つ編みにし、その先端に色とりどりのリボンを結んでいる。彼の膝の上で、しわがれた手に包まれた空の湯呑みには、そこらで摘まれたらしい草花がたくさんいけられている。

 ……その光景には……どうにかこうにか彼らをメルヘンに飾り立てようとした子供たちの心意気が垣間見えるのだが……可愛くされた老将の隣には……死んだ目をしたヴォルフガングが転がっている。

 魔将の耳と四肢としっぽにも、これまた可愛らしいピンク色のリボンが結ばれていて。それがあまりに屈辱だったのか、単に子供たちの相手に疲れただけなのか……魔将はピクリとも動かない。

 石畳にゴロンと転がりぐったりしている大型犬と、リボンや花の可愛らしさが相まって……

 なんともシュールな絵面にエリノアは思わず無言になってしまう。

 さらに──そこにはいつの間に合流したのかのんきな顔のテオティルの姿もあって。

 彼は子供たちが魔物たちをリボンと花まみれにしていく様を興味津々にながめていた。


「ほう……魔物たちが大人しくなっていますね……その紐は封印具か何かですか?」

「はあ? なに言ってんの兄ちゃん。ふういんぐってなに?」


 感心したふうのテオティルに……子供たちはキョトンと首を傾けていた。


「………………大丈夫なのアレ……」


 魔物として……とエリノア。

 あまりにものどかな老将たちの状態に唖然としてしまう。が、いや、アレこそが平和の象徴。理想の姿なのか……いやしかし……と、エリノアは人間と魔物の共存について深く考えさせられて──

 いたのだが。

 そのエリノアの背に……不意にトンッと何かが当たる。


「あ」


 ふっと振り返って仰ぎ見ると──重ねられた大きな紙の箱が目に入った。その向こうから自分と同じように「あ」と漏らす声が聞こえて──誰かの顔がこちらをのぞく。


「すみませ──……っ、……ノア……?」

「あれリード?」


 配達か何かから戻って来たのだろうか。店の表側から回って来たらしい青年は、大きな箱を腕に抱えている。しかし、彼はエリノアを見て……一瞬ひどく驚いた顔をした。






お読みいただきありがとうございます。誤字報告いただいた方感謝ですm(_ _)m


疲れると無性にメルヘンのんきなお話が書きたくなりますね。

…しかしこの1日は長いですね!?( ´∀`;)おそらくまだソルはトワイン家で転がされています…つ、続きを書かねば…


まあこんなメルヘンのんきな話ですが、応援してくださる方は是非是非ブクマや評価等していただけると励みになります。がんばります。

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