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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
三章 潜伏勇者編
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75 子猫のいる生活(魔物)

「姉上……甘いですよ……」


 ちみっと涙を目の下に光らせた毛並みがボサボサの黒猫は、エリノアの膝の上から恨めしそうな声で言った。


「え……?」

「あれ……あと四匹いますからね……」


 それを聞いてエリノアの手がギシッと止まる。

 背中の上で行き来していたブラシが急に止められると、げっそりして、エリノアにされるがまま毛並みを整えられていたヴォルフガングもノロノロと顔をあげた。

 エリノアの膝の上に逃げ込んだグレンの言う“あれ”とは、彼らの目の前を時折元気に駆け抜けていく黒い毛玉──彼の妹たち、マリーとマールとマダリンのことである。


 エリノアは居間の中を生きのいいピンボールのように跳ね回っているチビっ子たちを見て、愕然とした。


「よ……四!? あの子たちが……!? あと四匹!?」


 ──彼女がマリモっ子たちを家に置くことを決断したのが昨晩。

 そうして明朝を迎えた今。そう広くないエリノアの家はすでにしっちゃかめっちゃかにひっくり返されていた。


「あ、あの子たちがあと四……」


 自宅の惨状を前に、エリノアは思わず繰り返し、顔を引きつらせた。

 マリーたちマリモっ子は、人間の住まいがよほど珍しいのか……タンスに潜り込んでは引っかき回し、食べ物と見ればとりあえずかじってみて、石鹸もかじろうとしてエリノアを慌てさせ。カーテンを登ってやぶき、そして爪が引っかかったと言ってぴいぴい鳴く。

 そして救出してみたら……けろりとして次なる冒険へ飛び出していくのだ……

 窓ガラスも数枚割れたし、エリノアの服も何枚か雑巾になった。おまけに果敢に聖剣テオティルに喧嘩を売りに行こうとするので……エリノアは子猫たちに健康被害があるのではと、とてもハラハラした。

 可愛いが……ものすごく可愛いが……面倒を見る者はかなりの体力と根気を必要とされる。


「……子猫の体力ってすごいね……」


 エリノアはげっそりしながらグレンとヴォルフガングに言った。もちろんエリノアの髪がボサボサなのも、彼らの毛並みが荒れ狂っているのもマリモっ子たちのせいである。

 あの体力について行けなくて、ちょっと休憩しようかと現在三人はこうして呆然と散らかっていく部屋を眺めているのだが……子猫たちの勢いは衰えることを知らない。

 弟の面倒はずっと見てきたが、こんなに激しいチビっ子の世話は初めてだった。

 やれやれとエリノアは、カックリ頭を落としてうなだれた。

 ここにコーネリアグレースがいれば彼女たちを叱ってくれるし、片付けもしてくれるのだが……彼女は現在朝食の準備中。その間、妹たちの面倒をみなさいと母に命じられたグレンの顔があまりにも絶望的だったもので、仕事が休みのエリノアが手伝いを買って出たらこうなった。

 子猫たちは、とにかく元気が良すぎて手が付けられない。

 頼みの綱のブラッドリーも、『……ごめん姉さん……今日は朝からリードのところにたくさん荷物が届くから……』と、申し訳なさそうにモンターク商店の手伝いに行ってしまった。

 もちろんエリノアにとっても弟の仕事やリードが優先されるので、彼女も彼を気持ちよく送り出したのだが……


「……子猫の世話がここまで大変だとは思わなかった……」


 エリノアが呆然とつぶやくと、グレンが言った。


「騙されちゃいけません姉上……子猫って言っても妹たちは魔物です……」

「……そうだったね……」


 エリノアは膝の上のグレンの背をなでる。グレンも大変だな、と思った。

 すると黒猫はどこか哀愁を漂わせる顔で言った。


「よかったですよ……これでもまだ半分以下ですからね……妹たちが全員こちらに来るような事態になったら……」

「……そ、そうだね……ちょっとそれは……私も困るかな……」

「父がいればまだ統率が取れるんですが……」

「そ、そうなんだ、お父さんすごいんだね」


 それはそうか、なんたってコーネリアさんの旦那さんだもんねぇと、二人で揃ってため息をこぼしていると……ヴォルフガングが信じられないことを言った。


「やれやれ……小娘共は相変わらずだな……せめてまだ上の双子の妹たちの方が、分別があって良かったのでは?」

「えっ……!?」


 その言葉にエリノアが声を上げる。

 七匹のマリモに加えてまだ他にも妹がいるのかとエリノアが目を剥いて、膝の上にいるグレンを見下ろすが……

 それを口にする前に、黒猫があまりにも悲壮な──これまでに見せたこともないような顔面を見せたので……その言葉は喉の奥に引っ込んでいった。


「グ、グレン……?」

「…………それならまだマリーたち(マリモたち)のほうが百万倍マシです……上の妹たちは悪魔ですから……」


 ……いや、あなた悪魔(魔物)じゃないのよ……とつっこみたかったエリノアは……なんとかそれを我慢する。

 ……グレンに悪魔と言わしめる妹たちとはいったい……

 ものすごく怖かった。






お読みいただきありがとうございます。


誤字報告頂いた方ありがとうございました。分かりにくかったかな?というところを少し表現変えさせていただきました。※9月13日追記

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹が全員揃うのを早く見たいなー! まぁ、揃ったら確実にグレンは死ぬし家の中がカオスになりそうだけど
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