73 マリモな毛玉の正体は…
「や、やめっ、ひぃいぃいいっ」
エリノアが顔を真っ赤にして耐えていると……そこへテオティルがやってきた。
「こらやめなさい、小悪魔ども。私の主人様を離しなさい」
「あ、せいけんやろう」
「にげろ」
「ばーか」
テオティルがエリノアの傍まで来ると、“何か”たちはパッと散って行った。
そのままひと塊でサッと部屋の隅まで行くと、そこから固まってテオティルを睨んでいる。
ひとまず解放されたエリノアは、ホッと胸をなで下ろした。
「はー……く、くすぐったかった……ちょっと……グレン、大丈夫なの?」
抱えた黒猫におそるおそる問うと、グレンの青い目がじわわ……と潤む。
「あ、あねうえぇぇぇ……! あいつらが、あいつらが私をいじめるんですぅううう!!」
「……え、えぇ……?」
珍しく、自分の胸にすがって泣くグレンにエリノアがギョッとしている。と、そんなエリノアをテオティルが覗きこむ。
「大丈夫ですか主人様?」
「う、うん……それよりどうしたのこの子……それに……あの子たちって……」
エリノアは部屋の隅の毛玉たちを見る。
毛玉たちはまるで“マリモ”。大きさは子供の頭くらい。黒いフワッフワの“マリモ”に小さい三角の耳がちょんちょんと二つ。足はあるのかないのかも分からないほどに毛がもこもこだが、どうやら毛に埋もれているらしい。おしりの下にはピコッと短いしっぽがはえている。
「え、かわい、何、なんの生き物……?」
困惑したエリノアはテオティルを見るが……
──そこへあらあらあらと声がして奥の扉が開いた。
つつましい様子で現れたのは、コーネリアグレースだ。
「お帰りなさいませエリノア様。ごめんなさいねぇうちの子たちがやかましくて」
「へえっ!?」
コーネリアグレースの言葉に、エリノアがうちの子!? と、目を瞠る。その顔はすぐにハッとして、そういえば黒くて青い目だわ!? と、エリノアの目は、婦人と毛玉たちの間を激しく行き来した。
その間に“マリモ”な毛玉たちは、ササーとコーネリアグレースの身体によじ登っていく。
「かーさま」
「ゆうしゃに、あにうえをとられました」
「そうじゃないでしょう、お前たち。あんまり兄上をいじめるのはおやめ」
「だってぇ」
「それに“ゆうしゃ”ではありません。エリノア様です。無礼はおやめ、陛下の姉上なのよ。ブラッドリー様に毛玉の丸焼きにされますよ」
どうやらコーネリアグレースは子供たちを窘めているようだが……マリモ達はエリノアには興味がなさそうだった。
「そんなのしらない」
「あにうえであそびたい」
「あそびたい」
子猫たちは口々に不満をもらしている。
その様子には、コーネリアグレースもやれやれと頭を振っている。
「ごめんなさいねぇエリノア様。娘たちはまだ幼く分別がないのです。ま、グレンに面倒見させておけば大人しいですから大丈夫ですわ」──と、婦人が言うと、エリノアの腕の中でぐったりしていたグレンが唐突に「嘘だ!」と、ぴいっ! と泣いた。(※エリノア微妙そうな顔をする)
「ま、まあそれは置いておくとして……あ、あの……うちの子ってことはまさか……」
エリノアが恐る恐るきくと、婦人はええまあと頷く。
「はい、正真正銘この子たちも魔物ですわ」
「⁉︎ ⁉︎」
婦人の言葉にエリノアが、ガーンとショックを受けている。
「な、な……」
「おほほ。魔界で父親と一緒にいたうちの末の子供たちなんですの。えーと……マリーとマールとマダリンですわ。以後お見知り置きを。あ、母親の私ですら見分けが難しいので見分けていただかなくても結構です」
適当に呼んでやってくださいと笑うコーネリアグレースにエリノアは愕然としている。
「いや、でも……どうしていきなり……」
「それがねぇどうやらまたブラッドリー様がお呼びになっておしまいになったらしいの」
「え!?」
と、エリノアが驚いた顔をすると、そこへブラッドリーがやって来た。
「姉さん」
弟はニコニコ嬉しそうに駆けよってくる。ブラッドリーはなぜかエプロンを着ていて、手には皿が乗せられている。その上にはほかほか美味しそうなマフィンが山になっていた。
「お帰り、今ちょうど焼き上がったんだよ。疲れたでしょう? さ、早く手を洗って来てよ、早く食べて。あ、これはデザートなんだけど、今日は僕がご飯を作ったんだよ」
「え? あ、おいしそ、いや……そうじゃなくて……」
可愛い弟のにこやかな顔についついつられかかったエリノアだったが、ごめんその前にと、彼女はブラッドリーの身体を不安そうに点検している。
「ブラッド……大丈夫なの? あの、あの子たち……私、また何か怒らせるようなことした……?」
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