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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
三章 潜伏勇者編
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66 ブレアとエリノアのお茶会①

 


「……」


 サロンの中に立っていた男は……エリノアを迎えた瞬間──わずかにあとずさった。


「殿下、お待たせして申し訳ありません! お招きいただきありがとうございます!」


 現れたエリノアは、ブレアを見ると本当に嬉しそうに破顔した。──やっとブレアにたどり着けたという安堵が強く表れた表情だった。


 ここに来る直前。笑い方の下手なソルのせいで、若干気落ちしてしまったエリノア。

 なんとか持ち直せたのは、ハリエットたちのおかげだ。

 あの天女のような王女様と、天使のような彼女の侍女さん(※ブラッドリー)が「よく似合っている」と褒めてくれたのだから──と。ソルの反応は気がかりだったが、今から王子の御前に上がろうという時に暗い顔はしていられない。

 それに……正直な話、エリノアにとっては、訳のわからない書記官殿よりも、理想的可憐乙女ハリエットのほうが格段に信用に値するのは間違いがなかった。


 エリノアはサロンの中で待っていたブレアの前まで歩いて行くと、緊張した面持ちでスカートをつまみ、腰を落として淑女の礼をとる。いつも以上に丁寧に。


 ブレアにも王国にも……自分が聖剣を抜き逃げしたせいで本当に迷惑をかけていると思う。だからこそ、そのせいで苦労しているブレアには、自分の力でほんの少しでも寛ぎの時間を作らせてもらいたかった。


(……なんて……自己満足かもしれないけれど……)


 そんなことを考えながら──お辞儀した頭をゆっくりと上げようとして──エリノアはハタと思った。


(──でも──そもそもブレア様は女の人の装いなんてあんまり興味もなさそうじゃない……?)


 いくら自分を“お姉さん”だと思ってくれているとはいえ(※はなはだしい勘違い)、侍女が着飾っていようが、メイド服を着ていようが……あの真面目の権化のようなブレアが気にするだろうか。


(下手したら……『色が違う』くらいにしか認識されないんじゃ……あ……それはそれでなんだか着飾って化粧までした手前恥ずかしいような……)


 うーんどうなんだろう……と思いながら……エリノアは頭を上げて──


 が……。


「?」


 挨拶を終えて。

 主人を見上げるも──ブレアからは、なんの反応も帰ってこない。

 あれとエリノア。


「? ……ブレア様?」

「…………」


 精悍な顔の王子は、硬い顔のまましぃんと静まり返っている。エリノアの戸惑う声にも反応がない。いや……手が上がった。


「…………待ってくれ……着……着替えて来たのか……?」

「あ──……はぃ……」


 ブレアの問いで、彼の微妙な反応が自分の姿に向けられたものなのだと分かったエリノアはたじろぐ。

 やはり──先ほどソルが奇怪な顔面で示していた(※示してない)通り、自分の格好はおかしいのか。

 それともわざわざ着替えてくるなんて張り切りすぎだと暑苦しく思われたか。エリノアの顔がカッと赤面する。


「あ、の……わたくしめ……メイド服では失礼にあたるとのことで着替えさせていただきました……が……あの……派手でしたか?」

「い、や……そんなことは……」


 いたたまれない様子で自分を見上げる娘に、ブレアは言葉を濁す。


 どうやら彼は……エリノアが、身なりを整え直してやって来るとは少しも聞かされていなかったらしい。おそらくオリバーのサプライズ的陰謀か……ソルのうっかりといったところであろう。

 てっきりいつものメイド服のままで来ると思った娘が、化粧までして現れたことに、ブレアは大いに戸惑っている。(なんか時間はかかってるなと思っていた)←オリバーにそんなもんですよ〜と言われる)


(ぅ……)


 ブレアはエリノアを改めて見る。

 薄く白粉をほどこされた肌はふんわりと柔らかそうで。唇と頬はほんのりピンク色。その淡い色を見ていると……頭のどこかが焦げつきそうに熱い。

 本来なら苦手なはずの化粧品類の香りがひどく好ましく感じられて呆然とする。

 下された髪はふわふわと揺れていて。一瞬触りたい衝動に駆られ──……


(ぐ……)


 ──途端、ブレアを羞恥という名の精神ダメージが襲う。


 ブレアは思わず苦悶の表情を浮かべた。

 ──派手なんてとんでもない。服も化粧もほどよく清楚にまとめられている、その──ハリエットプロデュース(協力・魔王ブラッドリー)のエリノアは……どうやら、かの王女が目論んだよりもはるかにブレアにつき刺さっていた。(「あら、してやったりね(微笑)」byハリエット)


 ──ブレアは思った。せめて……せめて予告していてくれれば……

 そもそも今日は、不可解にもエリノア を『姉上』などと呼んでしまったばかりで。そこからしてもう格好のつかないことばかりでなのである。その上こんなに動揺していては、二人で茶会など、耐えられるのだろうか。


 こわばった顔の王子は、ふと、出入り口付近で素知らぬ顔をして警備をしていたオリバーと目が合う。

 騎士はブレアの視線に気がつくと、口の片端を持ち上げてニヤニヤしている。あれは……どう見ても、エリノアが着飾ってくることを事前に知っていた顔だ。


(あ……あやつ……)


 ……と、いう顔で、己を恨めしそうに睨むブレアに……熊騎士は噴き出したくてしょうがない。

 王子がエリノアの着飾った姿を見たのは二度目のはず。それなのに相変わらず律儀に動揺しているブレアがおもしろ可愛くて仕方がない。が……ひとまずそれは堪えて……

 オリバーは目と手振りとで王子に訴える。


 HO・ME・RO! ……と。


「!?」


 その指令にブレアがギシっと全身を軋ませている。

 つまり……熊騎士は装って来た娘を褒めてやれと信号を送って来ているわけだ。

 なんでもいい。褒めてやれと。


(照れてる場合ですか!? それでは何も伝わりませんよブレア様!)

(ぐ……)


 もちろんブレアにも、オリバーの言う通りだとは分かっている。しかし──着飾って来てくれた娘に賛辞を贈りたくても……その姿を視界に入れるだけで動悸は急激に上がった。まともに話せる気すらせず……ブレアは途方に暮れている。






お読みいただきありがとうございます。

長くなったので分割します。


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