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侍女なのに…聖剣を抜いてしまった!  作者: あきのみどり
三章 潜伏勇者編
133/365

50 エリノアとソル。

 


 ソルは険しい顔で黙りこんだ。

 その手にある仰々しい書筒には、ブレアからエリノアに宛てた文(※ソルとりまとめVer. )が収められているのだが……


 おそらくその宛先だろう黒髪の娘は——現在、不審者を見る目でソルを見ていた。

 動揺しているのか、娘の構えられた拳はブルブルと震えていて……

 ソルは怪訝そうに首を傾げる。


(…………どういうことだ。容姿の特徴から判別するに、この女人はタガート将軍の養女エリノア・トワイン嬢で間違いないはずだが……)


 宮廷勤めであるソルは、棟も敷地も違う王宮勤めのエリノアとは面識がない。先日行われた舞踏会にも彼は出席していなかった。

 ゆえにソルは“エリノア・トワイン嬢”の容姿の情報を、かなり詳細にブレアから聞き出してきたつもりだったのだが……


 ——それはつい先ほどのこと。

 ブレアの執務室で、ソルが令嬢はどんな方ですかと聞いた時、ブレアは表情も変えず言った。


『愛らしい』

『……………………。ブレア様、それではおそらく私にはエリノア嬢は判別不能です』


 キッパリとしたブレアの言いように一瞬無言になったソル。

 色々と思うことはあったが、しかし、『愛らしい』だとかいう、思い切り主観に左右されそうな情報だけではどうしようもない。青年がもっと詳しく情報が欲しいと願い出ると、ブレアは少し首を捻って……

 しばし考えるそぶりを見せてから、彼は——不意に、小さく微笑んだ。


『!』


 その、あまりに珍しい表情に——ソルが思わず息を吞む。

 王子の表情は柔和で……とても幸福そうであった。

 普段は鋭さしか感じさせない瞳は、まつ毛の一本一本にまで優しさが宿っているかのようにさえ見えた。

 目撃したソルは、そのまま言葉をつぐんだが……ブレアはそんな配下の驚きに気がつく様子もなく、一つ一つ思い出すような口調で語った。


『……そうだな……頭髪は漆黒で二つに分けて結われている。瞳はいきいきと鮮やかな緑。額が綺麗な形をしていて愛嬌がある。頬はふんわりと丸かった。身長は——』


 スラスラと続けられる王子の言葉に聞き入っていたソルは……すっかりブレアの幸せそうな様子に感じ入ってしまう。令嬢の特徴を書き留めようと手にしていた用紙がぶるぶると震えた。


 ——そうか……ブレア様は、こんなにもエリノア嬢のことが……!

 ——これはきっと……幸せなご夫婦になるに違いない……!


 ——と確信した青年の思考は早々と飛ぶ。感動するソルのまぶたの裏には、もはやブレアとまだ見ぬエリノアとの結婚式の様子までがまざまざと浮かんで……


 ……いたのだが。

 そんな彼は知る由もない。

 ブレアの口から『愛らしい』だとか『ふんわり』などという、およそ彼らしからぬ形容詞の連発に——彼らの背後では、騎士トマスらが黄色い悲鳴(野太い)を上げ悶絶していて……

 さらには、オリバーが腹を抱えて爆笑しているなどとは——

 真面目青年はまったく気がつかなかった。


 しかしともかく。

 そうやって知らぬところで大爆笑されながらも……三十項目ばかりの娘の特徴をしっかり暗記し、ソルは王子の幸せを願い、勇んで城下に降りて来たのだった。



 ——ところが……


 教えられた娘の住まい周辺で……ソルはそうそうに特徴に合致しそうな娘を見つけたのだが——

 その娘は、彼の目の前で、見知らぬ男の腕に自分の腕を絡めて……何やら楽しげに語らっていた。

 そんな男女の親密な様子に……衝撃を受けたのはソルだ。

 彼はすっかり王子と娘の間には、公式にはされていないが、なにがしの結婚の約束がなされているとのだと思いこんでいて……まるで、浮気現場に居合わせてしまったような気持ちになっていた。

 脳裏には、幸せそうに“エリノア嬢”について聞かせてくれたブレア王子の顔が浮かび——……令嬢を夢に見てしまったと言い気恥ずかしそうにしていた様子が浮かび——……


 気がつくと——

 ソルは娘たちに向かって怒号をあげてしまっていたのであった。


 

 そうして娘に怯えたような目で見られたソルは、先ほど彼女が言った『ないですけど』発言に困惑して……

 向かい合った両者の間には、ジリ……ッとした沈黙が流れる。


 と、そこでソルはハッとした。

 そういえば——己は彼女に本人確認すらしていなかった。


(……! そうだ……もしかしたら人違いかもしれないではないか——)


 きっとそうに違いないとソルは安堵する。娘の容姿はかなりの部分でブレアの言った特徴と一致するが、似た者がいないとも言い切れない。

 そもそも王家の婚約者(誤解)たる令嬢が、別の男と親密そうにしていること自体あり得ないではないか。

 そうか、これは失礼なことをしてしまったと青年は、姿勢を正し、ピリッと緊張感漂う顔でエリノアに一礼する。


「失礼、申し遅れました。私はソル・バークレム。第二王子殿下付きの書記官です」

「え……」


 丁寧に挨拶されて、ぽかんとしたエリノアの拳がやや下がる。

 隣でリードが驚いたような顔をした。


「ブレア様の……?」

「王子様付き書記官……?」 


 “書記官”と言えば、難関試験を突破した宮廷の事務方。しかも王子付きともなると、相当優秀な人材ということになる。


「左様です。突然失礼をして申し訳ありません。人を探しておりまして……どうやら早合点してしまったようです」

「は、はあそうでしたか……」


 落ち着いた様子で礼儀正しく謝罪されたエリノアは、おずおずと頷く。

 ソルは下げていた頭を上げると、エリノアたちに問う。


「それで……ご存知でしたら教えていただきたいのですが、この辺りにタガート家ご養女のエリノア・トワイン嬢がお住まいだと——」

「え……? …………エリノアなら……私ですが……」


 ……と、エリノアが戸惑ったように答えた——瞬間。

 ソルの和らいでいた瞳がカッと見開かれる。


「やはりそうなのではありませんか!」

「ぎゃっ!?」

「あなたは……ブレア様というものがありながらどうしてみだりに別の男に触れるのですか……!? 腕を組み身体を密着させるなど言語道断! これは……婚約解消にもつながりかねない事件ですよ!」

「……じ、じけん!?」


 エリノアが思い切りドン引いている間に、ソルは続けざまにたたみこむ。


「ブレア様がどんなにお嘆きに——!」

「ご養父たる将軍にも迷惑が——!」

「なんという軽率な——!」

「え、え……!? えぇぇ……」


 驚いたのはエリノアだ。

 この人は、突然現れていったい何を言ってるんだと訳が微塵も分からなかった。

 戸惑っている間にも憤慨しているらしい青年は、次から次へと捲し立てていくしで……エリノアは、混乱の渦に叩きこまれていく。


「……っ、何言って……こ……婚約……こんや、く…………!?」

「ノ、ノア、大丈夫か!? ちょっとあんた……」


 困惑して次第に追い詰められていく様子のエリノアに、リードが慌てて二人の間に割って入ろうとするが——遅かった。

 逃げ場に窮したネズミ——いや、エリノアは、ソルの猛攻に、ついにプツンといってしまう。

 その足がダンッ……と、地面を踏みつけて……


「だ……黙れこのエリートめっっっ! ちょっ……人の話聞きなさい!!」


 キャシャー! と、突沸したエリノア。ソルに向かって威嚇を開始。


「……!」


 その顔を見て、一瞬ソルの動きが止まる。

 ……が、


 冷静な青年は、嘆かわしいと言いたげに目を細めただけであった。


「……なんというお顔ですかお嬢様……いけません、そんなに白目を見せないでください」

「な、なんだと……?」


 ソルの冷静な返しにエリノアが更に目を剥いている。

 青年はエリノアの激高をものともしなかった。


「そのようなおかしな力み方をしては眼球を痛めます。眼病でブレア様を悲しませるんですか?」

「…………」


 一瞬呆れすぎてクラリときたエリノア。

 どうやら……男性陣から偏愛的な人気を集めるブレアの陣営から……また、変な奴が派遣されてきたらしい……とは、なんとなく分かった。


(さ、さては……騎士オリバーのまわし者だな!?)


 騎士にとってはまったく心外な思いこみではあるが……そう熊騎士を思い出したエリノアは……歯がみして地団駄を踏む。


「っ! ブレア様の周りには、どうしてこう……変な側近が多いの!?」

「……お嬢様埃が……スカートがめくれます。おやめください」

「な……なんなんだこの人……えーい! スカートに触らない! そんなことする前にちゃんと事実確認しろ! 私はブレア様の婚約者じゃありません!」


 地団駄を踏んだエリノアのスカートを、そ……っと、なおそうとするソルに、エリノアが憤慨する。

 と、その言葉に、エリノアのスカートに舞った埃をはらい、形を整えようと地面に片膝をついていたソルは……

 その姿勢のままエリノアを見上げる。


「…………変ですね……」


 怪訝な顔をする青年に……

 エリノアはとても「変なのは……お前だ!」……と、指先を突きつけてやりたかった……








お読みいただきありがとうございます。

書き手が話を愉快にしたいがために…全然ストーリーが進んでない感がしますね…( ´ ▽ ` ;)

でもラブコメ(のつもり)だし…エリノアは勇者だけど、冒険はしません!

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪意もなくイタズラでも無いのに…むしろ、だからこそグレンよりタチ悪くない!?権力もそこそこあるわけですし。 ハリセンでぶっ叩いても許される気がしますが…うん、解決しないまま、おニューな魔族が…
[良い点] 黄色い悲鳴(野太い) [一言] 会社の休憩時間に読んではいけなかった。。
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